業界初「クォータ制」を導入した育成プログラムが始動
大東建託株式会社では、女性管理職の育成・登用に向けた建設業界初(大東建託調べ)となる「クォータ制」(会社役員などの女性の割合を、あらかじめ一定数に定めて積極的に起用する制度)を導入した女性育成プログラムを始動した 。
建設業界の企業は歴史が古いため、他産業的と比較して、女性管理職の登用などの面では遅れている現状がある。だが、国土交通省でも官民連携で女性活躍の取組みの加速化を図っており、建設業界の中でも女性活躍は大きなテーマだ。
大東建託の女性育成プログラムでは、昇進をハードルに感じる女性社員がさまざまな教育を経て、役員や管理職の役割を理解したうえで、キャリアの選択肢の 1 つとして当たり前に考えられるようにすることが狙い。3年後の女性管理職数を定め計画的に育成していく「クォータ制」の導入やプログラムの推進を行う「女性活躍推進委員会」の設置、階層別に段階的な教育体制を整える「女性教育プログラム」のほか、女性部下の育成方法などを学ぶ「上司向け研修」などを実施していく予定だ。
大東建託は建設業界の中ではいち早く、女性管理職の育成や登用について乗り出したが、今後どのように進めていくのか。大東建託ダイバーシティ推進部の湯目由佳理(ゆのめゆかり)部長に話を聞いた。
女性管理職率を6%に設定、3年後、女性管理職を100人へ
――今回の女性育成プログラムは、どのような内容なのでしょうか?
湯目さん 2024年度の女性管理職率を、2020年度の4.6%から6%に設定しました。この目標を達成するためには、100名前後の女性管理職が必要となります。そのために、「クォータ制」として、昇進必須要件である管理職候補者を選抜するときには、工事・設計などの各職種で女性を最低3名もしくは10%入れるルールも設け、さらに2024年4月時点で職種、部門ごとの女性管理職の人数を設定しました。これまでは“目標”というかたちでしたが、本プログラムでは、執行責任者の責任で”必ず”実施するようにしました。ほかにも、女性役員1名、女性従業員比率20%以上、女性採用比率33%以上という目標に対し、新卒に加えてキャリア採用も積極的に進めている段階です。これらの施策によって、将来的には「この部門には女性管理職がいない」ということがないよう、今から採用・育成ともに強化するというのが今回のプログラムの趣旨になります。
――現在、女性社員数はどれくらいなのでしょうか?
湯目さん 女性管理職については、わずか4.6%に留まっています。女性管理職については、「女性活躍推進法」の制定後にはじめて目標数値を設定しましたが、それ以前での女性管理職の比率は約2%でした。過去5年で微増してはいるものの、2021年8月に帝国データバンクが発表した国の女性管理職の平均割合7.8%を下回っている状況です。
過去には長時間労働もあり、とくに女性は管理職をやりたがりませんでしたが、ここ数年にわたり長時間労働を是正し、ライフイベントにあわせた働き方を推進したり、女性管理職候補に向けた研修を行うことで、意識改革を促し、力のある女性社員には積極的に管理職を要請していく予定です。
女性現場監督の管理職登用も推進へ
――とはいえ、業界や企業を問わず、管理職への昇進を断るケースも多いようです。
湯目さん ええ。当社にも実力のある女性社員は多いのですが、2021年7月に当社の全社員を対象に実施した「働き方、キャリア及びダイバーシティ推進に関するアンケート」調査によると、「管理職への昇進を打診されたらどうしますか」 という設問に対して、女性社員の過半数が昇進を「辞退する」と回答しています。辞退する理由として最も多かったのは、「自信がないから」が20.4%、続いて「責任が重くなるから」 が19.1%という結果になりました 。もちろん、みなさん謙虚な気持ちからだったり、また家庭のご事情もあるからの結果ではあるのでしょうが、他の企業と同様に積極的に管理職になりたいという女性社員が多くいるわけではないことは事実です。
じつは、私自身も昇進の話をいただいたときに「無理です」と断ったんです。管理側よりもサポート業務のほうが向いていると思っていたので。ですが、さすがにこれ以上は断れないということで、お受けしました(笑)。
――湯目さんは、実際に管理職となってどうでしたか?
