木造中高層複合ビル「湘南MIYU海友プロジェクト」の外観

木造中高層複合ビル「湘南MIYU海友プロジェクト」の外観

「地産木材を使い、湘南の海を守る」 “湘南初”の木造中高層ビルプロジェクトが始動

地産木材を使った”湘南初”の木造中高層ビル

「湘南乃工務店」の商標のもと、”湘南らしさ”を大切にした戸建て住宅を追求する富士リアルティ株式会社。本社のある神奈川県藤沢市は、人口減少時代にも関わらず人口増が続いており、人気の高いエリアだ。

今回、富士リアルティは湘南では初めてとなる環境配慮型で木造中高複合ビルをプロデュースすることを発表した。工務店単独ではなく、地域の会社や人材をチームとしてとりまとめ、神奈川県産木材を使って施工を進めていく。

「地産木材を使うことで、湘南の海の水源となる森林整備に貢献したい」と語る、富士リアルティ株式会社の永松秀行社長に、プロジェクトの詳細を聞いた。

「海と木と自然の融合」がコンセプト

富士リアルティ株式会社の永松秀行社長

――今回発表した、環境配慮型の木造中高層複合ビルプロジェクトの内容は。

永松社長 1階から4階まで木造建築による延べ床面積300m2超の中高層複合ビルとなります。場所は藤沢駅から徒歩11分ほどにある藤沢市大鋸で、規模・用途・高さ(階数)ともに、国産・地域産木材を活用したものとしては、湘南地域では初めての試みとなります。プロジェクト名は「湘南MIYU海友プロジェクト」と名付けました。

複合ビルは、1階に店舗や地元企業のオフィス、2階から4階は居住用賃貸として入居を斡旋する予定です。また2階スペースは事務所やコワーキングスペースとして使用できるようにして、若手の起業家を中心に安価で誘致することで、地域の活性化を目指します。

内外装のデザインについても、藤沢市の地元のデザイナーを起用し、「海と木と自然の融合」をコンセプトとする斬新なデザインとしました。2021年4月には建築確認を取得し、同月末から着工に入り、11月に竣工する予定です。

――戸建て住宅を中心に行っている地域工務店が、木造中高層複合ビルを建築することは冒険と言えませんか。

永松社長 いえ。以前、施工の神様で登場された株式会社リヴの実例を見て、「自分たちにもできる」と確信しました。元々、リヴの波夛野賢社長とは、不動産業者のフランチャイズ企業「センチュリー21」を通じて、20年来のお付き合いがあり、リヴが2019年11月に立ち上げた、地産地消の木造施設の全国普及を目的とした地産木造ビル推進本舗にも参加し、本格的に木造ビルのノウハウを学んでいましたから。

自社で全てをまかなうのではなく、プロデューサーを担う

――これから施工に入りますが。

永松社長 今回のプロジェクトでは、設計士は公共工事で多く実績のある方にお願いし、構造体では三菱地所株式会社と連携しながら進めます。また、当社では特定建設業許可を取得していないため、RC造やS造ビルで実績のある建設会社とJVを組むことにしました。

実施工については、一般的な木造建築に強い大工や職人を使えば、支障がないと見ています。電気・配線系統はRC造ビルを経験した職人を活用する必要がありますが、それ以外は、戸建て住宅の延長線で施工可能です。

また、施工管理については、RC造などで実績のある現場監督を招へいします。また、当社は2級建築士しかいないため、1級建築士の業務を外部発注しています。

もし、これらを全て自社でまかなうことになると、施工体制を整えるためにRC造の経験がある現場監督、1級建築士などを正社員として雇用する必要がありますが、地域のゼネコンや設計士、職人と連携し、プロデューサーとしての役割を果たすことで解決しました。


地産木材を使い、湘南の海の水源整備

――神奈川県産材を使用することになったキッカケは。

永松社長 リヴから紹介いただいた三菱地所株式会社のお話を聞いていくと、神奈川県産の木材がほとんど流通していないことが分かりました。また、一部には、森林の中に不法投棄されたものが、雨が降って海へ流れ出てしまっている事例もあります。江の島や茅ヶ崎の海は、人気があるにも関わらずです。なので、水源となる森林を整備するためにも、神奈川県産木材を地産地消できるよう、プロジェクトを進めてきました。

富士リアルティが施工した3階建て住宅

――製材はどのように?

永松社長 株式会社三菱地所住宅加工センターが行う製材工場は神奈川県にはないため、千葉県の製材工場で行う予定です。ただ、構造材はすべて県産材を使用します。

最近では、県産材を使って地産地消で地域を盛り上げる動きが旺盛になっているので、これから神奈川県の工務店やゼネコンが県産材を使えばより値段も安くなりますし、森林も整備され、先ほど申し上げたような海洋汚染も防げるのではないかと考えています。

また、「SDGs」の視点でも、国産・地域産木材を活用すれば、輸送時のCO2排出量が少なくなります。神奈川県では「かながわSDGsパートナー」制度を設け、登録企業は県の中小企業制度融資による支援などが受けられるため、当社でも同制度を活用しています。

大切なのは「湘南らしさ」

――商標「湘南乃工務店」を打ち出し、湘南らしさを大切にしているが。

永松社長 藤沢市の海側エリアは、建売住宅があまり売れず、土地を購入し、自由に設計して建てる文化があります。当社でも以前、藤沢市本鵠沼に建築条件付きで住宅地を開発した際、お客様の評判が良かったため、”湘南らしい住宅”を建設するという意気込みを示すために「湘南乃工務店」という商標を打ち出しました。

現在、鵠沼海岸で2棟建設している住宅も、湘南らしいテイストと、カリフォルニアで流行している要素をミックスした設計となっています。

“湘南らしさ”を大切にした住宅

特に、テレワーク時代で自宅は必ずしも東京近辺ではないエリアを選択している人が増えました。私自身も趣味がサーフィンで、今でもプロサーファーのスポンサーをしています。時にはサーフィンを楽しみつつ、仕事をするには、藤沢市の海沿いは絶好のエリアといえます。

自宅から湘南の雰囲気を味わえるような設計を心がけ、これからも”湘南らしさ”を全面に出したデザインで差別化していければと考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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