意匠権侵害を争った、株式会社アールシーコアの「ワンダーデバイス」の例(左)と、被告商品の例

【日本初】”意匠権侵害”を巡った「住宅デザイン模倣裁判」の裏側

住宅デザイン再考のキッカケとなる画期的な判決

「BESS」ブランドで個性的な木の家を販売する住宅会社 株式会社アールシーコアは、鳥取県の住宅会社に対し、住宅のデザインの類似を理由として東京地裁に提起していた。昨年11月、判決が言い渡され、アールシーコア側の勝訴の判決となり、意匠法上の住宅デザイン模倣を認めた国内初の判断となった。

アールシーコア社長室広報企画の吉田忠利氏は、この裁判の意義について、「住宅デザインの意匠権について国から明確に判断が下った画期的な判決となった。今後、住宅業界全体で意匠権の意識を高めていくべきだ」と語る。

吉田氏に今回の裁判の経緯や、今後の住宅デザインの在り方などについて話を聞いた。

ログハウスが持つ非日常感を、日常で楽しむ

アールシーコアの社長室広報企画の吉田忠利氏

――まず御社の概要からお願いします。

吉田忠利氏(以下、吉田氏) 当社の社名はアールシーコアですが、ブランド名は「BESS」と言いまして、『「住む」より「楽しむ」』をスローガンに、ログハウスをはじめとした木の家をお客様に提案しています。もちろん、家は住むものではありますが、それだけではなく「楽しい暮らし」を提供したいという思いから生まれたスローガンです。

ログハウス事業を始めたきっかけは、1986年にBESSブランドを立ち上げた当時、バブルに向かう時代でしたので、別荘市場も日本に根付くと考えたからです。その後、バブルははじけてしまい、別荘市場も萎んでしまいましたが、ログハウスの持つ非日常感を日常で楽しんでもらうことに方針を切り替え、「自宅用のログハウス」を1990年代前半に開発しました。

BESSのカントリーログハウス

バブルの崩壊により、結果として、人々の価値観も”イケイケ”から地に足がついた暮らしに転換し、また自然や健康志向を大切にするようになりました。一時期、シックハウス症候群により、健康に良くない建材を使った家が社会問題になりましたが、ログハウスは無垢材を壁床、天井に使っているため健康住宅で、時代にも合っていました。

こうした背景もあり、おかげさまで順調に業績を伸ばし、現在、ログハウス市場のシェア6割を確保しています。また、個性的な5つの住宅シリーズも展開し、この30数年で累計2万棟を達成しました。

「不競法」ではなく「意匠法」が争点に

――日本で初めて「住宅デザイン模倣裁判」で勝訴判決がありましたが、その経緯は。

吉田氏 当社が展開する5シリーズの中に「ワンダーデバイス」という商品があります。その個性的なデザインにより、意匠権で保護されているのですが、被告である鳥取県の住宅会社が「ワンダーデバイス」に類似した住宅のWEB広告を掲載しておりました。

当初、認知していなかったのですが、この広告を見た当社のお客様が「ワンダーデバイスと似ていますが、BESSのグルーブ会社でもなく、FC(フランチャイズ)でもないようです。私はBESSの家に住んでいて、デザインに大変思い入れがあるので、気になっています」と当社へご連絡いただいたことがきっかけに知ることになりました。

その後、当社も現地へ赴き、「意匠権も所得しているので、販売はやめてほしい」と申し入れましたが、返事をいただけなかったため、東京地方裁判所に訴訟を起こしました。

意匠権侵害を争った、株式会社アールシーコアの「ワンダーデバイス」の例(左)と、被告商品の例

これまで、「住宅」においてはデザイン模倣を認めた判決がありませんでした。某コーヒーチェーン店の店舗外観と類似している喫茶店が、不正競争の防止を目的として設けられた不正競争防止法(不競法)上に該当することが認められ、最終的に和解に至ったケースがありましたが、 今回の訴訟は「不競法」ではなく、「意匠法」の観点から争われました

結果として、物品の用途及び機能が同一の関係にあり、物品の形状等についても類似の関係にあるとして、その販売等の行為が「意匠権侵害」に当たると判断された画期的な勝訴判決となりました。

――裁判の結果を受け、いかがでしたか?

吉田氏 まず何より、「BESS」のブランドや価値を認めていただいているお客様、なおかつ契約されているFCを守ることにこの判決に意義があったわけです。さらに、広く言えば、国民の皆様にとって住宅デザインに関心を持ち、住宅購入する際にデザインを考慮するきっかけとなってほしいという思いもあります。

住宅業界では、「工業的に量産可能な住宅(「組立家屋」)は意匠法の保護対象である」ことの認識が薄いことも事実です。結果として、住宅建設業者や建築主が安易にデザイン模倣を行っているケースが多く見受けられます。

お客様に「なぜBESSを選んだのですか?」とアンケートを取ると、一番は「外観デザインが気に入った」という回答だったのですが、住宅会社にとってデザインはブランド構築に大きく寄与しているんです。日本において、住宅デザインの重要性が認められたことは、住宅業界やそのお客様にとっても画期的であると受け止めています。今後、住宅業界全体で意匠権の意識を高めつつ、各社がデザインを競うことが望ましい在り方だと思います。


ログハウス事業をFCで全国展開

――裁判の争点となった「BESS」の挑戦的な設計・デザインはどこから生まれた?

