加藤 広則さん(戸田建設株式会社四国支店 令和2-5年度 窪川佐賀道路平串トンネル工事 作業所長)

加藤 広則さん(戸田建設株式会社四国支店 令和2-5年度 窪川佐賀道路平串トンネル工事 作業所長)

現場見学会に「屋台」を呼ぶ男

そんなことまでするの?驚きの取り組みとは

四国地方整備局が鋭意進めている高規格道路である四国8の字ネットワーク。その一角を担う窪川佐賀道路の平串トンネル(延長約1,400m)の工事を請け負う戸田建設に取材する機会を得た。

作業所長である加藤広則さんからは、多岐にわたるお話を伺うことができたが、今回は、現場で実施しているさまざまな取り組み(新技術や工夫など)を中心に記事をまとめてみた。

取り組みの中には、「そんなことまでするの」と驚きを隠せないものもあった。なお、加藤さんのキャリアについては、別の記事にまとめる。

トンネル工事を「記憶に刻む」

――こちらの現場の進捗はいかがですか?

加藤さん 平串トンネルは全長1,400mほどあるのですが、現在のところ約900m掘削が完了、覆工は400mぐらい完了しています。工事全体の進捗率としては65%ほどです。

――順調ですか?

加藤さん 年明け早々に地山が崩れましたが(笑)、大きなトラブルにはならず、まずまず順調にきています。

――現場での取り組みについて教えてください。

加藤さん こちらの現場の取り組みについては、「平串トンネル記憶に刻むプロジェクト」として資料にまとめています。それだけチカラを入れているということです(笑)。

――では、その資料に沿って、主な取り組みを教えていただけますか?

加藤さん わかりました。この現場では、次の5つの項目について、取り組んでいるところです。

  1. 職場環境改善活動
  2. 安全の取組み
  3. DX活動
  4. 生産性向上の取組み
  5. 環境の取組み

この5つがプロジェクトの柱ということになります。この中でも「職場環境改善活動」は、建設業界全体の課題でもあるので、とくにチカラを入れて取り組んでいます。

宿泊施設並みの職場環境を確保

和紙をモチーフにした飛散防止のガラスフィルム(写真提供:戸田建設)

加藤さん 職場環境改善としては、次のことに取り組んでいます。

まずは防災です。たとえば、事務所の出入り口には、和紙をモチーフにしたプライバシーガラスフィルムを貼り、飛散防止を図っています。事務所内には防災リュック10名分を装備しているほか、本棚などの転倒防止金具などの設置、書類などの飛び出し防止テープの貼りつけなどを実施しています。

ライトアップされた事務所(同)

次が、事務所の整備です。国道沿いに3,000m2ほどの比較的広い敷地を借りました。敷地内には、太陽光発電式のLED照明をつけた3面三角柱の出入り口タテ看板を設置し、事務所の所在がわかりやすいようにしています。

8の字ネットワークをアピールする2枚看板(同)

それから、8の字ネットワークのPRのため、タテ4m×横14mの看板を2枚設置しています。夜間はこの看板をライトアップしています。

宿泊施設並み(自負)に整備された事務所駐車場(同)

駐車場スペースは57台分を確保しています。50名ほどの作業員さんがいるので、これぐらいのスペースは必要です。すべての駐車スペースに舗装を施しており、クルマやヒトが土で汚れないよう配慮しています。白線、クルマ番号、行先表示も駐車スペース内には、金属配光LED街路灯、樹高3mのヤシの木、花壇なども整備しています。宿泊施設並みだと自負しています(笑)。作業員さんからは好評をいただいています。

グリーンオフィス化された事務所内(同)

事務所建物自体にもチカラを入れています。玄関には花や樹木を生けた花瓶や食彩プランター、ロゴ看板を配置し、癒しのイメージを演出しています。エントランススペースには観葉植物やアロマディフューザーを配置しています。あと、事務所壁面の一部は緑化しています。

特注の茅葺き屋根をあしらった神棚(同)

1階の職場スペースは、モダンで働きやすい建物を意識したレイアウトにしています。テーブルやイスといった備品についても、使いやすいモノを選んでいます。トンネル内部を映す75インチの大型管理モニターを設置しており、事務所から入退坑管理などを遠隔できるようにしています。モニターの隣にはBIM/CIM専用の高性能パソコンを設置しています。あと、神棚にもこだわっていまして、特注で茅葺きの屋根をつけています(笑)。

