CLT建築の内部

CLT建築の内部

【大東建託】オリジナルCLT工法の4階建て賃貸住宅が上棟。脱炭素へ新たなステージに突入

大東建託がCLT工法の現場見学会を開催

大東建託株式会社は、オリジナルCLT工法による木造4階建て賃貸住宅を開発、1号棟が千葉県船橋市で着工、2022年6月の完成を予定している。

ポイントは、林野庁補助事業「CLT活用建築物等実証事業」の審査を受け、採択された建物であり、4階建てを可能にするオリジナル内蔵型接合部⾦物を採用、さらにパネル化が可能な耐火外壁で現場作業の省力化と工期短縮を実現したという。

「2050年のカーボンニュートラルの実現」などで期待されるCLTによる賃貸住宅での建築技術はどのようなものか。このほど現場見学会を開催し、大東建託商品開発部の南部佳央課長が内部で詳細に説明した。

千葉県・船橋市で建築中のオリジナルCLT工法による木造4階建て賃貸住宅

CLT工法をパネル化し、工期短縮に効果

現在、千葉県・船橋市で建築中の1号棟は、木造(CLTパネル工法)4階建てで、高さは13.44m、建築面積81.54m2、延床面積299.12m2で、7戸の共同住宅。壁材はCLT、床材は集成材及び床合板から構成し、CLT壁は国産スギを使用。4階建てを可能にする独自の内蔵型接合部金物を使用することで、大地震時に対しても安全な構造としている。

オリジナル金物はピンを差し込むドリフトピン仕様で、一般的なCLT工法に用いられるビス留め仕様と比べ、現場での作業時間を大幅に短縮し、施工品質の均一化を実現した。この内蔵型接合部金物の導入が大東建託オリジナルパネルCLT工法の中心の部分と言える。さらに、工期短縮を目的に「CLTパネルは工場で制作するが、金物も一緒に工場などで取り付ける。そして現地でボルトやピンを留める作業を行う」(南部氏)と、工場施工を大幅に展開していることも同工法の特徴だ。

基礎の部分では、基礎と1階壁パネルを接合するため基礎内に埋め込まれる金物であるアンカーボルトを高い精度で設置できる仮設材「アンカーフレーム」を用いた脚部金物の施工方法を確立、基礎接合部の金物の設置精度の向上している。

「アンカーボルトの設置は、施工の難しい点と言える。もしアンカーボルトがずれていれば接合できず、無理やり挿れようとしても傾いてしまう。建物技術では、アンカーボルトは技術的な命。これを疎かにすると、建物の形状が不安定になってしまう」(南部氏)

通常の木造建築では「アンカーフレーム」を導入する事例は数少ないが、基礎にも配慮した工法と言える。そして基礎部分から金物を挿入し、上からパネルCLTを取り付ける。CLT外側に耐火被覆材を張り重ね、パネルの端同士をピッタリとくっつけるような突付張りとすることで、現場での耐火被覆材の施工を省略化している。


RC造施工よりも効率的で職人不足にも対応

施工手順は、CLTパネルを吊込み、CLT壁パネルと大梁を施工、続いて大梁、小梁、床受材、さらに床を施工することで建て方は完了する。施工日数は、1フロア当たり約3日間。1日目は壁・大梁、2日目は小梁・床受材、3日目は床合板をワンサイクルでそれぞれ施工し、4フロアであれば合計約12日間で完了する。

現在、CLTに限らずパネル工法の導入が各社で進んでおり、現場作業を簡易化し、専門技能が不要な仕様としていう。現在でも厳しい状況にある建設技能者や大工不足にもいち早く対応した工法といえる。加えて、工場取付が可能な接合金物により、金物取付の品質精度の向上を図った点も工法の優位性を示した点だ。

CLTパネル工法の建て方

4階建てであれば通常、木造ではなくRC造となる。大東建託は木造物件の多くは、ツーバイフォー工法だ。「RC造4階建てで同様な建築物を施工すれば3か月掛かる。そこで独自のパネルCLT工法を導入することで大幅な工期短縮が図れた効果がある」(南部氏)

繊維混入セメント板は雨に強くパネル化にも最適

CLTのパネル化では、工場か中継ヤードで塗装した繊維混入セメント板2枚をCLTに張り、その後現場に搬入する。CLTパネル化に最適な1時間耐火外壁仕様を開発、大臣認定を得ている。繊維混入セメント板は、プラスターボードと比較し雨に強く、1枚目の繊維混入セメント板とCLTパネルの目地同士を合わせることができるため、パネル化に適しているという特徴がある。

