鬼頭 夏樹さん(西松建設株式会社 西日本支社四国支店 不破原トンネル出張所所長)

鬼頭 夏樹さん(西松建設株式会社 西日本支社四国支店 不破原トンネル出張所所長)

「普通に掘るだけではおもしろくない」 “日本一のトンネル現場”を目指す西松建設出張所所長の現場づくりとは?

トンネル工事の魅力、現場づくりの創意工夫を知る

国土交通省のホームページを見ていたら、地元の高知県でけっこう先進的なトンネル工事現場が動いているらしいことを知った。そこで、工事を所管する中村河川国道事務所に対し、現場取材を申し込んだ。

その結果、西松建設株式会社の不破原(ふばはら)トンネル出張所所長の鬼頭夏樹さんに取材することになった。ということで、鬼頭さんのこれまでのキャリア、トンネル工事の魅力、現場づくりに関する創意工夫などについて、お話を聞いてきた。

「なんでおるん?」

――ここはどのような現場ですか?

鬼頭さん 高規格道路としての四国8の字ネットワークの一区間をなす窪川佐賀道路(佐賀工区)のトンネル掘削工事です。もともとの工期は令和3年3月から令和6年1月でしたが、着工が半年ほど遅れたので、工事完了はその分延期になる見通しです。昼夜体制で、24時間施工しています。

現在の進捗(2022年10月時点)としては、全長1831mのうち587m掘り終わっているので、約32%というところです。あと1年半ぐらいをかけて、残りを掘削していくことになります。

不破原トンネル工事概要ビデオ / YouTube(VPO工事動画)

――高知の現場は初めてですか?

鬼頭さん 2度目です。同じ高規格道路の隣の区間の現場に入っていました。非常に稀なケースだと思いますが、自分がつくったトンネルをしょっちゅう通っています。高知にはもう来ないだろうと思っていたのですが、まさかの隣の現場に来てしまいました。前回の工事でお世話になった地元の方には「なんでおるん?」と言われました(笑)。

――24時間現場が動いているとなると、現場トップとしては大変でしょう。

鬼頭さん 山岳トンネルは、24時間施工が当たり前なので、慣れていると言えば慣れています。ただ、夜中の電話は未だに慣れません(笑)。やはりあまり気持ちの良いものではないですね。所長という立場になってからは、直接電話がかかってくることはなくなりましたが。

自然は偉大なので、コントロールしてはいけない

――と言うことは、いわゆる「トンネル屋」さんでらっしゃる?

鬼頭さん そうです。現場はトンネル工事しかしたことがありません。しかも、NATM工法しかやったことがありません。

私のような人間は、社内でも珍しい部類だと思います。数年前から、若手社員にはいろいろな工種を経験させようというのが会社の方針になっているので、今後は私のような社員は生まれることはないでしょう。

――トンネル工事がやりたくて、西松建設に入社したのですか?

鬼頭さん いいえ、25年ぐらい前に入社した当時は、トンネルをやりたいとはまったく思っていなかったですね(笑)。大学の研究室は水理系でしたし。

入社後、最初の赴任地がたまたまトンネル工事の現場だったということです。約2年間ほぼ最初から貫通までいて、それでトンネル工事にどっぷり浸かりました。その後は、毎年「トンネルをやりたい」と会社に希望を出し続けました。それでこうなったわけです(笑)。

――最初のトンネル現場はそんなに良かったのですか?

鬼頭さん ええ、楽しかったですね。石川県の山中温泉近くの延長1000mほどのトンネルでしたが、それまでに見たことがない工事現場、見たことがない機械ということで、非日常感がハンパなかったのが、楽しかったです。

あと、トンネルの場合、突発流水とか、変状や変位とか、想定外のことがしょっちゅう起きるので、そういう「自然を相手にしている」感じも楽しかったですね。「自然は偉大なので、コントロールしようとしてはいけない」ということを学びました。

――最初は教わりながら仕事を覚えていった感じでしたか?