事務所2Fの宿泊スペース(同)

事務所2階は宿泊スペースにしているのですが、内装には落ち着きのあるダークオーク色を採用しています。洗濯スペースには、ガス式の大型超速攻型乾燥機を配備しています。乾燥機は電気式が一般的なのですが、洗濯物が乾くのにけっこう時間がかかってしまうので、ストレスがたまりがちです。ガス式だと、20〜30分で乾くので、待たされることなく、快適に乾かすことができます。ランニングマシーンやベンチプレスなどを完備した健康増進スペースも確保しています。

詰所出入り口に設置された看板類。アユの立体看板、デジタルサイネージ(同)

現場の詰所のほうでも、イメージアップに関する取り組みを行っています。出入り口には、デジタルサイネージによる工事のお知らせのほか、戸田建設がタイアップしているドラえもんを配した看板を設置しています。防音扉には、ドラえもんの看板のほか、鬼滅の刃とのコラボとして、「切羽に全集中」と書いた注意喚起看板も設置しています。あと、地元アピールということで、「清流を躍る四万十川のアユ」をモチーフにした立体看板も設置しています。

AIと人物検知システムで重機との接触を回避

運転席に設置された人物検知システムのモニター(同)

加藤さん 2つ目が、「安全の取組み」です。この現場でとくに重要なのが、トンネル大型重機、タイヤショベルとの接触防止対策です。接触防止のための新技術として、遠赤外線カメラとAIによる人物検知システムを採用しています。ちょっとお高いシステムですが、周囲360度のどの距離でもヒトがいれば、暗くても検知することができます。

トンネル現場では、粉塵などの影響を受け、ちゃんと検知できないことが少なくないのですが、このシステムは意外とちゃんと検知してくれます。ICタグで接近を検知するシステムも採用しており、この辺は重機によって使い分けています。

100mごとに設置されたブルー帯ライト(同)

坑内照明にもチカラを入れています。LED懸垂灯を10mごとに設置し、照度を確保しています。100mごとにブルー帯ライトとトンネル距離程を表示しているほか、停電時に2時間点灯可能な坑内誘導非常照明も設置しています。この現場は断面が少し大きいので、少しでも明るくしようということで取り入れています。覆工セントルにも高照度帯ライトを配置しています。

LED帯ライトを設置するなど歩きやすさに配慮した安全通路(同)

安全通路は1.5mと通常より幅広くとっています。こちらの照明も高照度防水防塵のLED帯ライトを配置して、歩きやすいように配慮しています。

照明バギー(同)

切羽照明は、一番重要な作業場所なので、切羽から30〜60mのところに480Wの大型LED投光照明を3台設置した上で、その後方30mのところにさらに3台設置しています。これらの照明を発破から守るため、照明前に高耐力ポリカーボネート板も設置しています。

局所的に照度を確保したいときは、充電バッテリーとLED照明を搭載した照明バギーを活用しています。

LED投影灯による路盤上の注意喚起表示(同)

防水シート台車にもLED投影灯を設置し、路盤上に注意喚起表示を行っています。移動も可能なので、ダンプなどへの注意喚起に役立っています。あと、戸田建設が開発したスマホアプリ「ヒヤリポ」を活用しています。ヒヤリハットを報告するアプリで、情報の共有化、データベース化を図っています。

トンネルに関する情報を一元管理

坑内の情報をリアルタイムで把握できる事務所内モニター(同)

加藤さん DXに関する取組みとしては、トンネル情報管理システムを構築しています。坑内にはWi-Fiを飛ばしているので、データ通信やIP電話通話、発破合図放送などといった通信が可能になっています。これはさして特殊なモノではありませんが、坑内にレーザーマーキングシステムやWEBカメラを設置することで、さきほど申し上げた詰所や事務所を含めたデータの一元管理ができるようになっています。坑内の空気環境を24時間自動計測する環境自動計測システムも入っています。ICタグによる入退坑管理、労務管理を実施しています。

これもさきほど触れましたが、BIM/CIMを活用しています。周辺地形やトンネル3次元モデルを可視化することで、そこに切羽観察やAI計測データなどを関連づけたり、構造物の部材の干渉チェックをしたり、トンネルアニメーションを作成したりといったことに活用しています。

エレクター一体型吹付機(同)

