「ユニボ」を活用し、業務改善

【大東建託】「スマートメーター」と「AIロボット」は、アパート建築業界の働き方を変えるか?

スマートメーターとAIロボはスタンダードになるか?

大東建託株式会社とグリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合※1(以下、グリッドデータバンク・ラボ)は、建築現場の稼働状況把握のため、30分単位の電力使用量を連続的に取得できる「スマートメーター」のデータを用いた実証実験を8現場を対象に実施した。一方、このほどスタートアップ企業・ユニロボット株式会社と業務提携し、コミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」を活用し、現場監督者が行う各施工現場の進捗管理と協力会社などへの業務連絡をユニボが代行して行う実証実験もあわせて実施した。

「一連のDXに基づく働き方改革により、アパート建築業界の労働環境の新たなスタンダードを目指す」と意気込む大東建託株式会社安全品質管理部環境指導課の佐藤拓也氏に話を聞いた。

※1 東京電力パワーグリッド株式会社、関西電力送配電株式会社、中部電力株式会社、株式会社NTTデータが組合員となり、140を超える会員(企業・団体)と共に運営している。 電力使用量を30分単位で把握できるスマートメーター等から得られる電力データと各企業が提供するデータを組み合わせ、さまざまな活用事例の検討・共有を行っている。

「スマートメーター」で、現場の稼働状況を見える化

――そもそも「スマートメーター」とは何でしょうか?

左から大東建託執行役員工事統括部長 泉和宏氏、安全品質管理部環境指導課の佐藤拓也氏

佐藤拓也氏(以下、佐藤氏) 「スマートメーター」とは、電力使用量をデジタルで計測する電力メーターのことです。

通常、月単位で電力使用量を測定していますが、より細かな分析を行うために30分単位の電力使用量を連続的に取得できるスマートメーターデータを用いた実証実験を実施しました。

――スマートメーターを活用することで、建築現場での働き方も変わるのでしょうか?

佐藤氏 建設業界では、作業員の高齢化、若年層の従事者の減少などを背景に、担い手不足や現場監督を担う技術者の減少が深刻な課題であることは言うまでもありません。

大東建託では、時期でばらつきのある現場労務の平準化を通した現場作業員の働き方改革に取り組んでいますが、各現場の稼働状況を詳細かつ効率的に把握する方法を確立することで、より効率的に働くことのできる新しい労働環境のスタンダード化の実現を目指しています

スマートメーター

グリッドデータバンク・ラボは、全国の電力会社が設置する「スマートメーター」により、収集している電力データを異業種データと掛け合わせて分析することにより、さまざまな社会課題の解決や産業の発展に貢献し、社会実装に向けたユースケースの実証や政策提言を行う組織です。

そこで、グリッドデータバンク・ラボと協同で、工事現場の「スマートメーター」から取得した電力データと現場に設置したカメラの情報の分析を通して、現場の稼働状況の検知や労務効率の可視化に向けた実証実験を行いました。


カメラよりも電力データのほうが現場の実態を把握できる

――実証実験からどのような結果が得られた?

佐藤氏 今回の実証実験では、大東建託が現場管理に利用していた従来のカメラ撮影によるデータと、「スマートメーター」による30分単位の電力使用データを比較・分析し、稼働状況をどの程度とらえられるかを検証しました。いわば現場の稼働状況の答え合わせです。

約3か月間の検証の結果、実際に稼働があった31日のうち、電力使用データにより、30日(約96%)について作業があったと推測でき、稼働状況を検知することができました。

マップ上に各現場の稼働状況を一覧で可視化

一方、カメラデータで稼働状況を検知できたのはたった3日で、実証を通じて電力データを用いることにより、従来よりも稼働状況を正確に検知できることが確認できました。「スマートメーター」による電力データを活用することで、より多くの現場の稼働状況の正確な把握が可能であることが確認できました。

現場でも日報を記録していますが、日報の記入忘れなどのヒューマンエラーが発生する可能性がありますので、稼働状況を網羅的にチェックするには「スマートメーター」が有効であることが分かった意義は大きいと思います。

カメラ画像とスマートメーターの電力データの比較

――実証実験の結果はどのように活用していく?

佐藤氏 2020年6月に電気事業法が改正され、今後、契約者本人の同意と個人情報保護法の遵守を前提に、電力データを第三者に提供可能とする仕組みが整備される見込みですので、スマートメーターのデータを用いて、現場の労務管理や進捗状況を確認できる仕組みづくりを検討しています。

例えば、職種ごとの1人あたりの電力使用量を洗い出し、現場の進捗状況や、現場の作業員が過度ではないか、または少なくはないかなどを分析できるようなイメージです。これにより、現場の平準化に寄与できるのではないかと期待しています。

抜本的な働き方の改善には「スマートメーター」よる労務状況の把握だけでなく、DXによる課題解決の取り組みとしてAIロボットによる現場監督の負担軽減を進めています。


AIロボで現場事務をサポート

――AIロボットとは?

佐藤氏 建設現場では、事務作業が現場監督の負担を増加させているという課題があります。そこで、AIコミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」を活用した実証実験を進めています。

具体的には、ユニボの音声機能を活用し、若手社員向けには音声タスク管理による手戻り作業の防止、ベテラン社員向けには音声メール機能による効率化を図り、より安全で効率的に働くことのできる労働環境の実現を目指しています。

同実験は、2019年10月より実施している大東建託の経営資源とスタートアップ企業の新しいアイデアや斬新なノウハウの双方を活用して、新たなビジネスやサービスの共創を目指すことを目的とした『大東建託アクセラレーター2019』の取り組みの一つとして、ユニボの開発元であるユニロボット株式会社と進めているもので、第1回目が2020年8月21日から同年11月末日で、名古屋工事部、福岡工事部、刈谷工事部で、第2回目は、2020年12月1日から2021年2月末で、岐阜工事部、春日部工事部、八王子工事部でそれぞれ実施しました。

「ユニボ」を活用し、業務改善

 

――具体的に、「ユニボ」はどのようなことを教えてくれるのでしょうか。

佐藤氏 例えば、「検査の手配が漏れていませんか?」「事前に発注しなければならないことを忘れていませんか?」「検査の項目は終わっていますか?」などをアナウンスしてくれます。タスク管理を補助することで作業の漏れを防ぐことが可能です。

「ユニボ」によるメール送信代行イメージ

――ゼネコンの現場監督は夜遅くまで事務作業をやっているイメージがあります。

佐藤氏 大東建託の現場監督はほかのゼネコンと異なり、1人の担当者がいくつもの現場を受け持つ巡回管理方式です。ゼネコンでは職人が帰ってから事務作業をされることが多いですが、大東建託ではノートPCやタブレット端末を使い、どこでも事務作業ができるように事務所を数多く設置し、ハブの拠点として作業できる環境を整えています。もちろん、現場でも作業が可能です。17時から事務作業を開始するのではなく、定時(9時~17時30分)の中で効率的にフレキシブルに働いてもらうような環境にあります。

現場で実証実験された「ユニボ」(名古屋工事部の現場)。 中央は泉工事統括部長

――働き方改革についての今後の方向性は。

佐藤氏 建設業界に時間外労働時間の上限規制が適用されるのは2024年4月1日以降ですが、それに先んじてアパート建築現場における労務環境の新たなスタンダードを目指していきます。今回の建築現場のDXは、その一環と言えます。

今、大東建託協力会には1万3,000社が参加し、現場も常に2,000~3,000か所が全国で稼働しているため、今回の取り組みも大きな影響があると思っています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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