左から、大東建託安全品質管理部環境指導課の目黒航課長、人事部の菅野敦志次長、広報部の新宮聖徳課長

左から、大東建託安全品質管理部環境指導課の目黒航課長、人事部の菅野敦志次長、広報部の新宮聖徳課長

現場監督もフレックスで働ける? 大東建託が”コアタイムなし”のフレックスタイム制度を導入

大東建託が現場監督の働き方改革に成功した秘訣

2024年4月から、建設業に時間外労働の上限規制が適用される。特別な事情があって具体的に取り決めをしない限り、時間外労働は月45時間、年360時間以内に制限される。建設業界の働き方改革は待ったなしの状態にある。

こうした背景のもと、大東建託株式会社は6月1日から、現場監督などの工事職員などを対象にコアタイムのないフレックスタイム制度の導入を開始。生産性も向上するなど現場からの意見は上々で、速報値ではほぼ100%の工事職員が利用しているとのことだ。

大東建託がなぜ、建設現場の働き方改革で成功したか。その秘訣について、同社人事部の菅野敦志次長、安全品質管理部環境指導課の目黒航課長、広報部の新宮聖徳課長にそれぞれ現場の目線で話を聞いた。

工事職を対象にコアタイムのないフレックスタイム制度を導入

――大東建託での働き方改革の現況について教えてください。

菅野 6月1日から、建設現場の現場管理を行う工事職の社員を対象に、コアタイムのないフレックスタイム制度「フリーフレックスタイム制度」を導入しました。

フレックスタイムは、出社や退社の時間を本人の裁量で自由に決めることができる制度です。ここに「フリー」という文言が入っているのは、フレックスタイム制度では一般的な「何時から何時までは、必ず勤務していなければいけない」というコアタイムを定めていないためです。つまり、働く時間帯自体を指定しておらず、社員はフレキシブルタイム(7:00~20:00)の間で働く時間帯を自由に決めることができます。

当社は1日の労働時間は7.5時間と定めているため、仮に1か月の労働日数を20日とすれば、7.5時間×20=150時間となります。ある日は8時間、別の日は6時間であっても、1か月全体で150時間以上の所定労働時間さえ確保されていれば問題ありません。

――実際の稼働日数はどのくらいでしょうか? 建設業では4週8休を確保する動きもありますが。

菅野 大東建託では、「年間休日125日」と定めているので、年間の稼働日数は約240日となります。月によっては夏季休暇等により、営業日数のずれが生じますが、ならして考えると1か月当たり20日が稼働日数になります。


工事職のほぼ100%がフレックスを利用

――フレックスタイム制度は、事務職での導入は容易でも工事職では難しいのでは?

菅野 大東建託では元々、コアタイム(11:30~15:30)のあるフレックスタイム制度を工事職も含めた全職に適用していました。たとえば朝に通院してから出勤する、あるいはお子さんがいるご家庭であれば夕方に子どもを迎えに行くなど、個々の事情に対応した働きやすい職場の環境整備が導入の背景です。

しかし、工事職の方からは「せっかくのフレックスタイム制度も、コアタイムがネックになっている」という声が上がりました。たとえば、午後から急に天候が悪化して、現場を止めなければならなくなったときにも、コアタイムがあるがゆえに、何かしら仕事をしていなければならなかったんです。

今回、コアタイムを制度から外すことによって、仕事ができない時には現場から上がることができ、別日に全体の労働時間を調整できる仕組みになっています。ですので、現場で働く工事職の方はフリーフレックスタイム制度をより活かせると思います。

フリーフレックス制度導入後の働き方の事例

――実際に運用してみて、フリーフレックスタイム制度は現場で受け入れられていますか?

目黒 ええ。昨年、現場の意見を集約するために工事担当者が集まった座談会を開催した際に、「コアタイムがあるから、フレックスタイム制度を使いづらい」という意見を反映して開始した制度ですので、もともと現場の声を基に実現したものになります。

そのため、現場でも後ろ向きの意見は聞いていません。まだ運用から2か月ほどですが、前期同月比較でフリーフレックスタイム制度の利用率は約3倍向上しています。また、速報値では工事課の社員のほぼ100%が、1か月に1度フリーフレックスタイム制度を利用しています。

2024年の規制に先立ち、残業時間を削減

――こうした働き方改革全般の取り組みによって、工事職社員の平均残業時間も年々減少していますね。

菅野 そうですね。工事職の月平均の残業時間は、2018年度の36.4時間から、2019年度は32.9時間、2020年度は32.1時間と、年々減少傾向にあり、働き方改革の成果も目に見える形で進展しています。

フレックスタイム制度以外にも、7~8年前から支店に寄らずに現場に直行する体制としたことで、より現場サイドの業務に集中できる体制が定着し、時間外労働の削減に繋がっています。

年々減少している工事職社員の平均残業時間

――現場監督の長時間労働は業界全体の課題です。

新宮 ええ。ゼネコンは一つの現場に常駐することが多いですが、当社は複数の現場を巡回し、管理する手法を取っています。そのため、物件の規模はゼネコンと比較して小さく、現場管理の難易度も高くありませんが、件数が重なることで現場監督への負荷も大きくなります。特に地方の現場で現場同士が離れていると、別の現場への移動に1時間掛かることもあります。

こうした限られた時間の中でいろんな検査をしなければならないため、過去を思い出すと、当社としても施工管理・維持管理はかなり難しい環境の中で実施していたのではないかと思います。ですが、右肩上がりで成長してきた当社としては、施工のボリュームが増加する一方で、現場監督をそれほど簡単に増やすこともできませんでした。こうした背景もあり業務効率を上げることは喫緊の課題で、一連の働き方改革について全力で取り組んでいます。

――働き方改革関連法に伴い、時間外労働の上限規制が見直され、2024年4月から建設業にも適用されますが、問題がなさそうですね。

菅野 大東建託では働き方改革関連法の施行当初から、法が定める時間外労働の上限で社内管理を行っています。現場の業務改革・効率化にはまだ改善の余地があると思いますが、時間外労働の上限規制については現時点でも問題なく対応できる状況です。

――スタートアップ企業との連携を深め、建設現場の働きやすさと魅力を高める動きも進んでいますが。

新宮 6月28日から、スタートアップ企業とのオープンイノベーションプログラムで新規ビジネスの創出を目的とした「大東建託アクセラレーター2021」を開始しました。2021年度の「大東建託アクセラレーター2021」は、「託せる未来を共に創る」をコンセプトに社会課題解決につながる革新的ビジネスの共創を目指し推進しています。

「大東建託アクセラレーター2021」の募集ページ

今回も建設現場が抱える課題、特に働きやすさという観点からすれば、建設業は他業種と比較して遅れています。当社の提供可能な、全国に展開する建築現場約2,500か所、動作業員約7,000/⽇、施⼯協⼒会社8,689社 (2021年3月末時点)などのリソースを活用し、当社だけではなかなか生まれないイノベーションをスタートアップ企業ととともに生み出せればと、期待しています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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