増え続けるマニュアルが、建設業界の技術進歩を阻んでいる

増え続けるマニュアルが、建設業界の技術進歩を阻んでいる

マニュアルって必要?

数か月前まで、私は北関東のプラント工事で安全専任として関わっていた。これまでやってきた建築の現場管理とはかけ離れた仕事だったが、1年半の経験でなんとか全体像が理解できるくらいまでにはなったと思う。

作業員に安全意識を自分事として認識してもらうにはどうしたらいいか、誰かに言われたからやるのではなく、どこの現場に行っても通用するような意識をどうしたら持ってもらえるかなど、安全専任を経験したからこそ突き詰めて考えるようになった。

試行錯誤を繰り返し、上手くいったこともあれば、それほど効果的ではなかったこともあった。もちろん前の現場で上手くいったからといって、どこの現場でも通用するモノでもないし、逆もしかりだ。

安全専任を経験して感じたことがある。それは、仕事をする中で、マニュアルを作りたがる人が多いということだ。

現場で働いている人間なら分かると思うが、現場には現場の特徴があり、全ての現場が一律の条件で工事が進まない以上、その現場に合わせた臨機応変な対応が最も必要になる。

なんでもかんでもマニュアル化して、一律の枠の中にはめ込んで対処しようとする昨今の考え方は、ピントがずれてる!と認識すべきではないだろうか。


マニュアル化による弊害

皆さんの周りには、マニュアルを作りたがる人はいないだろうか。私の周りでは非常に多かった。しかも、現場を見て作るのではなく、机に向かって理屈で色々考える本社の人間に限ってそうだった。

マニュアル化したほうが管理が楽だからだろうが、本社の人間によって無理やり作られた枠にはめ込まれた内容は、現場の実態とはかけ離れており、現場の人間や作業員の関心を捉える魅力的なモノではなかった。

マニュアル化すると、微妙なところがドンドン削られていく。それ自体は、業務が整理され良いことにも感じる。だが、本当は、その削られた微妙なところこそ大切なのではないかと思っている。

その微妙なところが建築の個性となり、その現場独特の最適解をもたらす根拠となり、それは同時に、その現場に関わる若手の現場管理者を育てる要素にもなる。それが軽んじられるとどうなるだろうか?

その現場独特の問題を最適解ではなく、一般解で解決しようとするだろう。その結果、建築は一様になり、独自性のない個性の欠片もないモノになってしまう。それが良い!となれば誰も工夫しないだろうし、挑戦もしなくなるに違いない。

仕事の多くが挑戦や冒険などとは無縁で、当たり前の一般的なやり方を踏襲するのは事実だ。だが、なにか問題にぶつかった時、最適解を求めようとすれば一般解ではなく、応用を利かせた方法を考えるほうが自然だと思うが、少しずつ、現場の人間はそれを口に出さなくなっているように感じる。

「言ってもどうせ駄目だろう」と、半分諦めているようだ。それでもなんとか粘って、自分の判断で機転を利かせ、応用解で乗り切ろうとする人たちが居るうちはまだいい。だが、いずれそんな人たちも居なくなり、全てを杓子定規な解答でしか解決できない、サラリーマン管理者ばかりになるだろう。

そうなると技術の進歩は望めない。応用に応用を積み重ねた現場でこそ、技術者の成長、技術の進歩に繋がると思うからだ。

マニュアル化が進むことで、自分が出る杭になって打たれるのを極端に恐れる日本人サラリーマンの風潮が、建設の現場管理の世界をも覆い尽くし、技術の進歩と定着を阻害し始めていることに危機感を感じている。


マニュアルだけでは技術は身に付かない

マニュアルを作ってその通りにやらせようとする意識は、上層部の人間ほど強いように思う。ただそれは掛け声ばかりで、寄らば大樹の陰の意識が強く、輪をはみ出すような発展的なことは一切実践しようとしない。

そんな人たちが現場に来て、作業員の前で話をしても上滑りな話ばっかりで、作業員の心に響く話ができないのは当然だ。どんな話をすれば、作業員が自分事として捉え心から安全を確保しよう!と思ってもらえるか、そのためには何をどうしたらいいかなど、恐らく真剣に考えたことなどない人間ばかりではないだろうか。

だが、批判ばっかりしていても何も始まらないし、第一、全く面白くない。『お前の立場でできることはなんだ?』『お前はそれを実践してるのか?』と、そんな問いかけが自分自身に返ってくる。

ここまで私の想いを書いてきたが、マニュアルが全く役に立たないという話ではない。特に、技術の伝承を考えた時、基本から始まって応用の初級・中級・上級・超級などをまとめるのは、決して無駄にはならないだろう。

ただ、そのマニュアルを読んだり話を聞いただけでは、技術は身に付かない。その応用に至った経緯やその結論に到達するまでの生の情報に触れ、その話に感激し、それをマニュアル通りにいくかどうかを自分で実践してみて、初めて技術が身に付くモノだ。

私も、まだどこにも書いていないような建築図面の描き方や施工図のポイント、現場管理のポイント応用編などを、やる気のある若い技術者に伝授したい!!という気持ちはとても強い。

マニュアルに書かれた方法だけを頼るのではなく、自分の与えられた立場で最良最適と思われる方法を実践し続け、最終的にはその技術を伝承していきたいと考えている。

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アジア、アフリカなど海外の建築現場で長年、施工管理に従事している。世界中で対日感情が良好なのは、先人たちの積み重ねである。日本人として恥ずかしくない技術者でいたい。
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