弓削 琢郎(ゆげ たくろう)さん 九州地方整備局 立野ダム工事事務所 建設監督官

弓削 琢郎(ゆげ たくろう)さん 九州地方整備局 立野ダム工事事務所 建設監督官

国交省の建設監督官に聞く。ダム建設の最前線ならではの醍醐味とは?

建設監督官という仕事のやりがい、魅力とは?

阿蘇の山奥の旧小学校校舎に「あそ立野ダム広報室」が設置されている。その名の通り、現在建設中の立野ダムの理解促進、ダムを活用した地域振興に資することを目的とした施設だ。

広報室の存在は以前から知っていたが、2022年5月から立野ダムの建設監督官が常駐していることを最近知った。

わざわざ現場近くに常駐して、なにをしているんだろうということが、単純に気になった。ということで、立野ダム工事事務所建設監督官の弓削琢郎さんに、仕事のやりがいなどについてお話を聞いてきた。

迅速な現場対応、地元との円滑なコミュニケーションのために常駐

――あそ広報室ではどのような仕事をしているのですか?

弓削さん あそ広報室は、立野ダムの建設に関する情報などについて、地元の方々などに発信、周知することを目的に、2019年9月に設置されました。

ダム工事が本格化した2022年5月からは、建設監督官である私が、平日の10時〜16時の間常駐し、本来業務のかたわら、地元の方々や受注業者の方々と円滑なコミニケーションを図れるように試行錯誤をしながら、その役割を担っているところです。

たとえば、ダム周辺の区長さんのところには、定期的に顔を出すようにしています。やはり、地元の近くにいたほうが、より気軽にお話などをすることができます。

現場近くに常駐することは、本来業務についても、立会いや検査を含め、受注業者さんとの円滑なやりとり、迅速な現場対応ができるようになるので、メリットがあります。住民の方になにかご迷惑をおかけしていた場合にも、すみやかで適切な対応が可能になります。

――現場近くに建設監督官が常駐するのは、珍しいことなのですか?

弓削さん 現場近くに詰所を設けるということはあります。常駐と言っても、私の出退勤は熊本市にある工事事務所になっています。工事事務所から通うカタチです。私は主任の監督員ですが、工事事務所には他にも何人かの監督員がいます。

――住民の反応はどうですか?

弓削さん 多くの住民の方々は協力的で、良好な関係がつくれていると思っています。私の携帯番号もお伝えしていますので、なんでも気軽にご連絡いただける雰囲気づくりはできていると考えています。幸い、とくに大きなトラブルなどは起きていませんが、なにかあっても、逃げないようにしています(笑)。「はい!」と言って、すぐに駆けつける心構えでいます。

ダム現場に来たのは立野ダムが初めて

建設中の立野ダム(2022年9月撮影)

――ダム工事は経験をお持ちでしたか?

弓削さん いえ、ダム初めてです。ダムの前は、九州地方整備局で道路畑が長く、前職も道路工事の建設監督官でした。

2年前に立野ダムの建設監督官になったのですが、初めてダムの現場に来たときは、スケールの大きさに驚きました。世間の注目度も高いです。天候や地質などによって、現場の状況は刻々と変わっていきます。最初のころは、戸惑うこともありました。上司、他の職員方から助言をいただきながら、なんとかやってこれていると思っています。

――ダム工事は順調ですか?

弓削さん そうですね、2023年4月にコンクリートが打ち上がって、試験湛水やって、2023年度中に供用開始の予定です。

ゼネコン出身だから、建設監督官向き?

――建設監督官が長いんですね。

弓削さん そうですね。ここに来る前は、東九州道の現場で建設監督官をやっていました。5年やりました。別にやり続けたいと言ったわけではありませんでしたが、けっこう長い期間となりました。立野ダムと合わせると、7年になります。

――建設監督官向きだと評価されているということでしょうか?

弓削さん そうなんですかね。ひょっとしたら、九州地方整備局に入る前は、とあるゼネコンに3年間ほどいたのですが、それが影響しているのでしょうか?主にトンネル工事に携わっていました。

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少しでも現場の風通しを良くしたい

――建設監督官はふだん、どのような仕事をしているのですか?

弓削さん 現場での立会い、検査などです。立会い項目が決まっているので、現場に出向いて、ちゃんと設計書通りできているか確認したり、安全面もチェックします。安全衛生管理は、基本的に受注業者さんが行うのですが、私のほうでも確認しています。

あとは、受注業者さんから要望を聞いたり、こちらの考えを伝えたり、調整したりといったこともやっています。発注者と受注者さんが同じ方向を向いて仕事ができるようにするということです。緊急的な事象が発生した場合は、夜間でも対応します。夜間に対応が必要になったことはこれまで起きていませんが。

――受注業者とのやりとり相手はJVの所長さんですか?

弓削さん 主には現場代理人、監理技術者の方々というところですね。本体工事以外にも現場があるので、その現場代理人、監理技術者の方々ともやりとりします。現場に行ったときは、受注者の職員さん、現場の作業員さんなどに声をかけるようにしています。「どうすか?」といった程度ですが、少しでも現場の風通しが良くなれば、ということでやっています。

――建設監督官という仕事のやりがい、魅力は、なんだとお考えですか?

弓削さん 国交省の職員がここまで現場に出る機会は、あまり少ないのではないかと思っています。その点、建設監督官は基本的に現場に出ているので、現場を肌で感じられるのが、魅力ですね。もちろん暑い寒いというのはありますが、現場の空気感を感じられるのは、楽しいです。

最後の最後は人間関係

――建設監督官ならではの大変なことはなんですか?

弓削さん やはり、最前線ということで、人と人が接するところになります。人には感情がありますから、受注業者さんと意見がぶつかることもあります。住民から苦情をいただくのも、基本的には建設監督官です。面と向かって、お叱りを受けることもあります。大変なことではありますが、醍醐味でもあると思っています。

あとは、さきほど言いましたが、現場でなにかあったときは、夜間、休日であっても、対応しなければならないのは、大変なことでもあると思っています。

――最前線であるがゆえに、板挟みになることもあるのではないですか?

弓削さん それはあります。私は国交省側の人間ですから、国交省職員の指示に従って行動するわけですが、受注者さんには受注者さんの考えがあります。そこのバランスをとるところで、気を使うところはあります。

ときには頭を下げることもありますし、「それは聞けない」と突っぱねることもありますが、最後の最後は、人間関係なんでしょうね。そういう意味では、これもやりがいなのかもしれません。

――ダム完成に向けて意気込みを教えてください。

弓削さん 地域住民の方にご迷惑をかけず、事故なく、関係者全員が「この仕事やって良かったな」と思える環境づくりをしていくことだと思います。

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