本当に、書類なんて二の次か?
新米の頃、上司にこう言われた経験はないだろうか。
「書類なんか二の次だ!とにかく現場に出て、現場を覚えろ!」
言われた人は一体どれくらいいるだろう。私も新入社員1年目の時には、耳にタコができるくらい「現場に出ろ!」と言われた。書類なんかやろうものなら怒号が飛んでいたものだ。
しかし、そんな経験をした私はいまだに疑問に思うことがある。それは、あの時もっとこんな風にできていれば、仕事や段取りをもっと効率的に覚えることができたのではないか?ということだ。
そして、多くのベテラン現場監督が口にする「とにかく現場に出ろ」というのは、決してそれが全てではないということもこの記事では伝えたい。
ある日いきなり数量計算を任せられる
「現場に出ろ」と言われる理由は、現場でどういった施工を行なっているのか理解できなければ管理以前の問題だ、という意味が込められているからだろう。
しかし、人によっては、この教育方法が全く当てはまらない人もいる。まさに私がそうだった。
現場に出て、施工を見て、時には職人と一緒に施工を行なっていたが、私の場合、施工の仕方は覚えても、工事全体のイメージを掴むというのがなかなかできなかった。
そんな時、現場が変わり、教育してくれる所長も変わった頃だった。所長は私に設計書を手渡し、「工事数量を拾っておいてくれ」と一言放ち、それっきり何も求めてこなかった。
1週間後、私の頭に変化が・・・
初めは、俗にいうパワハラだと思った。何も分からない私に工事の数量を拾えと言うのだから、最初からハードルが高すぎるのでは?と少し不満に思っていた。
もちろん初めは何も分からなかったので、分からないなりにパソコンで検索しては、工事の材料数量をひたすら電卓で弾いて計算した。とにかく早く数量を拾わないと怒られるという思いから、数字を出すことに必死だった。
そんな作業を繰り返して1週間が経ったある日、私の頭に変化が現れ始めた。なんとなくではあるが、工事でつくる構造物や形状がイメージできるようになってきたのだ。
何回もコンクリート、砕石、型枠の数量を計算し、その形状を何度も何度もイメージする。すると、自然と頭の中で作ろうとしている構造物の形が浮かんでくるようになった。構造が分からなければ断面図を何度も見ることで、全体の構造がなんとなく見えてくるようになっていった。
「完成形」がイメージできることが重要
この所長の「数量を拾え」という教えの本質は、何度も数量を計算して形状をイメージさせることで、自分が今から作ろうとしている完成形をイメージさせるということだった。
イメージできる力がついてから、私の中で大きく現場での理解度が変わった。まず、何をしようとしているのかがはっきりと分かるようになった。特に、自分で数量を拾っているので、現場で擁壁の延長やコンクリートのボリュームを聞かれても迷うことなく、すぐに答えることができるようになった。
とはいえ、全てが理解できるようになったわけではないが、以前の右も左も分からない時に比べたら天と地の差である。現場で作業を見ることも大切だが、図面上で完成形をイメージして、現場での作業結果をあらかじめ頭に入れておくことは、大きな成長につながると思っている。
現場を覚えることで一人前になるという考え方は決して間違っているとは思わない。しかし、実際に私たちが将来的にしなければならないことは施工ではない。しっかりと施工を先読みし、段取りや管理をすることである。
それを実現するためには、工事に関する基本的な図面から情報を読み取る力を、早い段階から身に付ける訓練が非常に重要である。数量計算は、初歩的な段階でさせることで、非常に効果的な勉強になると感じている。