しのぎを削る3社が連携するワケ
株式会社三栄建築設計、株式会社オープンハウスとケイアイスター不動産株式会社は、タックを組み、このほど一般社団法人日本木造分譲住宅協会を設立した。
目的は分譲住宅会社の地位向上と国連で採択された持続可能な開発目標「SDGs」の課題解決の一環として、国産材をより積極的に活用していく方針だ。
折しも、木材業界では輸入材が入ってこない、もしくは価格が高騰している「ウッドショック」により、住宅業界にも大きな影響を及ぼしている。国産材が再評価されている今、協会は環境面から使用を増やしていくことを目指す。
首都圏営業でしのぎを削る3社がなぜ連携したか。その内実を日本木造分譲住宅協会 谷口猛氏が余すことなく語った。
「分譲住宅は、注文住宅より品質が劣る」は誤解
――設立の経緯からお願いします。
谷口猛氏(以下、谷口氏) かねてより弊社・三栄建築設計では、高品質で安心して住める木造住宅の普及や木造分譲住宅の健全な発展を理念としています。
しかし、世間では「分譲住宅は注文住宅よりも品質が劣るのではないか」という誤解もあります。分譲住宅でも注文住宅と同等かそれ以上の質にこだわった住宅会社もあるということを広めていきたいという思いがありました。
弊社代表の小池はかねてより、分譲住宅業界に特化した団体を設立したいという考えもあり、首都圏を中心に事業を展開する株式会社オープンハウスの荒井正昭社長、ケイアイスター不動産株式会社の塙圭二社長に「建売・分譲住宅の企業価値を高めていきたい」と呼びかけた結果、「是非やりましょう」と即答くださり、2021年4月13日に一般社団法人日本木造分譲住宅協会が誕生しました。小池は理事長に、オープンハウスの荒井社長、ケイアイスター不動産の塙社長はともに理事に就任しています。
一般社団法人日本木造分譲住宅協会の谷口猛氏
――3社はしのぎを削るライバルでもあるが。
谷口氏 ええ。営業や技術面では、お互い切磋琢磨する良きライバル関係にあります。ですが、分譲住宅会社というカテゴリーの中では、お互い協力して企業価値を高めていくことで思いが一致しました。
国産木材を積極的に活用し、持続可能な社会を実現する
――事業としてはどのようなことを?
谷口氏 先ほど申し上げた、高品質の分譲住宅を普及していくことに加え、日本国内の木造分譲住宅の建築着工件数で上位を占める3社が連携することで、脱炭素社会の実現、地球環境保護と持続可能な社会づくりを目指していきます。
住宅業界は外国産の木材を多く使用している実情があります。元々は日本の木材で住宅を建築していましたが、外国産材の輸入品が安く、国産材が高いことから敬遠されるようになりました。それが日本林業の衰退にも繋がっています。売れなければ、製材しても仕方がないからです。
しかし、安い輸入材に依存した結果、国内森林は樹齢の高い状態で管理も行き届かなくなっています。その結果、森林のCO2吸収力も弱まり、保水力も減少しています。
出典:政府広報オンライン
保水力の減少によって、最近の台風の襲来では大雨などの災害時に鉄砲水を発生させる原因にもなっていますし、樹木のCO2の吸収量は齢級8~10(樹齢40~50年)をピークに減少するため、計画的な伐採と植林が必要です。木造建築物が普及することで木材需要が拡大し新たな植林が可能になり、持続可能な森林が実現するわけです。
CO2の吸収力は樹齢によって変化する
また、国産材を使うことによって、輸送距離の短縮によりCO2排出量の削減を図ることもできます。加えて、我々首都圏を中心に分譲住宅を供給する分譲住宅会社が国産材を使用することで地方の林業が活性化し、地方経済に貢献できるのではという思いもあります。
まずは、3社の国産木材調達分100%である年間3万3,000本を山に還元する植林活動を展開していきます。これにより、「切る」「使う」「植える」「育てる」のサイクルを独自に構成し、環境負荷低減、大気、水資源などの森林保護に取り組みます。
――どこの木材を使用する?
