新体制方針説明会で魚津彰社長が経営方針を語った

新体制方針説明会で魚津彰社長が経営方針を語った

【YKK AP】「2030年度に売上高1兆円」 魚津新体制で目指す”世界のリーディングカンパニー”への道のり

YKK APはこのほど、都内で4月からの「新体制方針説明会」を開催。2030年度までに売上高を2022年度の約2倍にあたる国内7000億円・海外3000億円の合計1兆円規模の世界のリーディングカンパニーを目指すことを発表した。

4月1日付で新社長に就任した魚津彰氏は、経営ビジョンに「地球環境への貢献」「新たな顧客価値の提供」「社員幸福経営」の3本柱を掲げ、「(YKK APは)進化のステージに入った」と自信を深める。従来事業の拡大・強化に加え、木製窓の開発・販売、外皮トータル断熱ソリューションの開発・提案、トータルガーデンエクステリアにも注力、さらには海外では1000億円を投資することで目標を達成していく。

堀秀充前社長(現会長)から魚津新社長体制へとバトンタッチしたが、具体的にはどのような経営でのぞんでいくのか。新体制方針説明会での内容をリポートする。なお、役職名は4月1日付のものとした。

YKK APは「進化」のステージに入る

4月1日からの新体制 / YKK AP新体制方針説明会資料

まず、魚津社長はこれからのYKK APを表すキーワードとして「進化」を挙げた。前任社長である堀会長からの「持続的成長の実現」を受け継ぎ、2030年のあるべき姿、またありたい姿をどうすべきかを検討したところ、「世界のリーディングカンパニー」を目指すこととした。魚津社長はなぜ、このような大胆で野心的なビジョンを示したのか。それにはYKKグループ以来の歴史が大きく関わっている。

YKK APの歴史では、YKK創業者の𠮷田忠雄氏が1957年から1989年の間にYKKグループにおける建材事業を開始し、1990年には2代目の𠮷田忠裕氏がYKK APを設立。2005年から2010年の間にサッシから窓メーカーへの転換を図り、それを引き継いだ堀氏がモノづくりの追求、持続的成長の実現を行った。積み重ねたこれらの実績を受け、魚津社長は、ニュービジョンとして「Evolution 2030」を提案。「Architectural Productsの進化により、世界のリーディングカンパニーへ」と発展する強い決意を示した。そして「地球環境への貢献~脱炭素化・循環型社会実現に向けた仕組みづくり」「新たな顧客価値の提供~高断熱化、高付加価値化、トータルビジネス」「社員幸福経営~『善の巡環』に基づく幸福経営」と3つの大方針を示した。

ニュービジョン「Evolution 2030」における3大方針 / YKK AP新体制方針説明会資料

2040年度には自社CO2排出量を100%削減へ

まず「地球環境への貢献」では、これまで2050年度を目標としていたが、新たに2040年度に国内や海外ともに自社CO2排出量(国内・海外)を100%削減と10年前倒し、2030年度までには80%削減することを発表した。そのために国内では創エネ設備の導入を図り、太陽光発電設備の導入強化、海沿いの風力利用・小水力発電などの地域特性にあわせた創エネ設備の導入の強化を図る。また、燃料も天然ガス化、メタネーション、水素・アンモニア活用などを試作し、エネルギー転換を図っていく。

さらに、リサイクル技術を確立し、アルミには社外品リサイクルを2030年度までに、樹脂については社内品(端材)リサイクルを2024年度までに、それぞれ100%を達成する。樹脂の社外品リサイクルの技術はまだ確立していない状況にあり、今後確立した時点で2030年度の目標数値についてどう設定するかを発表する予定だ。一連の目標達成のため、国内と海外のサステナビリティ関連投資では2023年度~2030年度の累計では500億円と設定した。