湯目さん 私も管理職になる前は魅力的に映りませんでしたし、固辞していた時期もありました。しかし、管理職に昇進してみると、そこには人を育成する楽しみがありました。これは一担当者にはない魅力だと思います。
――最近では男女問わず、「管理職になりたい」「出世したい」という社員が、昔と比べて減ってきているように感じます。
湯目さん そう思います。若い男性でも、昇進意欲に熱意がある社員は少ない印象です。長く働いていきたいという意思はあっても、その中で昇進は絶対的な価値観ではなく、ワークライフバランス重視でサラリーマン生活を全うしたい人もいますし、逆に同じ会社で一生働き続けない人もいます。
――女性は男性よりもライフイベントが多いため、それが管理職の登用が遅れたという印象もあります。
湯目さん 結婚や出産などの年代と管理職に昇進する時期がちょうど一致するので、そこでどちらかを選択しなければならないと考える女性も多いですね。当社としては、施工管理職の女性を学卒で採用し始めたのが2015年で、工事職の女性は20代が多いこともあり、まだ管理職の登用にあたる時期ではありませんが、逆に言えば工事職には女性社員の管理職登用のロールモデルがないと言えます。管理職はもちろん、工事職の場合は、子育てとの両立をしている女性もまだいないので、工事職をつとめながら、どのように家庭との両立をしていくかが課題ではありますが、少なくともこれまで男性がやってきた働き方をがっちりとはめようとすると、問題が生じます。たとえば、現場での朝礼時間と保育園へお子さんを送る時間帯が同じくらいですので、今までの働き方をそのまま行うと、女性社員が工事職でいることは厳しくなります。
当社の女性社員は、営業職や設計職、事務を行う業務課配属が多く、とくに業務課は半数を女性が占める一方で、工事職は多くありませんが、彼女たちが現場と子育ての両立が難しくなり、退職してしまうことは避けなくてはなりません。
当社では、女性現場監督の雇用促進に向けた、ダイバーシティ研修の実施や業界横断プロジェクト「じゅうたく小町」への参加など、職場環境の向上を図っています 。現場ではチーム制を推進しており、自分ができないことを他の方にフォローしていただき、自分は他の仕事を担当するという手法もすすめています。また、このコロナ禍ですから、フレックスタイム制やテレワークは工事職にも適応しているので、WEB会議システムを使い朝礼に参加するといったフレキシブルな対応も徐々にできつつあります。そのようなものを活用すれば、保育園に子どもを送った後に、車の中から朝礼に参加するといったことも可能になると考えています。
「じゅうたく小町」への参加のようす(新型コロナウイルス感染症流行前)
男社会の中で「サーバントリーダーシップ」を発揮できるように
――これまでお話いただいた女性育成プログラムの推進を行う「女性活躍推進委員会」が設置されましたが、その役割を教えてください。
湯目さん 「クォータ制」を導入し、数値目標も設定しましたが、各部門の統括責任者にすべてお任せすると、進捗や育成もバラバラとなり全体で推進できませんので、横断的な組織として「女性活躍推進委員会」を設置しました。
委員会には、営業や設計、工事、業務、本社の各職種の執行役員クラスが集まり、定期的に報告しつつ、課題についても話し合い、情報共有しています。キックオフを終えて半年に1回会合を開催する予定で、まずは育成候補者のリストを作成していただきました。このリストでは、研修の受講日程や、あるいは昇格のタイミングについてもまとめています。
――研修は、どのように進めていくのでしょうか?
湯目さん 研修については「女性教育プログラム」として、課長職、マネジメント職、役員への昇進など、段階別に研修を実施し、教育体制を整えることで、着実なステップアップを実感し 、 昇進をイメージしてもらいやすくすることを目指していきます。具体的には、当社が実施したアンケートで最も多かった 「自信がないから昇進を辞退する」の解決に向けて、不安を解消し、自信につなげていく教育体制を整えていきます。
当社も以前は男性社会だったので、管理職と言えば強いリーダーシップをもって、周囲を引っ張っていくイメージもありましたし、そういう姿を女性社員も間近に見ていました。そのイメージを払しょくするために、「今どきのサーバントリーダーシップ(部下に奉仕することがリーダーの役割という考え)に代表されるような、支援型リーダーもあります」と教えたりすると、「それなら私でもつとまるかも」と意識が変わっていきます。このような女性の意識改革に特化した研修を行っています。
直近では、管理職候補者向けの「Women’s キャリアデザインセミナー」を開催し、参加者からは「将来の働き方のビジョンを明確にすることができた」「 難しく考えずに前向きに幅を広げてキャリアアップを目指したいと思えた」という前向きな声が得られました 。
このほかにも、上司向けの研修も行っていきます。上司側も女性育成について意識を変えてもらう必要がありますから。女性の考え方や、女性を引き上げる方法などに関する研修も実施していく予定です。
――男性の育児休暇の取得も義務化されていますね。
湯目さん 女性活躍を推進するうえで欠かせないのは、男性の育児参画の推進です。当社では2018年10月から、男性の育児休業では5日間の取得義務化と10日間の有給化を実施しています。経営トップ自らが義務化を宣言することで、取得しやすい風土をつくり、2020年度は男性の育児休業取得率100%、192名の社員が取得しています。
最初のころは、「本当に取得するんですか?」と驚かれたこともありましたが、現在では、お子さんが生まれたら「いつ育休取得するんですか?」という会話が当たり前になっていますよ。
――今後はどのように女性育成プログラムを進めていくのでしょうか。
湯目さん 女性の管理職も4.6%と増えてきましたが、その上の次長職、部長職となると現状3人しかいません。取締役についても社外取締役が1名いるだけです。このままではいけませんから、管理職の中からさらに登用を進め、役員を見据えた育成プログラムまで進めていければと思います。
そして何より、女性社員たちがライフイベントとの両立を実現し、通過点として長く働ける環境を整えていきます。長く働けるのであれば、今後のキャリア形成について希望を持って働くことができますし、「働きがい」を考えると昇進や登用についてもとても重要となってきます。
とはいえ、女性全員が昇進・登用を目指すことイコール女性活躍ではありませんので、別の面での自己成長やキャリアアップの実現も進めていきたいですね。
最終的には、女性や男性問わず長期的なキャリアを目指して、いきいきと働ける環境を整え、従業員エンゲージメントを高めていければと思います。多くの従業員が、ずっと大東建託で働きたいと思えるようになってほしいですね。
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純粋な疑問ですが、「〇〇年までに女性管理職を○%にする!」っていう目標値を定めること自体が男女平等から遠のいてないですか?ある一定の能力がある人間が上役になるべきであって、絶対数を目標としてしまったら、それは平等でもなんでもないですよね。
マネジメント職育成プログラムがあって管理職を育成することは良いと思いますし、事実として男女で生活環境の問題はあるので、そういった環境を整備するのも良いと感じました。大手でないと難しいのは置いておいて。
ただ純粋なマネジメント力に関して言えば男女で違うというより、マネジメントする人に寄りけりなのでちょっと違和感あります。
しかしながら一概に「比率を同じにすれば改善するんだ」という連中より問題の根本を見直そうとする姿勢はさすがだなと感じました。