鬼頭さん そうですね。下っ端として、計測や測量、施工管理、品質管理といった仕事をメインでやっていました。トンネルには常にツブれようとするチカラが働いているので、どれぐらい動いているか計測することは、非常に重要な職務なんです。

――「貫通した瞬間に感動する」という話を聞きます。

鬼頭さん まさにその通りです。真っ暗なトンネルの中に、スッと光が差し込んだ瞬間というものは、なにものにも変えがたい経験です。私を含め、トンネル屋という人種はそれだけを目指してやっていると思います。

明かりの工事などとは違って、トンネル内では工種が少ないので、貫通することに集中しているわけです。なので、トンネルの現場は、現場のみんながまとまりやすいんです。目指しているものが同じなので。

――トンネル工事の魅力はなんですか?

鬼頭さん なんでしょうねえ(笑)。今となっては自分の強みになっていますし、「トンネルに関しては誰にも負けたくない」という思いがありますけど、改めて魅力はと言われると、難しいですね。

3つ上の先輩を「いつか越えたい」

――「自分はトンネル屋だな」と自覚したのはいつですか?

鬼頭さん 入社して2つ目に配属された岐阜高山のトンネル現場にいたころですね。そこは100億円ぐらいのけっこう大きな現場で、4年ほどいたのですが、そこでスゴい先輩に出会ったんです。その人もトンネル屋だったのですが、たった3つ上なのに、豊富な知識と頭の良さに圧倒され、憧れるようになりました。

それと同時に、「その人をいつか越えたい」と考えるようになりました。まあ、いまだに越えられていないんですけどね(笑)。ずっと私の目標の人です。

――知識があって頭が良い方だったのですか?

鬼頭さん 知識や頭の良さをはじめ、なにをやっても勝てないなと思わせる方でした。今は海外で仕事をしてらっしゃいます。当時の私は、トンネル工事に関して多少自信を持ち始めていたのですが、見事に鼻っ柱を折られました(笑)。今思えば、非常に良い勉強をさせていただきました。

――3つ上で、そんなに違っていたんですね。

鬼頭さん ええ、3つしか違わないのに、その方は完全に現場を仕切っていたんです。役所の方ともバチバチに交渉していましたし。その方は監理技術者の下の立場でしたけど、立場に関係なくバリバリにやってらっしゃいました。

――どういう経験を積めば、そうなれるのか興味深いですね。

鬼頭さん ホントそうですね(笑)。私にとっては衝撃でしたよ。「自分がやってきた3年間はなんだったんだ、これはイカン」と思いましたから。

「自分を超える部下を育てる」のが所長としてのミッション

不破原トンネル工事の掘削部分

――現場で役職についたのはいつごろですか?

鬼頭さん 初めて監理技術者をやったのは31才でした。会社に「やらしてくれ」と言ったら、やらせてもらえました(笑)。けっこう早いほうだと思います。石川県の七尾のトンネル工事でした。それまでは自分でやるのが一番早いという感じでしたが、監理技術者という立場になると、他人にやらせないと自分の仕事ができないので、できるだけ自分をフリーな状態にするよう努力しました。

さきほどの憧れの先輩から「自分を超える部下を育てろ。じゃないと、良い会社にならない」と教わり、それまでは「自分が自分が」でしたけど、この言葉をきっかけに、考えを改めました。ただ、簡単なことではないので、なかなか切り替えられなかったんですけどね(笑)。でも、「自分をフリーにしよう」と試行錯誤したことは、良い経験になっていると思っています。

――役所などとの交渉力とか、コミュ力みたいなものは、意識して身につけていったのですか?

鬼頭さん 知らない間に身についていた感じですね。学生のころは、体育会系の上下関係のもとでいろいろ鍛えられたので、会社に入ってから、人間関係で苦労したということは、あまりありません。どんな人でも対応できる自信はあります。

――現在は所長さんという立場ですが、監理技術者や現場代理人と比べ、やる仕事は変わるのですか?