耐火外壁の工場施工

「繊維混入セメント板を工場内などで貼り付けた。このパネル板はかなり重く現場で貼り付けようとすると、職人の負担が大変重い。できるだけ工場内で行うことで品質を保ち、あわせて簡易化を実現している。耐火外壁は、告示により強化プラスターボードの使用が求められているが、外壁に関係する場所には繊維混入セメント板を用いている。その理由として、建築中で雨が降った際、強化プラスターボードは濡れるため、品質が低下するケースがある。そこで雨に強い繊維混入セメント板をパネル化し外壁部に使用、囲いができれば内部では強化プラスターボードを貼る構造としました。通常、こうした構造はないため、実験を重ねてこのパネルと施工のために大臣認定を取得しました」(南部氏)

また、CLTの需要は都市部。都市部の特徴は敷地が狭く、アクセスする道も狭い。今回のCLT工場は岡山県にあり、大東建託は各地に中継ヤードを設置しておりその後小型車で現場に搬入する体制とした。また、CLT工法は木材を多く使用するため、脱炭素社会へ向けて大いに期待がかかる。

第1号棟では躯体には、CLT材、集成材、合板などで85m3の国産材を使用しており、輸入木材を含むと木材使用量は124m3となる。


ツーバイフォーから一歩進めてCLTへ

大東建託商品開発部の南部佳央商品開発課課長

――CLT建築でアピールしたい点は。

南部氏 CLTは木材を多く使います。今、日本の山林問題は約50年前に植林して伐採期を迎えておりますが、現在、国産材を使用していない点が大きな課題として挙げられます。木材を使わないことは林業の衰退に通じますし、管理をしない山が次々と生まれ、山の土壌も衰えていきます。この連鎖が続いていくと、大雨の時には土砂崩れを起こし、自然災害が多発する原因になります。

当社としては、現状でもツーバイフォー工法による賃貸住宅で国産材、輸入材などの活用を進めていますが、さらに一歩進め、木材の活用を今後とも行い、林業の活性化に貢献したいという思いがあります。ツーバイフォー工法に加えて、CLT工法を導入し、持続可能な社会や林業に貢献したいと考えております。

CLT建築の実績としては、東京・江東区には「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場」、岩手県の社員寮に続いて、これが3棟目になります。

現在、オーナー様一人ひとりに丁寧にCLT建築の優位を説明しており、成約の実現を目指していきたいと考えております。

炭素貯蔵効果に期待

――このCLT建築の比較対象はRC造ですが、職人の数はどのくらい減少できたのでしょうか。また、パネル工法ですのでかなり楽になったと思いますが利便性について職人からどのような声がありましたか。

南部氏 実証事業報告の関係で、RC造との比較をするために現在調べている段階です。現場の人数としては格段に減少しました。工場などで作業する人数も合わせ、合算する作業を行っています。

職人からは、「やりやすい」という声が上がっています。CLT材は重いので、「パネル化で内蔵型しない施工は大変だ」という声もありました。現在、協力会の教育については1社に留まっていますが、その協力会社が別の施工会社に伝承していく仕組みを取りたいと思います。

CLTとRC造で中規模建築を

――ハイブリッド建築により、さらに高さを伸ばしていくお考えは。

南部氏 現行の木造建築では5階以上となると2時間耐火構造が必要になります。当社の耐火パネルは1時間耐火仕様ですので4階が限界です。ですが、1階をRC造で残りの4階を木造の、5階建ての複合建築が可能になりますので、5階建てを複合構造で建築することは検討している段階です。

――CLTに限らずパネル工法は主流になっていくのでしょうか。

南部氏 現場で省力化していくためには、これからツーバイフォー建築も含めてパネル工法に注力していきたいと考えています。ツーバイフォー工法では合板を張るまでは、パネル化はしておりますが、そこからの仕上げ、石膏ボードや建具などをつけるところまでのパネル化の挑戦には至っておりません。

――CLT製材側との連携は。

南部氏 現在、ツーバイフォー工法では国産材や輸入材に関しては直に、製材側と取引を行っています。CLT材に関しては現段階ではメーカーから購入する体制ですが、もしCLT建築が今後、大きく普及していくことになるとコスト効率を考えて新たな購入方法を検討していく必要があると思います。

施主にもSDGsの意識が高まる

――今回、オーナーがRC造ではなく、CLT建築を選択された理由はなにかありますか。

南部氏 オーナー様は、「これからは『SDGs』の時代だから、それに貢献する工法にしたい」とおっしゃられました。さらにCLT建築はうまく活用できれば助成金をいただけます。

ただ、コストは、助成金をいただかないと難しい事業ですので、今後、事業として提案できるように成長していくことが望ましく、将来的にはRC造とほぼ同様に設定していきたいです。

しかし、それがいつになるかはまだ分かりません。面積あたりの耐火建築にかかるコストと、RC造の壁のコストを比較すると倍程度掛かります。確かにCLT建築は軽量で温熱環境に優しいという機能はありますが、結局、CLT材そのものが高いという現状がありますので、まだ厳しい面もあります。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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