創エネ設備の導入図る / YKK AP新体制方針説明会資料

住宅部門では「木製窓」の開発・販売へ

「新たな顧客価値の提供」では、第一に住宅部門の説明があった。YKK APは他社に先駆けて、樹脂窓を開発・販売し、販売窓数・素材別構成比率は2022年度の推計では32%、2024年度計画では40%としている。この樹脂窓の先としてサステナビリティ、防火、さらなる高断熱化、施主のランニングコストなどを検討したところ、2024年度に住宅向けの「木製窓」を開発・発売し、それ以降はビル集合住宅用も発売予定であることも明らかにした。さらに2030年度には木製窓を20%、樹脂窓を50%、アルミ樹脂複合窓を30%とする目標を据えた。これにより高断熱化は100%となり、樹脂窓とアルミ樹脂複合窓のパーセンテージは欧米に匹敵する野心的な数値をめざす。

木製窓は20%を目標にしている(2030年度) / YKK AP新体制方針説明会資料

どのように展開していくかについては、「国内については工業化を考えている。海外については日本から水平展開をするのではなく、他社との業務提携やM&Aも含めて検討している」と魚津社長は語った。さらに価格帯についても、「現状では木製窓は樹脂窓と比較して4~5倍の価格帯になる。しかし、それでは工業製品では販売が難しいため、まずは2倍に落ち着けるような価格帯に努力したい。販売が好調であればさらにコストダウンができるため、その点についても期待したい」と示した。


窓に加えて、家丸ごと高断熱化の提案へ

住宅部門の第2弾としては、「外皮トータル断熱ソリューション」を提案する。まず、YKK APは木造戸建て住宅での熱の流出入の割合を試算したところ、夏であればアルミ窓(複層ガラス)では74%の熱が流入し、窓以外は26%にも及ぶ。また冬についてはアルミ窓(同)では50%の熱が流出し、窓以外は50%の熱流出となる。これまで窓の開口部の高断熱化を推進してきたが、結果的に窓だけでは快適性や健康性を含めると到達できない課題もあった。

そこで今後は家1棟丸ごとの断熱性を高めるため、ハード面では従来から取組んでいる高断熱窓に加えて、壁・屋根・基礎などの断熱構造商品を販売し、ソフト面では断熱設計、工法、コンサルティングなどを組合わせた「外皮トータル断熱ソリューション」を開発、提案していく方針で、他社との協業にも視野を広げて検討している段階だ。

家まるごと高断熱を目指す「外皮トータル断熱ソリューション」 / YKK AP新体制方針説明会資料

 

建物・外構をトータルでつなぐ空間デザインを提案

「エクステリア事業」では、建物・外構一体の空間デザイン提案のための「トータル ガーデンEX(エクステリア)」を提起した。従来のエクステリア商品の形態としては、商品単体の販売が多かったが、今後は建物・外構をトータルでつなぐ空間デザイン提案を進める。商品の機能に加えて、デザインや付加価値へのプロダクトを進化していくという。これまでのウォールエクステリア商品に加え、植栽、石材、照明などで街並みや暮らし方まで提案するトータルビジネスモデルを提供していく。

「インテリア事業」では、関連建材の強化を展開する。現在の売上高は85億円で業界シェアは10%程度と認識しており、市場浸透度の低さに課題がある。そこで差別化要素が強く、マンションやオフィス向けのアルミインテリア建材の販売を強化、今後建物の特性や使用用途に合わせた商品を開発する方針だ。魚津社長は「今後は木製のインテリア建材も含めた計算であれば、最低500億円の売上を目指したい」としている。

記者会見に出席したYKK APの役員陣。左から、海老原功一副社長、阿部浩司副社長、水上修一副社長、岩渕公祐副社長、魚津彰代表取締役社長

ビル事業でも高断熱化に本腰

「ビル事業」では、窓・カーテンウォール(CW)の高断熱化・高付加価値化を進める。これまで住宅部門で高断熱化を推進してきたが、これからはビル事業でも脱炭素化に向け、窓やCWの高断熱化に本格的に着手する。2024年度に集合住宅向けに、「アルミ樹脂複合窓(外・アルミ、内・樹脂)」を、同年度以降には非居住向けに、「アルミ形材断熱窓」(外・アルミ+断熱材、内・アルミ)を発売していく。「これから住宅・ビル事業問わず高断熱窓といえば、YKK APとイメージされるよう進めていきたい」(魚津社長)

