中国地方整備局のプロパー技術系職員で初の女性管理職
国土交通省中国地方整備局プロパーの技術系女性職員としては、同局初の管理職の女性がいるというウワサを聞きつけた。建設業界は、昔に比べればかなり女性が増えていると言われているが、女性管理職の存在はまだまだレアなのが現状だ。
最近、「女性の地位」に絡むゴシップネタがメディアを騒がせたところだが、建設業における女性のキャリアアップは、他の産業に比べても、決して進んでいるとは言えないのが現状だ。
それはともかく、なぜ管理職になったのか、女性のキャリアアップを阻害する要因とはなにかなどについて、同局岡山河川事務所管理課長として活躍中の富田紀子さんに話を聞いてきた。
「人の命を守る仕事も良いな」
――なぜ土木の世界に?
富田さん 中学から軽い気持ちで高専に進学し、土木を学んでいましたが、漠然と「道路の仕事が面白そうだな」と思っていました。それで中国地方整備局に入ったのですが、最初の配属先がダムの総合開発事務所だったので、そのまま河川系の仕事をしてきました。
今年で25年目になりますが、入省したころは、建設業で女性が働き続ける雰囲気がまだない時代でした。私は「ずっと働き続けたい」という思いがあったので、公務員を選びましたが、当時、整備局管内の女性の技術職員は10名ぐらいでした。今は80名程度に増えているようです。
――河川系の仕事はどうでしたか?
富田さん 私は広島県出身なのですが、私の生活範囲には、一級河川もなく、河川の仕事に対するイメージがあまりありませんでした。広島の太田川を管理する部署に異動した時、初めて河川の仕事に携わったのですが、「人の命を守る仕事も良いな」と思うようになりました。河川以外では整備局のリクルートなどもやりました。
――リクルートはどんな感じでしたか?
富田さん 私がリクルートを担当したのは2014年ごろでしたが、ちょうど女性が活躍できる建設業界にしようと言い始めたころでした。リクルートを担当する当時の上司も、本省から来ていた女性の方でしたが、その上司と私が中心になって、局内の女性同士のつながりをつくる取り組みをしていました。本局勤務後は、2014年の広島豪雨土砂災害の復旧工事の出張所で、3年ほど砂防堰堤の仕事に携わりました。
水辺イベント「ミズベリング」に参加した富田さん(右)。隣は本省から出向中の当時の上司。
――現場仕事はどうでしたか?
富田さん 復旧工事のため、スピード感のある事業で、判断を迫られることも多い仕事でした。周りの人に恵まれていたので、女性という点でそれほど苦労はなかったのですが、女性の出張所長は初めてだったので、業者さんや地元の方々は最初は戸惑ったかもしれません。
地元説明会に行くと、地元の方から「なぜ女性なんだ?」と聞かれたこともありました。現場に積極的に行くことと、外で会う人にはこちらから挨拶することを心がけていました。
――今のお仕事は?
富田さん 岡山三川(吉井川水系、旭川水系、高梁川水系)の維持管理を担当しています。洪水や高潮等による災害に備えて、堤防や水門などの河川管理施設を良好な状態に保つように、日頃から河川巡視・点検、堤防除草、堤防点検、樹木伐採などを行っています。
――お住まいはどちらですか?
富田さん 住まいは広島市内にあって、新幹線通勤しています。通勤時間は片道1時間半ぐらいですね。私個人としては単身赴任も全然OKなのですが、中学生の子どもがいるので、それはかわいそうかなと思って、通うことにしました。子どもが大きくなれば、どこでも転勤したいと思っています(笑)。
――通勤は大変じゃないですか?
富田さん フレックスタイムが使えるので、だいぶ通いやすくなっています。今の事務所の始業時間は8時半なので、本来は6時台に家を出ないと間に合わずかなり大変なんですけど、フレックスで9時15分始業に変えているので、思っていたよりラクです。
ずっと同じ仕事は退屈なので、管理職になった
――管理職に就いたのはいつですか?
