「今でも現場仕事は苦手」だけど、仕事を続けてこれた理由
成友興業(せいゆうこうぎょう)株式会社(本社:東京都あきる野市)は、都内を中心に、道路工事をはじめとする建設事業のほか、産業廃棄物処理などの環境事業も手掛ける会社だ。縁あって、同社で道路工事に従事する新山謙さんに取材する機会を得た。
新山さんは入社10年目の中堅技術者で、現在、監理技術者として都内の街路築造工事の現場を取り仕切っている。「今でも現場仕事は苦手」と明かす新山さんだが、どういう思いを持って現場仕事を続けてきたのか。新山さんのモチベーションを支えてきたものはなんなのか。彼のキャリアを振り返りつつ、その辺に迫ってみた。
入社当初はイメージと現実のギャップに苦悩
――ご出身は?
新山さん 仙台です。大学進学で東京に出てきました。
――土木との出会いは?
新山さん 大学進学の際、なんとなく土木に興味を持ちました。そこで、東京都内の大学で、都市工学を学びました。研究室は計画マネジメントで、交通事故が起きないような道路景観について研究していました。
――入社の理由は?
新山さん 就活の際、「道路工事はおもしろそうだな」ということで、入社しました。入社前は、仕事のイメージは漠然としたものだったので、入社してから、あれもやる、これもやるということを初めて知りました。イメージと実際の仕事はかなりギャップがありましたね。そこで苦悩しました。自分に何ができるのか、どういったものに興味が持てるのか、自分が得意とする部分を活かせるのかということを考えながら、日々の仕事をやってきました。
――成友興業に入社されたのはいつですか?
新山さん 2011年です。入社後は、先輩に付いて、測量の補助や写真撮影などをやっていました。3年目ぐらいから、下請けの現場を中心に仕事を任されるようになりました。
「辞めたい」と思ったが、家庭を持っていたので引き下がれなかった
――最初の現場を覚えていますか?
新山さん 清瀬の都道周辺道路の取り付け工事の下請けの現場です。ほんの数ヶ月ほどでしたが。
――どうでしたか?
新山さん 現場監督のイメージと現実とのギャップにそうとう苦しみましたね(笑)。クイ打ちなど、とにかく力仕事が多くて。「イヤだな」と思ったこともありました。結果的に、このギャップを乗り越えられたので、良い経験ができたと思っていますけど。
――よく辛抱されましたね。
新山さん 私は、この仕事を始めたころには、すでに家庭を持っていました。家族を養っていかなければいけないという環境でしたので、かんたんには引き下がれないという思いがありました。「辞めたいな」と思ったこともありますが、なんとかやってきました(笑)。
工事初日に、図面が変わった
――その後はどのような現場を?
新山さん 道路工事をメインにやってきました。3年目に2級土木施工管理技士を取得して、現場代理人として現場に出るようになりました。5年目に1級土木施工管理技士を取得して、現場代理人、または監理技術者として現場に出ています。短い現場で1ヶ月ほど、長い現場だと1〜2年ほどです。
――周りとのコミュニケーションは大丈夫でしたか?
新山さん それも苦労しました。初めて一人で現場を任されたときは、とくに段取りが後手後手に回ってしまいました。今振り返ると、ムダが多い現場になってしまったと思いますが、それでもなんとか工期内に収められたので、良い経験になったと思っています。
――具体的に、これはムダだったなと思うことはありますか?
新山さん 現場に張りつきっぱなしだったことですね。ムダに現場にいたという気がします。下請けさんに任せるところは任せて、自分は次の段取りに回るとか、要所を押さえて必要なところだけを重点的にチェックするとか、もっと自由に動けば良かったなと思います。
――監理技術者として初めて入った現場はどうでした?
新山さん 調布のアンダーパスの道路新設の現場でしたが、現場は基本的に後輩に任せて、自分は発注者との協議、書類作成、原価管理をメインでやるというカタチになりました。
決められたモノをつくるという意味ではそれまでの現場と変わりはありませんが、設計通りにモノがつくれないことや、途中で設計が変わるといったことが何度かありました。そのたびに技術的な提案を練って、発注者と協議するということをやりました。これはそれまで経験したことがなかった仕事でした。
調布のアンダーパス現場(完成後)
――そんなに図面が変わったのですか?