鬼頭さん ええ、変わりますね。所長として現場に入るのは、ここが初めてですが、具体的な仕事は現場代理人や監理技術者にすべて任せています。基本フリーな立場を保つようにしています。所長の仕事として、現場の方向性なんかを決めるのは私の仕事ですが、現場をどう回すかとか、お金の管理とか、発注者などとの交渉などは、基本的に下の者に任せています。

均質ではない地質、大雨のような湧水を覚悟しながらの施工

――経験豊富なトンネル屋さんとして、こちらの現場をどうごらんになっていますか?

鬼頭さん 均質ではない四万十付加体という地質を掘るので、そこが難しいところです。地質が均質ではないので、掘り進むごとに、地質が変化するんです。

湧水もかなり出ますので、大雨の中作業している状態になります。機械も壊れやすくなりますし、ウチの職員も作業員さんもビショビショになります。ある程度覚悟しながら、今後も掘り続けていかなければなりません。

この現場は、現場近くに作業ヤードを確保できないため、別の会社さんが施工した橋梁とトンネルの向こう側の700mほど離れた場所にしか作業ヤードを設置できません。それも特異な条件になります。

坑内に設置された休憩室

語りきれないほどある現場での創意工夫

けっこう視界がクリアな坑内。右側には、ベルトコンベアが設置されているのが見える。

――この現場で工夫していることはなんですか?

鬼頭さん 作業ヤードが離れていることもあり、ベルトコンベアを設置しています。掘った土は通常ダンプトラックで運ぶのですが、ここのトンネルでは運搬距離がかなり長くなってしまいます。土を運ぶ時間効率を考えたときに、ベルトコンベアのほうが有利だということで、土を細かく砕く機械も入れて、運用しています。ベルトコンベアにすることで、ダンプの排気ガスも出ませんし、安全性も向上します。まあ、コスト的には高くなるのですが(笑)。

あとは、移動式発破防護バルーンを使っています。発破の際の飛び石を防ぐためのカベをつくる装置で、退避距離が短くなるし、安全性も向上できて、スゴく良いです。夜間も発破をかけるので、当然の措置として、防音扉を設置しています。

また、低粉塵なコンクリート吹付けが可能な工法も採用しています。通常の吹付け作業は、多量の粉塵が坑内に飛び散ってしまうのですが、専用の急結材やフライアッシュなどを混ぜることで、粉塵を低減しています。実際に使ってみて、坑内はかなりキレイです。

さらには、坑口には軽量盛土を採用しています。トンネルの坑口をつくったら、通常は上に土のうを積むのですが、ここの現場では軽量盛土により、坑門面壁の形状をあらかじめカタチづくっています。坑門面壁を施工する際に、型枠とか足場が不要になるというメリットがあります。見学者のために、完成形をイメージしやすく、見栄えが良いということもあります。

現時点ではまだ準備中ですが、遠隔操作できるホイールローダの導入を予定しています。実際に稼働すれば、全国初だと思います。全国初ということで言えば、この現場の電気は、高知県営水力発電所の電気ですべて賄っています。エネルギーの地産地消ということですね。

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この現場を日本一のトンネル現場にしよう

作業所入り口に設置されている開運「日本一トンネルたぬき」

――「全国初」がけっこうありますね。

鬼頭さん それは、私が新しいもの好きだからです。この現場に入ったときに、現場のみんなに対して「この現場を日本一のトンネル現場にしよう」、「これまで誰も見たことがないような現場にしよう」と言いました。それを目指して、いろいろなことに取り組んでいるところです。部下からは、「普通に掘らせてくれ」と苦情が出ていますが、「普通に掘るだけだったら、おもしろくないだろ」と説き伏せています(笑)。

あと、坑口にはデジタル文字シートを組み合わせた「おくだけガードマン」を置いています。これも全国初だと聞いています。置くだけガードマンは、車両の出入りをセンサーで検知して、対向車両に警報を出すシステムです。

ついでに言えば、トンネルを掘削する最前部に、関係者以外立ち入り禁止の遮断機も設置しています。ヘルメットに内蔵したタグを検知して開く遮断機です。タグがない場合は開かないので、関係者以外は立ち入り禁止にすることができます。まあ、ムリやり行こうと思えば、ヨコから行けるんですけどね(笑)。さらに言えば、坑内にデジタルサイネージも置いています。