谷口氏 東北エリアの木材を使用することになっています。3社のメインの商圏は首都圏で、関東に入る木材は東北産が圧倒的に多いためです。ですが、ゆくゆくは全国の木材を使用していくつもりです。
木材が不足する「ウッドショック」が日本を襲う
――しかし、木材の調達はかつてないほどひっ迫しているが。
谷口氏 今、住宅業界では「オイルショック」になぞらえ、「ウッドショック」という事態が発生しています。世界的な住宅建築の需要の高まりによって木材の価格が高騰し、輸入に依存していた外国産材の木材が入ってこない、もしくは高止まりしていると異常な事態が起きているんです。
木材の商社や問屋も全力で木材の確保に当たっていますが、過去に経験したことがない状況下にあります。今後は木材価格の上昇が見込まれるほか、すでに木材の取り合いも始まっています。そのため、住宅建築の工期が遅れる事態が全国で起こる可能性があります。
――「ウッドショック」の具体的な背景は?
谷口氏 アメリカでは住宅ローンの低金利政策を追い風に住宅販売が増えており、中国でも新型コロナ不況から脱して好景気へと転換しており、世界的に住宅建築需要が活発化しています。
アメリカは元々日本へと木材を輸出していましたが、米国産材の木材がほぼ入ってこなくなっており、かつては日本の商社も高騰した木材を購入できる余裕がありましたが、日本の内需が弱いため、世界の木材購入の競争では中国に買い負けている状態が続いています。
また、コロナ禍による世界的なテレワーク化の進展で、郊外への居住思考も進んでいます。2020年は東京23区から神奈川県藤沢市など郊外への転出が増加していますが、こうした動向は世界的にも同様で、住宅需要が喚起されているんです。
さらに理由はもう一つあります。”世界的なコンテナ不足”です。特に、需要が回復したアメリカと中国でコンテナの取り合いとなり、他の国に回す余裕がなくなっています。
これまでも「ウッドショック」が日本を襲うことはありましたが、それでも3か月ほどで終息していました。今回はいつ収まるかについて分からないのが正直なところです。
三栄建築設計としては、メーカーからの供給で建築需要に対応できています。夏以降は不透明なものの、今後、国産材に順次切り替えていくため、問題はないと見ています。
国産材使用率100%を目指す
――国産材について、どのような調達の仕組みを考えているか。
谷口氏 山・森林組合から一度、集成材工場・製材工場へ卸し、そこから日本木造分譲住宅協会へと販売します。その後、協会から3社それぞれの提携先のプレカット工場に販売する流れとなります。
この方式を採用した理由は、国産材を安定調達できなければ、住宅を建築できないからです。ですので、協会は3社の情報の集約機関として、予定着工棟数を事前に山・森林組合にお知らせし、必要数を確保します。
一般社団法人日本木造分譲住宅協会が考える国産木材の新流通システム
次に価格面ですが、3社それぞれに施工ボリュームがあるため、安定した価格でプレカット工場に販売する予定です。国産材を扱うにしても、今まで商社や問屋の機能がなかったので、協会がその機能を果たしていきます。我々としては利益を出すことよりも、安定した価格で国産材を調達することを重視しています。
森林所有者や製材工場など、必要最低限の業者と直接取引や業務提携を行うことで、国産材の安定コストと安定供給が可能になると考えています。
――いつ頃から国産材調達を?
谷口氏 今年の5月から開始します。
――三栄建築設計としても、国産材使用割合100%目指しているが。
谷口氏 三栄建築設計では木造戸建分譲を自社設計・施工で行い、年間約2,600棟を供給していますが、現時点では1棟あたり約75%が輸入材です。今後はSDGsの推進をはかり、国産材使用割合100%実現を目指します。
今回、東京都府中市の分譲住宅1棟でテストを行い、国産材使用割合を97.4%まで上げることに成功しました。このテストケースが成功したことを受け、今後着工するすべての木造住宅等で国産材使用割合は90%を基準として生産をスタートしています。
三栄建築設計クラスの規模の分譲住宅での国産材使用率を100%まで上げていく試みはそうありません。オープンハウスやケイアイスター不動産では、国産材100%使用の宣言はしていませんが、今よりも国産材の割合を増やしていく方針は同じです。
――国産材住宅の魅力とは?
谷口氏 国産材に悪いイメージを持たれる方はそういらっしゃらないでしょう。国産材と輸入材を比較して性能は変わりませんが、国産は安心感に通じるところがあります。
――協会に入会したいという企業は?
谷口氏 問い合わせもいただいており、趣旨に賛同してくださる会員企業を増やしていくことに注力していきます。