吉田氏 設計で大切にしていることは、オープンに開かれた住宅とし、便利さは”ほどほど”であることです。最先端の設備を一番に追うのではなく、本当の意味で人間的な暮らしをする上で必要なものをまず考えるわけです。

「ドレスアップよりもドレスダウン」という言葉がありますが、あまりにピカピカな家だと緊張感も走ります。私たちが家づくりで”NG”だと考えているものは、家に緊張感を持ち込まないことなんです。

BESSシリーズの一つ、倭様「程々の家」

――施工はどのように?

吉田氏 直販であれば当社が設計・施工しますが、FCによる施工では本部の技術スタッフとFCの各社の技術部門と打ち合わせし、年4回会議を開催します。場合によっては、本部の人間が現場で指導することもあります。

ログハウスは、製材した建材を水平に積み重ねて壁をつくっていく工法で、国土交通省では「丸太組み工法」と呼んでいます。単純な構造なので、1980年代に日本にログハウスが入ってきた頃は、好きな人は自分で組み立てていたりもしましたね。

北欧では千数百年前のログハウスが現存していたり、日本では奈良の「正倉院」もログハウスと同じ構造です。この歴史ある工法を、現代風に改良して提案しています。

施工の様子。屋根パネルの設置

――FCの実績は?

吉田氏 全国に40拠点あり、その中で25拠点がFCで、参加会社数は18社です。そして、直販が3拠点、子会社が12拠点です。基本的に地域工務店やゼネコン、建材会社らとFC契約しています。

――地域ゼネコンもログハウス事業に参入するのは、市場開拓の意味合いが大きい?

吉田氏 そうですね。そもそも、ログハウスの市場がもともと日本には存在していなかったわけですが、そこから市場を創造してきた経緯があります。この理念をFCの方にもお伝えしています。昔は当社も無名でしたが、最近ではBESSのブランド名もアウトドア派、自然派の方々に知っていただき、地域ゼネコン・工務店がFCに参加する動機にもなっています。

ただし、こうしたブランド理念のもとに、加盟料をいただかない代わりに、BESSの暮らしや世界観を表現するモデルハウスの展示場を1社単独で展開いただくことと、BESS専任の体制をつくっていただくことを加盟の条件としています。

“行き過ぎた機械・現代文明”に疑問を持つ顧客がターゲット

――ログハウス事業の展開には、ブランド戦略が重要となると思うが。

吉田氏 今、展示場のお話が出ましたが、当社では展示場という呼称を止めて、「LOGWAY」と呼んでいます。これは、何社もの住宅が立ち並んでいるようなただの展示の場ではなく、実際にBESSでの暮らしを体験できる場であってほしいからで、先ほどお話した1社単独での展示場を展開いただく理由でもあります。

東京・昭島市の「LOGWAY 多摩」

一般の住宅メーカーは住宅の購入を検討している方をターゲットにしているようですが、当社は住宅自体を購入検討していることは関係がなく、”行き過ぎた機械・現代文明に疑問を持つお客様”をターゲットにしています。今は振り子が合理性や西洋文明へと揺れていますが、日本の価値観で再構築していく感性を養うことを主として考えているんです。つまり、「BESSの住まい方」に共感してくださる方が購入されていますので、無駄な競争も生まれません。

こうした理念を広く伝えていく上で、当社には「LOGWAYクラブ」という「いつかはBESSの家で暮らしたい」という方に向けたファンクラブもあります。実際にBESSを利用されているお客様が「LOGWAYコーチャー」となり、BESSの購入を検討しているお客様に向けて、暮らす上での疑問に答えたり、暮らしの楽しさを直接伝えていただいています。1万円の年会費をいただいていますが、会員数は増え続けています。

LOGWAYコーチャーがBESS購入希望者の疑問に答える

テレワークの普及により、必ずしも通勤に便利な場所に住まなくとも良いという考えも出始め、それならば木の家に住みたいという自然派の潮流も深まっていますから、「BESS」のブランドミッションである「ユーザー・ハピネス」の実現に向け、一層取り組みを強化していきたいと思います。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「施工図チェック」で失敗~裁判沙汰を避けるための自己スキル診断(初級編)
「キンキンキンボココココココキンキンカンッ!」新築瑕疵マンションへの愛
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
モバイルバージョンを終了