78歳を迎えてもなお現役で活躍する渡辺裕之さん

78歳を迎えてもなお現役で活躍する渡辺裕之さん

78歳現役の現場監督からの教え「働くことの意味をもう一度、見つめ直そう」

72歳で再就職、シニアになっても活躍できる秘訣

リフォーム事業を中心に4社の子会社を持つ株式会社NEXTAGE GROUP(ネクステージグループ)は、建設業界の中でもいち早く定年制を廃止した会社。現在、4名もの70歳以上の社員が活躍している。

同社グループのメッドコミュニケーションズ株式会社で活躍する、現在78歳の渡辺裕之さんもその一人。72歳の時に入社以降、関東地方の工事現場で現場監督の技術教育や安全指導など週に3日の勤務を行い、健康で元気に働き続けている。

海外では年齢を理由に定年を禁止している国もあるが、日本でも定年廃止の動きが進んでいる。人生100年時代と言われる中、今後は働く期間がより長くなることと予想される。

株式会社NEXTAGE GROUPの広報課の鶴岡美保さんに定年制を廃止した理由と、渡辺さんに長く働くための秘訣について話を聞いた。

渡辺さんの入社を機に、定年制を廃止

左から、メッドコミュニケーションズ株式会社の渡辺裕之さん、株式会社NEXTAGE GROUPの広報課の鶴岡美保さん

――定年制度を廃止した理由は?

鶴岡美保さん(以下、鶴岡さん) 元々、当社の定年年齢は70歳だったのですが、渡辺さんが2014年に当社に応募された際のご年齢は72歳でした。渡辺さんは経歴も優秀で一級建築士など多くの資格を取得しており、さらに健康で働ける心身をお持ちなのに、年齢を理由にした定年制度があることによって、渡辺さんのような優秀な人材を失うことは会社の損失に繋がるのではないか、と考えたんです。

とくに、建設業ではベテラン社員が長年の経験や培ったスキルを若手に伝承していくことが次世代の人材の成長にも繋がります。そこで、渡辺さんの入社に合わせて、2014年から定年制度を廃止することになり、現在は70歳を超えても今まで通り、第一線で活躍することができます。

――社内の反応はいかがですか?

鶴岡さん 若手社員の中にも、老後の生活を豊かに生活するためにより長く働き続けたいと考える社員も多く、社内からも歓迎の声のほうが大きいですね。社内理解セミナーも開催して、定年制度廃止の主旨と渡辺さんの仕事ぶりを説明していますが、渡辺さんの働きぶりは若手社員にもいい刺激を与えています。

――第二の渡辺さんもいらっしゃるのでは?

鶴岡さん テレフォンアポインターとして活躍されている75歳の女性社員や、70歳を超えて現場営業している社員など、グループ全体では70歳以上の社員は4名おります。


同年代はほぼリタイアも、みんな働く意志は強い

――定年廃止について、渡辺さんはどう思われますか?

渡辺裕之さん(以下、渡辺さん) 私と同年齢の仲間たちはほぼリタイアしていますが、彼らがどういう気持ちでいるかというと、働ける場がないことを残念に思っているんです。親しい友人も「もし自分にあった仕事があれば働きたい」と話していました。

企業側としても、65歳定年により経営をスリムにしたいとの思惑があるのでしょう。ですが、この歳になって改めて人間にとって働くことは大事であると実感しています。

定年を迎えると、「これで人生楽になる」と思う反面、すこし時間が経つと「やっぱりオレは仕事をしていたほうが向いているな」と考えなおす方も多いと感じています。私自身、何もしない生活は性に合わないですし、会社に必要とされることは嬉しいものです。

今、時代が「定年延長」「定年廃止」の流れに向かっていますが、大変良いことではないでしょうか。

――渡辺さんはこれまで「建設業界一筋」ですか?

渡辺さん ええ。「1964年の東京五輪」の2年後に、ゼネコンに入社しました。希望通りすぐに現場へ配属され、区役所や駅ビル、銀行系建物の建築にも携わることができました。

ただ、52歳の時に大病し、療養までに時間が掛かったこともあり、60歳の時に退職しました。60歳からの10年間は、設計、施工、設備など建築の専門家ら7人とともに建築コンサルタント業を始めましたが、私が70歳を迎えた時に事業の中心人物が急死したことで、この仕事も廃業することになりました。

――一度は引退されたんですね。

渡辺さん ええ。最初のうちは「もう仕事をしなくてもいいか」とも思っていました。ところが「仕事をしたい」という気持ちが強くなり、だんだんイライラしてきまして(笑)。

そんな時、家内が新聞の折り込み広告で「メッドコミュニケーションズ株式会社」の社員募集のチラシを見つけて、「こんな不況の時にいい仕事がある。これは働けってことじゃないの?」って言ってきたんですよ。

それで半世紀ぶりに面接を受けてみることになったのですが(笑)、半ば諦めてもいたんです。ですが、面接後に「社長が面談したいので、今すぐ来てほしい」と電話があったんです。すぐに会社に行き、社長と面接をすると、その場で採用を即断即決していただきました。

資格こそ、高齢になっても働くための武器

――社長は渡辺さんの何が決断の理由になったんでしょうね。

渡辺さん 保有している資格の数は大きいと思います。一級建築士のほか、1級建築施工管理技士、特殊建築物調査士、マンション管理士、宅地建物取引士、マンション管理業務主任者、建築管理士、既存住宅状況調査技術者「インスペクター」と8つの資格を取得しています。

人間で一番頭が冴えるのは朝なので、朝3時に起きて勉強し、さらに宅建資格を取得するために専門学校にも通学して、資格を取得してきました。

定年制廃止の社内理解を深めるセミナーで、講師をつとめる渡辺さん

――資格こそが長く働ける秘訣ですか?

渡辺さん ええ。資格は高齢になっても働ける武器ですね。技術系職員であれば、資格をどん欲に取得すべきです。運転免許と一緒なんですよ。免許がなければ、いくら運転がうまいと自称しても公道は走ることができません。もし、自分が建築のこの分野で一生食べていくと決意したならば、踏み込んで勉強すべきです。

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心も身体も健康でなければ、働き続けることはできない

――今はどのようなお仕事を?

渡辺さん 主に現場での安全確認業務で、週3回ほど栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川の各都県を巡回し、安全マニュアルを基に検査しています。

安全はキリがありませんが、辛抱強くやらないと改善されません。法律や規則に基づいて、現場担当者に会うたびに、くどく説明しています。地味ですけれど、誰かがやらなくてはいけない。文句を言われても信念を通さなければならない仕事です。

――安全技術の伝承も大切ですね。

渡辺さん そうですね。職人には我の強い方も多いですから、「このやり方でいいんだ」と譲らない方もいますが、最近では理解が深まったように感じています。職人が話を聞いてくれるようになった背景には、私の年齢が78歳ということも関係があるかもしれませんね。若い方だと「若造が何を言ってるんだ!」とどやされる可能性もありますから(笑)。

――65歳を超えてもまだまだ働きたいと意欲を燃やす技術者も多いですが、アドバイスはありますか?

渡辺さん 大病した経験からですが、まずは自身が健康であるか、働くだけの体力が残っているかどうかを健康診断を通してチェックしてください。ほかにも、ご家庭の生活基盤がしっかりとしていることも大切ですね。

そして何より、働くことの意味をもう一度、見つめ直してはいかがでしょうか。生活に困窮しているから無理にでも働かざるを得ない、ということでは切ないですから。高齢になっても働き続けるためには、身体だけでなく、心も健康でなければなりません。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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