新山さん はい。図面をもらって、さあ工事にかかろうとしたら、初日にいきなり図面が変わりました。かなりイレギュラーなことだと思います。あと、予定外の下水道工事も追加されました。下水工事着手の作業が加わるだけでなく、それに伴い本体工事の工程も調整しなければならず、いろいろ苦労しました。
――工期も伸びそうですけど。
新山さん ええ、丸1年伸びて、2年間になりました。
――まさに土木現場という感じがしますが。
新山さん そうですね(笑)。住民の方などから「いつになったら、開通するんだ」といった問い合わせをいただくこともありました。そのたびに丁寧に説明し、良好な関係の構築に努めました。
――こうしとけば良かったと思う点はありますか?
新山さん 初めて一人で任された現場の話と重複しますが、自分で抱え過ぎずに、もっと後輩に現場を任せておけば良かったかなとは思います。要所を押さえて必要なところだけを重点的にチェックする力が足りなかったなと思いますし、今でもまだまだ足りないと思っています。
ICT施工は、効率も上がるし、説明もしやすい
曙橋現場の現況
――今どのような現場を担当していますか?
新山さん 現在は、現場代理人 兼 監理技術者として、新宿の曙橋で街路築造工事を行っています。車道舗装、排水施設、歩道舗装、縁石設置などの施工がメインの現場で、片側2車線の道路の外回り部分を改修しています。
――ICT施工ですか?
新山さん そうです。今回の現場では、レーザースキャナで点群データを取ってモデルをつくりました。その上で技術提案し、実際に施工を行っているところです。ICT施工の良いところは、測量作業の作業効率が上がるということもありますが、ビューワを用いて打合せすることで、施工後のイメージを発注者や若手社員などにも説明しやすい、ということもあると思います。
曙橋現場の3Dモデル
現場を動き回るより、内勤が好きなタイプ
――これまでで印象に残っている現場はなんですか?
新山さん 前述の、調布の現場が最も印象に残っています。苦労しましたが、最終的に、東京都の都市整備局長表彰をいただきました。高く評価していただいたということもあって、印象に残っています。
――仕事のやりがいは?
新山さん 現場第一主義の方々は多く見受けられますが、実はボク自身は、内勤向きであると思っています。正直、現場で動き回るよりも、内勤でパソコンを用いて図面や書類をつくったりするほうが、得意だし、向いていると思っています。
ただし、書類をきれいにまとめるためには、現場で良い写真を撮らなければならないし、良い測量・段取りをしなければなりません。こうした考え方を持つことで、次第に現場作業も知識と経験が付いて行くようになり、書類だけではなく現場仕事も、徐々に上手くこなせるようになっていきました。
構造物はいずれなくなるけど、書類は記録として役所に残り続ける
――書類づくりのほうが楽しいというのは、あまり聞かないアプローチですね。
新山さん 当然、「現場で良いモノをつくりたい」という考えは持っていますし、そのための書類作成だと思っています。ですが、ボクが書類づくりを楽しいと思えているのは、「書類は残る」という考え方からです。
書類には現場に関する情報がすべて入っています。現場で新しく構造物をつくったとしても、いずれ古くなり改修し、なくなってしまいます。しかし書類は、役所内で紛失したりしない限り、記録として残り続けます。工事件名や受注社名・工期はもとより、自分の名前が現場代理人として残るので、ボクはそういうところに誇りをもって仕事しています。
――書類づくりのコツはありますか?
新山さん いろいろありますが、竣工書類で大事なのは「見栄え」だと思いますし、単純に「見やすい書類が評価される」と思っています。例えば、検査のときでも、よくまとまっている書類は見てもらいやすいです。現場に追われて、バタバタの状態でつくった書類は、どうしても随所にアラが目立つ書類になってしまいがちです。そういう書類はパッと見ても、ちゃんとまとまっていない印象を与えてしまい、最終的に良い評価につながらない可能性が高いと思います。
ただし何よりも、出来栄えや品質の良いモノが作れないと、書類も良いものができないので、そこはかなり意識しています。
――後輩に教える際に気をつけていることはありますか?
新山さん 「とにかく確認すること」「よく考えること」「手直し、手戻りがないように」ということは、しっかり意識づけるようにしています。
――新山さんにとって、土木の魅力は?
新山さん ボク個人としては、土木の仕事は、衣食住を支える絶対不可欠な仕事だと思っています。
その中でも、一般の方々にとって道路は日常の中にあるなにげない存在だと思いますが、実は、縦横断勾配が綿密に計画されていて水たまりができないように設計されていたり、走行性・平坦性が良くなるような工夫があったり、舗装の構造にも種類があったり。一口に道路と言っても、意外と随所にこだわりがあったり、奥が深かったりしますので、ボクはこれが道路工事の魅力であり、おもしろいところであると思っています。