高付加価値化の面では、中層建築向け「ユニタイズドCW」の開発・提案を行う。今後職人がさらに減少する社会背景に伴い、現場の工期短縮、安全などの社会価値の向上を目指していく。「現状、施工管理や設計の技術者なども不足しており、現場も同様だと考えている。現状のカーテンウォールは、アルミで組立てられたものを現場に納入し、そこにガラスを入れ込んでいる。省人化のためにはなるべく、当社、加工店や代理店の工場で完成品に近い商品を現場に搬入し、工期を短縮し、また安全も向上することで経済的価値も高まる」(魚津社長)

なお、国内での投資は2023年度から2030年度までで累計2000億円と設定している。「木製窓やインテリアなどの新規で強化していく分野では大きく配分していく予定だ。新築のほかこれから伸びるリフォーム分野にも強化していきたい。また機能的にはDXを活用したスマートファクトリーを目指し、自動化・合理化設備にも投資を傾けたい」(阿部浩司副社長)としている。

海外は現行3倍規模の3000億円へ

最後に「海外事業」の売上高は現在約900億円近くだ。これを2030年度には売上高3000億円と約3倍以上に伸ばしていく方針を打ち出した。魚津社長は副社長時代の1年間、海外部門を担当した経験をもとに、「当社が進出しているエリア、チャネル、商品についてまだまだ伸びるポテンシャルがある」と海外部門の強化に言及した。

まず北米については、ビル事業では北米東部で進出済みだが、これを西部にも軸足を進めるとともに、ユニットカーテンウォールの設計、製造、販売を行う子会社・エリーAP社(カナダ)とのシナジー効果を期待し、北米全域に事業を拡大する。次に住宅部門では樹脂窓は販売エリアを南部の一部に絞っているが、このエリアを拡大するとともに、木製窓市場への参入を図っていく。

営業的には苦戦中の中国市場では、これまでは集合住宅向けのサッシを販売していたが、今後は玄関用のドアなど商材を拡大し、改装事業も強化する。

アジアの台湾では、台北・台中・高雄のエリアで販売力を伸ばしているが、インテリア建材や改装事業を強化する意味もあり、台湾全土へのシェア拡大を目指す。今後、伸長が大きく期待されるインドネシアでは、商材拡大として玄関ドアやガーデンEXなどの販売を行う。

また、4月1日付で国内外のカーテンウォール事業を強化するため、「グローバルCW本部」を新設している。既存のアジアでは、ユニタイズドCWのさらなる販売拡大とともに、新規に欧州(イギリス・ドイツ)へ、同じくユニタイズドCWによる市場参入を図る。海外投資では建物や設備の老朽化もあり、建て替えなどで2023年度から2030年度累計で1000億円を計画している。

既存事業の成長と新施策で目標達成へ

現在、2022年度推定売上高は、5064億円(営業利益2.9%)で、内訳は国内4185億円、海外879億円。これが2023年度計画では売上高5479億円(営業利益率5.0%)で、内訳は国内4549億円、海外929億円へと伸長する。これを既存事業の成長とともに、上記に挙げた新施策により、売上高1兆円規模・営業利益率10%の企業へと成長していく方針だ。

ニュービジョン「Evolution 2030」による数値目標 / YKK AP新体制方針説明会資料

「この高い目標をどのように達成していくべきか。今、どのようにしていくべきなのか。なにをしていくべきなのかについて、全社横断の若手のプロジェクトで落とし込み、2025年度以降の中期経営計画の中に盛り込んでいきたい」と魚津社長は目標達成に向け全力を注ぐ意思を示した。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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