大気社がレタスを栽培する理由。空調技術を生かし、高品質な工場野菜の提供目指す

植物工場の領域拡大で新会社と量産実証工場を設立

株式会社大気社は、空調制御技術を生かし、植物工場事業の領域拡大・拡充を目的に、このほどプラント建設から野菜の生産・販売まで一貫したソリューションを顧客に提供できる100%出資の子会社「株式会社ベジ・ファクトリー」を設立、あわせて埼玉・杉戸町に初の植物量産実証工場を建設し、高品質かつ生菌数の少ない業務用レタスなどの量産実証を進め、9月から本格稼働した。

工場は9月に大気社からベジ・ファクトリーへ譲渡。自社量産実証工場で工場の運営ノウハウを蓄積するとともに、産業空調分野で培った独自の空調技術を生かし、自動化による無人生育システムや、独自の水耕栽培システムにより、高品質かつ生菌数の少ない野菜の量産実証が可能となる。

新会社設立と工場稼働の狙いについて、「空調や塗装工事のほかに第三の柱を立てる」とべジ・ファクトリーの三上茂代表取締役社長は語る。同氏と中村欣明取締役部長、株式会社大気社の久保田康三環境システム事業部グリーン機器事業所長兼技術部長に、それぞれ新会社と野菜工場の設立について話を聞いた。

なぜ空調に強い大気社が野菜領域に?

――そもそも設備空調に強い大気社がなぜ、野菜関連の事業を開始されたのでしょうか。

三上茂氏(以下、三上) 2010年に、当時のトップが空調や塗装に加えて、第三の柱を創造しようと新規事業を育成する部門を立ち上げたことに始まります。

当時、LEDが普及したこともあり、照明メーカーが閉鎖型植物工場の建設を積極的に展開していました。大気社としても、自社の研究所や教育機関ともコンソーシアムを組んで実証栽培を開始し、その後、埼玉県の栗橋に工場をレンタルして試験的に栽培を開始しました。

株式会社べジ・ファクトリー 三上茂代表取締役社長

当初こそ、野菜にカビが生えるなど失敗もありましたが、2018年2月には東京・板橋区に植物工場実証開発センターを開設したことを皮切りに研究が加速し、完全人工光型植物工場の技術をほぼ確立することができました。

こうした事業は2020年までは大気社内の「新産業統括部」という部署で行っておりましたが、植物工場部門が独立し、植物工場のコンサルタントや、生産販売を事業目的として、2021年2月に株式会社ベジ・ファクトリーを設立しました。

大気社の立ち位置としては、植物工場のプラントメーカーの役割で、べジ・ファクトリーとしては、その開発を担うことになります。

杉戸量産実証工場

――植物工場は提案型事業なのですね。

三上 プラントの顧客である新規参入事業者は、そもそも栽培プラントの基本要件を知らず、安価なメーカーを選定しがちです。また、コンサルタントの「野菜の販路保証、全量買い取り」等を謳い文句に惑わされ、「作れず・売れず」で最終的に事業撤退に追い込まれるケースが多々あります。

当社はマーケット分析やニーズから販路を想定して栽培品種の規格を決定、事業計画を基に工場建設プランを提案することで、顧客の事業を支えていきます。

新会社は土地の選定、ファイナンス等上流からの提案も

――コンサルとそれに伴うプラント建設が主事業である中で、自社でも栽培する理由は?

三上 当社が栽培事業者となる事で、工場産野菜の実需者とのチャンネルが構築され、よりマーケットの深堀が可能となります。それがプラントの要件にも反映できるわけです。また、工場を建設されるお客様は、多大な投資をされるわけですが、本当に収益が上がるのかと心配されます。

そのため、埼玉県杉戸町に竣工した自社の量産実証工場で、高品質かつ生菌数の少ない業務用レタスで収益を上げ、自らが事業者として成功することが重要だと考え、10年かけて準備を進め今日に至ったわけです。

杉戸量産実証工場では、「野菜の安定供給とロングライフ化へさらなる貢献目指す」をコンセプトとしていますが、これを実現するには基盤となる植物工場の整備には多くの投資が必要になります。新規参入されるお客様を巻き込み、これを実現するための仕組みを構築することが今後の課題ですね。

――レタスに着目した理由は?

三上 レタス類は、年間を通じて需要が大きいにも関わらず、気候変動の影響を受けやすく露地物では安定供給が出来なくなっています。また、収穫量を上げるための高密植栽培を実現しやすいので、野菜の実需者と生産者の双方にメリットがあります。

――工場で栽培されたレタスの質はいい?

中村欣明氏(以下、中村) 日本は土地価格が高いため、高さで栽培面積を増やしていかなければならないわけですが、それでは空調としては不利な方向になります。温度によっては浮力があるので、温かいものが上に行きやすい。そうなると均一なレタスができにくいんです。ですが、大気社の空調技術で大空間を均一にコントロールすることで、この課題をクリアしていますし、高効率LED照明システムにより野菜の生理障害をなくすための気流を生み出す技術もあります。

株式会社べジ・ファクトリーの中村欣明取締役部長

このように、杉戸量産実証工場には大気社としての様々な要素技術をつぎ込んでいます。もちろんお金はかかっていますが、そこから生み出される結果、新しく工場建設されたいお客様には、新たな技術を提供できると思っています。

既存の商流に組み込まれないように

――どのような商流を目指していきたいですか?

三上 当社の目指している事業コンセプトに関わる部分ですが、現在の野菜市場を通した商流は、需要と供給のギャップの調整弁の役割を果たしていますが、同時に膨大な食品廃棄を生んでいます。また、野菜の販売先となる食品加工事業者においても、露地物の野菜は可食部が少なく、廃棄品が40%程度発生します。また、洗浄工程での人件費増や水の消費が負担になっています。

この課題を解決できるのが、植物工場産の低生菌野菜です。

杉戸工場から出荷される生菌管理された野菜は、流通過程での温度管理が重要になります。従来の市場を経由してしまうと、これができません。

野菜を買っていただくお客様や、物流事業者と一緒になって、新たな商流を生み出す必要があります。

――これから植物工場の業界はどういう方向に進んでいくでしょうか。

三上 従来型の露地物の代替品の汎用型の栽培プラントから、機能性野菜、医薬品の原材料等の高付加価値品を生産できるプラントへシフトしていくと見ています。技術的には空調技術の高機能化と栽培自動化は実現できています。

また、DX技術を取り入れ、画像認識で栽培途中の野菜の形質を判断し、自動で追肥や環境コントロールすることで、より人手の掛からないシステムの研究が開始されています。さらに再生エネルギーとの組み合わせや、資源循環型のスマート工場化へ進んでいくと思われます。

――どの業界でも最初は百花繚乱になり、それから淘汰が始まります。

三上 一般消費者向けの工場産野菜の需要がほぼ飽和し、現在は大手コンビニや外食事業者が、食の安定供給と食品ロス削減を掲げ、露地野菜から工場産野菜への転換が始まっています。これら事業者向けの野菜に要求される品質のハードルは非常に高く、これを十分に満足できる植物工場栽培事業者は、未だ存在しません。様々な取り組みがなされていますが粗悪なメーカーやコンサルは、市場で淘汰されていくと見ています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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