富田さん 3年半前に砂防の出張所長になったときです。
――整備局に女性の管理職は何人いるんですか?
富田さん 局採用の技術系職員では、まだ私しかいないです。
出張所長として、施工業者と現場で打ち合わせを行う富田さん
――「管理職になりたい」と思っていたのですか?
富田さん 「ずっと同じ仕事のままなのは退屈だな」という思いはありました。それで管理職を拒まなかったという感じです。今は「女性活躍推進の波に乗っていけるんだったら、行けるところまで行ってみよう」と思っています。管理職になりたいと言うより、変化を楽しみたいという感じですね。
――管理職として心がけていることは?
富田さん 若い職員に対しては、「細かく指示しない」よう心がけています。向こうから聞かれれば答えますが、なるべく本人の自主性に委ねたいと思っているからです。例えば、部下が私が求めている水準の70%ぐらいをクリアしていたら、本筋は合っているのでOKと考えています。「じゃあこれ任せるね。困ったら聞いてね。」という感じでやっています。
結婚、出産、転勤しても仕事を続ける女性は、まだまだマイノリティ
――女性のキャリアアップについて、どうごらんになっていますか?
富田さん 私の同期には、土木系の女性技術職員が2人いましたが、2人とも退職しています。ここ数年でかなり変わってきてはいますが、10年くらい前までは、整備局も「女性が働き続けにくい職場」だったと思います。残業出来て当たり前の雰囲気だったり、転居を伴う異動があるからです。育休も、今は最大3年間取れるようになっていますが、昔はそんなにはとれませんでした。
実際、転勤がネックで辞めていくケースもあります。ずっと同じところにいる女性もいますが、転勤は昇格の一つのタイミングなので、なかなかキャリアアップしない女性が少なくありません。
子どもが小さい時は、夫や家族の協力はもちろんのこと、それでも働き続けることが大変なこともあると思います。でも、やめたくないと思うのであれば、民間の病児保育施設の利用や、最近はテレワークの活用などもあるので、まずは周りに相談して欲しいと思います。
――なんか、富田さんが「切り開いている」ように見受けられます。
富田さん それはそうかもしれません。リクルートを担当しているときに、上司から「あなたは良いロールモデルになる」という話をされたことがあるんです。その時私は、結婚・出産・転勤をしても仕事を続けているマイノリティな存在だったからです。
職員にはそれぞれ思いや事情があるので、すべての女性職員が私のようになる必要はないと思っていますが、若い職員が結婚・出産後もキャリアアップしたいと思ったときに、こういう女性の働き方もあるのかと参考にしてもらえれば良いかなとは思っています。
「自分にはできない」ではなく、「自分はこうしたい」が大事
――いろいろ相談に乗ることもあるのですか?
富田さん ええ、女性職員から相談されることは多いです。男性より女性のほうが相談しやすいことも少なくないからだと思います。小洒落たイタリアンレストランとかに行って、話を聞いたりしています。私にとってもストレス解消になるので、大歓迎なんですけどね。
後輩の女性職員と歓談する富田さん
――例えばどういった相談を受けるんですか。
富田さん 職場の人間関係、家庭のこととかですね。例えば、小さな子どもがいて、定時に帰っているんだけど、職場のみんなは忙しく働いているので、罪悪感を感じて悩んでいるとか。私も同じだったので、「そんなの気にしなくて良いよ。いずれ子どもは大きくなるから。」と言ってあげたりしています。
――「これからの人」へのアドバイスをお願いします。
富田さん 地方整備局に限らず、「こうじゃなきゃいけない」「自分にはできない」ということで、自分の置かれた状況について思い悩むのではなくて、「自分はこうしたい」ということを声に出して、世の中を変えていく気持ちが大事だと思っています。あまり恐れずに、自分が良いなと思う仕事に就いてほしいと思います。