トンネルの鋼製支保工建込みを自動化し、切羽を無人化施工するシステムを取り入れています。切羽の無人化施工技術については、一部区間で試験的に運用しています。エレクター一体型吹付機に改良を加えることで、オペレーターによる遠隔操作によって、一連の作業を切羽に立ち入ることなく施工できるようにするモノです。

生産性向上の取組みとしては、25tダンプなどの大型重機の採用、エレクター一体型吹付機の採用、軽量型AGFの採用があります。これは工期短縮を目指した取り組みです。前方探査・土壌分析の工夫、デジタル文字シートの活用があり、こちらはコスト縮減を狙ったモノです。

防塵に関する新ガイドライン目標に対応

コンクリート充填2層ユニット式防音扉(同)

加藤さん 環境の取組みとしては、発破時の防音対策があります。防音扉には、総重量160tのコンクリート充填2層ユニット式防音扉を設置しています。発破時にはかなりの低周波が出るのですが、この扉のおかげで、周辺住民からの苦情は出ていません。仮設ヤードには吸音型防音万能板を設置し、防音を図っています。

新ガイドラインに基づく粉塵目標レベルを満たすため、送風機にダブルサイレンサー搭載超低音型コントラファンを選定したほか、集塵機にダストセンサー・ダスト自動排出機能搭載付フィルター式最新鋭集塵機を選んでいます。

あとは、SEC練りと言って、2回に分けて練り混ぜることで、コンクリート吹き付けに伴う粉塵を低減させています。フライアッシュという細かい微粒子を配合することによって、粉塵の低減のほか、CO2の削減も図っています。エアシャワーの設置、燃料促進剤の採用、排気ガス浄化装置の設置、再生エネルギーであるRE-100の新電力の導入といったことも実施しています。

まだ使ってないのになんで音が出るの?

――現場周辺への対応についてはどうですか?

加藤さん 細かいことも含め、たくさん対応しています。ちょっとホコリが舞うとか、車両が土を引っ張っているとか、音が気になるとか、いろいろなクレームが入ってきます。それらに対しては、真摯に受け止めてなるべく早く対応するようにしています。

まだ現場が始まっていなかったころ、現場で吹き付けのプラントの仮設備を整えていたのですが、夜間にこのプラントが誤作動して、エラー音が鳴ったことがありました。それで苦情をいただいたんです。「まだ使ってもいないのになんで音が鳴るの?」と思ったのですが(笑)、対応に当たり、事を収めました。

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現場見学会で大事なのは「食いつき」

坑内に設置されたベビーカステラとりんごアメ屋台と、見学に訪れた児童たち(同)

――現場見学の受け入れはどうですか?

加藤さん 地元住民の方々や地元小学生などのほか、現場で働く現場社員の家族を対象にした見学会を実施してきています。見学のほか、地元の漁協さんと連携し、四万十川へのアユの稚魚放流といったことも行っています。国土交通省関連の見学会では、YouTubeのWEB配信を行いました。

最近では、地元の小学校4校の生徒108人が現場見学に来られました。トンネル坑内に屋台を2軒出しましたが、好評でした。

立派なりんごアメ(同)

――屋台ですか?

加藤さん ええ、ベビーカステラとりんごアメの屋台を大阪から呼んだんです。子どもたちの手土産として配りました。

――それはどなたのアイデアですか?

加藤さん 私です。20年ぐらい前にも、見学会にたこ焼き屋を呼んだことがあります。やはり「花より団子」ですから、ぶらさげるニンジンがないと、子どもたちの心はつかめないんですよ(笑)。きっかけづくりが大事だと思っています。おかげさまで、手土産の話をしたら、一番の歓声が上がりました(笑)。

下河さん(現場代理人) 当日、私は司会をしていたのですが、「お土産として持って帰ってください」と言った瞬間、大歓声が上がりました(笑)。

――モノを送ってもらうのではなく、現場でつくって、配るという発想がスゴいですね。

加藤さん すべては印象に残すためです。現場見学会はどこでもやっていますから、変わったことをやらないと、印象に残りません。対象によってもなにをやるかは変えています。大人向けの見学会のときは、岐阜から栗きんとんを取り寄せて、配りました。賛否両論あるとは思いますが、私はそういう考えでやっています。

――なぜ栗きんとんを選んだのですか?

加藤さん 冷凍して長期保存できるので、オールシーズン配れるからです。キロ買いしました(笑)。

――いろいろな取り組みについてお話していただきましたが、屋台のお話が一番インパクトがありました(笑)。

加藤さん 一番大事なのは「食いつき」ですから(笑)。

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