どの工法を選ぶかで、施工管理技士の技量が決まる!
いかに安全かつ安価な工事方法を選ぶか?
大きな現場になればなるほど、その判断が施工管理士の腕の見せ所と言えるでしょう。
そんな工法の選定について、いつもとは違う工法でチャレンジするのも価値があるのではないでしょうか?
河川隣接地における掘削工事の恐怖
16年前、SRC造14階建て、88戸の分譲マンションを工事した時のことです。
この建築地のすぐ脇には、2級河川が隣接していました。
新築する分譲マンションは、半地下の駐車場が計画されていたため、敷地の3分の2がGL-5.5m~4.5m、残り3分の1がGL-1.4mという掘削工事を予定していました。
入札時の見積りでは、敷地現状およびボーリングデータで常水位GL-3.5mとなっていたため、河川側の敷地境界3方に連続壁を計画。連壁工事予定範囲の一部には、新築住宅が隣接している部分が10m程あり、この付近の工事も注意が必要だと感じていました。
建築地の概略は、下図の通りです。
現場概略図 河川隣接地におけるマンション建築工事
隣地の工事担当者からヒアリング
落札後の施工検討会で、やはり話題に上がったのは、河川のすぐ隣の現場だという事。果たして、どれだけ工事に影響が出てくるのだろう・・・。
そんな心配をしていると、ある筋から「取引業者が建設予定地の近くでマンション工事をした経歴のある人を知っている」という話が持ち上がりました。
その現場というのは、今回の建設予定地の、道路を挟んですぐ隣に位置するRC造10階建てのマンション(上図「前例の建物」)。なるほど、これは是非とも話を聞いて、わが工事の参考にしたい所です。
ユンボで試験掘削
さっそく当時の担当者にコンタクトを取り、直接話を聞く機会を得たのですが、その人によれば、地下工事はなかったものの、エレベーターピットの掘削工事をする時、かなり水替えが大変だったという話でした。
今回の建設地よりも河川から離れている現場であるにも関わらず水が湧いたという事ですから、やはり大掛かりな工事になるのは避けられないのか・・・と感じました。
しかし、その一方で、河川に隣接しているとはいえ、深さ5m程度の掘削に、本当にこの工法が必要なのか?という疑念も払拭し切れていませんでした。
何事も自分の目で見てからでなければ信じない性格なのと、今までの経験から得た、ある種の勘が働いたのかもしれません。
少々悩みましたが、着工日まで少しだけ余裕があったため、試しにユンボで試験掘削をしてみることにしました。
親杭横矢板工法への変更
敷地の中央に約GL-6mの穴を掘って数日放置。さて、どれだけ水が湧くだろうか・・・。
4日後。意外にも底面には10cm程度の水たまりが出来ているだけでした。これは、もしかしたら大掛かりな連壁工事をしなくても行けるのではないかという気持ちが湧き上がりました。
悩んだ挙句、作業所長として、山留工事の変更を決断しました。最もよく使われている安価で実用的な工法「親杭横矢板」を採用することにしたのです。
しかし、さすがに新築住宅が隣接している部分は慎重さを必要とすると判断し、合わせて薬液注入も行うことにしました。
掘削工事で1000万円削減
さて水替えは、横矢板からの出水はほとんどなく、掘削面からの湧水のみ。部分的に2インチ水中ポンプ、釜場に4インチ水中ポンプ2台による排水のみで対応できました。
この工法での掘削工事は無事に成功し、実行予算を1000万円程削減することが出来ました。もちろん自己の判断で決断したわけですから、自身の進退も掛けていましたので、15日間の工事が無事に終わったときは感無量でした。
施工管理の仕事だけではないと思いますが、常に新しいものを取り入れていく好奇心や、チャレンジ精神というものが、何歳になっても大事だなと常々感じています。今はスマートフォン等で、インターネット上の知識が簡単に手に入る時代ですが、その内容は浅い物から深いものまでピンキリです。どの情報を信じて良いのか判断できるよう、やはり関連書籍を読んだり、経験者の話を聞いたりすることは重要ですし、自分にとって、とても良い刺激になるものです。
余談ですが、この掘削工事がうまくいった事により、当初予定されていた随時の施工検討会はなし崩しになり、自分の判断のみで工事方法を決めることが出来るようになりました。通常では駄目なのでしょうけれど、煩わしさが解消されたというオマケ付きです。
何事も先入観に囚われずに試してみるのも、たまには必要なのかもしれませんね!