「自分を超える部下を育てる」のが所長としてのミッション

不破原トンネル工事の掘削部分
――現場で役職についたのはいつごろですか?
鬼頭さん 初めて監理技術者をやったのは31才でした。会社に「やらしてくれ」と言ったら、やらせてもらえました(笑)。けっこう早いほうだと思います。石川県の七尾のトンネル工事でした。それまでは自分でやるのが一番早いという感じでしたが、監理技術者という立場になると、他人にやらせないと自分の仕事ができないので、できるだけ自分をフリーな状態にするよう努力しました。
さきほどの憧れの先輩から「自分を超える部下を育てろ。じゃないと、良い会社にならない」と教わり、それまでは「自分が自分が」でしたけど、この言葉をきっかけに、考えを改めました。ただ、簡単なことではないので、なかなか切り替えられなかったんですけどね(笑)。でも、「自分をフリーにしよう」と試行錯誤したことは、良い経験になっていると思っています。
――役所などとの交渉力とか、コミュ力みたいなものは、意識して身につけていったのですか?
鬼頭さん 知らない間に身についていた感じですね。学生のころは、体育会系の上下関係のもとでいろいろ鍛えられたので、会社に入ってから、人間関係で苦労したということは、あまりありません。どんな人でも対応できる自信はあります。
――現在は所長さんという立場ですが、監理技術者や現場代理人と比べ、やる仕事は変わるのですか?
鬼頭さん ええ、変わりますね。所長として現場に入るのは、ここが初めてですが、具体的な仕事は現場代理人や監理技術者にすべて任せています。基本フリーな立場を保つようにしています。所長の仕事として、現場の方向性なんかを決めるのは私の仕事ですが、現場をどう回すかとか、お金の管理とか、発注者などとの交渉などは、基本的に下の者に任せています。
均質ではない地質、大雨のような湧水を覚悟しながらの施工
――経験豊富なトンネル屋さんとして、こちらの現場をどうごらんになっていますか?
鬼頭さん 均質ではない四万十付加体という地質を掘るので、そこが難しいところです。地質が均質ではないので、掘り進むごとに、地質が変化するんです。
湧水もかなり出ますので、大雨の中作業している状態になります。機械も壊れやすくなりますし、ウチの職員も作業員さんもビショビショになります。ある程度覚悟しながら、今後も掘り続けていかなければなりません。
この現場は、現場近くに作業ヤードを確保できないため、別の会社さんが施工した橋梁とトンネルの向こう側の700mほど離れた場所にしか作業ヤードを設置できません。それも特異な条件になります。

坑内に設置された休憩室
語りきれないほどある現場での創意工夫

けっこう視界がクリアな坑内。右側には、ベルトコンベアが設置されているのが見える。
――この現場で工夫していることはなんですか?
鬼頭さん 作業ヤードが離れていることもあり、ベルトコンベアを設置しています。掘った土は通常ダンプトラックで運ぶのですが、ここのトンネルでは運搬距離がかなり長くなってしまいます。土を運ぶ時間効率を考えたときに、ベルトコンベアのほうが有利だということで、土を細かく砕く機械も入れて、運用しています。ベルトコンベアにすることで、ダンプの排気ガスも出ませんし、安全性も向上します。まあ、コスト的には高くなるのですが(笑)。
あとは、移動式発破防護バルーンを使っています。発破の際の飛び石を防ぐためのカベをつくる装置で、退避距離が短くなるし、安全性も向上できて、スゴく良いです。夜間も発破をかけるので、当然の措置として、防音扉を設置しています。
また、低粉塵なコンクリート吹付けが可能な工法も採用しています。通常の吹付け作業は、多量の粉塵が坑内に飛び散ってしまうのですが、専用の急結材やフライアッシュなどを混ぜることで、粉塵を低減しています。実際に使ってみて、坑内はかなりキレイです。
さらには、坑口には軽量盛土を採用しています。トンネルの坑口をつくったら、通常は上に土のうを積むのですが、ここの現場では軽量盛土により、坑門面壁の形状をあらかじめカタチづくっています。坑門面壁を施工する際に、型枠とか足場が不要になるというメリットがあります。見学者のために、完成形をイメージしやすく、見栄えが良いということもあります。
現時点ではまだ準備中ですが、遠隔操作できるホイールローダの導入を予定しています。実際に稼働すれば、全国初だと思います。全国初ということで言えば、この現場の電気は、高知県営水力発電所の電気ですべて賄っています。エネルギーの地産地消ということですね。
この現場を日本一のトンネル現場にしよう

作業所入り口に設置されている開運「日本一トンネルたぬき」
――「全国初」がけっこうありますね。
鬼頭さん それは、私が新しいもの好きだからです。この現場に入ったときに、現場のみんなに対して「この現場を日本一のトンネル現場にしよう」、「これまで誰も見たことがないような現場にしよう」と言いました。それを目指して、いろいろなことに取り組んでいるところです。部下からは、「普通に掘らせてくれ」と苦情が出ていますが、「普通に掘るだけだったら、おもしろくないだろ」と説き伏せています(笑)。
あと、坑口にはデジタル文字シートを組み合わせた「おくだけガードマン」を置いています。これも全国初だと聞いています。置くだけガードマンは、車両の出入りをセンサーで検知して、対向車両に警報を出すシステムです。
ついでに言えば、トンネルを掘削する最前部に、関係者以外立ち入り禁止の遮断機も設置しています。ヘルメットに内蔵したタグを検知して開く遮断機です。タグがない場合は開かないので、関係者以外は立ち入り禁止にすることができます。まあ、ムリやり行こうと思えば、ヨコから行けるんですけどね(笑)。さらに言えば、坑内にデジタルサイネージも置いています。
”日本一のトンネル現場”
素晴らしいと思います。
工事はまだ長く大変かと思いますが、
無事竣工するよう祈念しております。