汚いトイレがイヤで、特注した自慢の「超快適トイレ」

特注した「超快適トイレ」。利用するときはマシンで長靴を洗うのが作法。

――いや〜、盛りだくさんですね。

鬼頭さん まだありますよ(笑)。これはぜひ自慢したいのですが、坑内には「超快適トイレ」というものを設置しています。プレハブハウスの業者さんに特注でつくってもらったトイレです。普通はボックストイレですが、屋内のトイレ並みに浄化槽をつけています。言ってみれば、「トイレ棟」ですね。

私が若いころに、現場で一番イヤだったのが汚いトイレでした。「なんで現場にキレイなトイレを置かないんだ」とずっと思っていました。それで超快適なトイレを置きました。ただ、残念ながら、これは全国初ではないと思いますが(笑)。

「超快適」というだけあって、坑内に設置されたトイレとは思えない仕上がり。

――当然、3Dデータなんかも活用されているんですよね?

鬼頭さん そうですね、CIMは活用しています。坑門は道路の線形に対して真っ直ぐに施工するのが普通なのですが、ウチのほうで、現地調査と合わせて、CIMで3Dモデリングして検討したところ、山に沿って30度ほど角度をつけて斜坑門にすれば、もとの設計図にあった法面の切り土が不要になりますし、コンクリート構造物も小さくできることがわかりました。

この3Dデータは、発注者さんとの設計変更の協議に活用しました。こういった変更はなかなか説明しづらいものですが、3Dで比較すると一目瞭然なので、スムーズに設計変更することができました。

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お遍路さんの休憩所を設置したら、スゴく喜んでもらえた

事務所前に設置されたお遍路さん休憩所

――事務所前の国道沿いにお遍路さんの休憩所がありますが、これも鬼頭所長のアイデアですか?

鬼頭さん そうです。ちょうど事務所の前の道がお遍路道なのと、もともとあった休憩所が閉鎖になってしまったので、「じゃあ、ウチで休憩所を設置しよう」ということにしました。

休憩所には、エアコンやウォーターサーバーなどを入れています。ソーラーパネルを設置して、無料で電気を使っていただけるようにしています。室内には自由帳も置いているのですが、それを読むと、多くの方々にスゴく喜んでいただいているようです。ここまで喜んでいただけるとは思っていなかっただけに、「やってホント良かった」と思っています。

――と言うか、それだけの潤沢な予算があるのが、「スゴいな」と思っているわけですが。

鬼頭さん いえいえ、予算はそんなにありません(笑)。いろいろ節約しながら、なんとかやっているわけです。そこは誤解のないようにお願いします(笑)。

――これは大変失礼しました(笑)。

空調なども完備された休憩所内部。頑張れば寝泊まりできる。

本社の土木課長は「良い経験になった」

お土産にもらったハイチュウ。森永製菓とコラボした非売品(中身は普通)で、オリジナルパッケージが施されている。モグラのキャラクターと発破がデザインされていると思われるが、定かではない。

――入社以来ずっと現場ですか?

鬼頭さん いえ、ここの現場に来る前は、本社で土木課長をやっていました。3年ほど採用面接とか社員研修とか、全国の現場の収益管理とかいろいろなことをやっていました。

――採用活動は順調でしたか?

鬼頭さん それなりに順調でしたね。コロナになってからは、ウチを受ける学生がさらに増えた印象があります。

――希望したのですか?

鬼頭さん いえ、たまたまです。前任の土木課長から「良い経験になるぞ」と誘われたのが、きっかけでした。

――実際に良い経験はできましたか?

鬼頭さん できました。一番良かったのは、社内のいろいろな部署とのコネクションができたことです。もちろん、本社で私の顔を売ることもできました(笑)。

今は現場に戻って来ているわけですが、本社には顔見知りがたくさんいるので、本社とのやりとりはツーカーでいけます。現場の部下たちは、「この現場は本社からの客が多いなあ」と言っていますが、それは私が原因です(笑)。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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