加藤さん(右)と下河さん

現場管理のこだわりは「自分のこだわりを押し付けない」こと

印象に残っている現場、トンネル工事の魅力とは

前回、窪川佐賀道路の平串トンネル工事を請け負う戸田建設の現場での取り組み(工夫)について、記事をまとめた。今回は、作業所長である加藤広則さんのこれまでのキャリアを中心に記事をまとめた。現場代理人である下河太一さんにも話に加わってもらった。

  • 加藤 広則さん 戸田建設株式会社四国支店
    令和2-5年度 窪川佐賀道路平串トンネル工事 作業所長
  • 下河 太一さん 戸田建設株式会社四国支店
    令和2-5年度 窪川佐賀道路平串トンネル工事 現場代理人

なんとなくココに行こうかな

加藤さん

――ご出身は?

加藤さん 名古屋です。

――戸田建設に入社したのはいつですか?

加藤さん 平成3年です。名古屋支店配属です。

――戸田建設で「これをやりたい」というのはあったのですか?

加藤さん そう強いものはなかったです(笑)。なんとなく「ココに行こうかな」という感じでした。

――「トンネルをやりたい」というのもなかったのですか?

加藤さん 全然なかったです。最初に配属された現場がたまたまトンネルだっただけです。

――名古屋支店が長かったのですか?

加藤さん そうですね、23年ほどいました。愛知、岐阜、三重、長野、静岡のいろいろな現場をやりました。とくに長野の現場が多かったです。東日本大震災が起きた後、東北の支店に異動になり、そこに6年いました。今所属している四国支店に来たのはその後です。最初は宇和島の現場にいて、次に高知に来ました。

「名古屋市内で働きたい」と答えたのに…

――最初の現場はどのような現場でしたか?

加藤さん 長野の山奥にある高速自動車道のトンネル現場でした。名古屋支店で勤務するに際し、会社から「どこで働きたい?」と聞かれました。そこで私は「名古屋市内で働きたい」と答えたのですが、長野の山奥で働くことになりました(笑)。ちなみに、当時名古屋支店には私を含め5人の新入社員がいましたが、私以外はみんな名古屋市内の現場でした(笑)。

――大丈夫でしたか?

加藤さん 大丈夫でした。周りの人も気さくな方が多かったので、楽しく仕事ができたと今では思っています(笑)。この現場を経験したことで、社内的にトンネル経験者という扱いになりました。トンネルは基本的にNATMです。

――いわゆる「トンネル屋」ではないのですか?

加藤さん トンネルメインでやってきましたが、建築の現場とか、トンネル以外の現場もたくさんやりました。

――建築もですか。

加藤さん そうです。たまたま動いているトンネルの現場がなかったので、1年半ほどゴミ処理場の建築工事現場に入りました。建築のほかにも、船着場や下水道など、いろいろな現場に入ったことがあります。積雪の多い場所だと、冬に現場が止まるので、その間だけ応援でほかの現場に入るわけです。出稼ぎみたいな感じです。

――トンネルの現場がないからとは言え、いきなり建築の現場に行かされるとは大変ですね。

加藤さん そうなんですよ(笑)。建築のことはなにもわからないまま現場に入ったわけです(笑)。土木と建築とでは仕事のやり方なんかも違うんですが、結果的にはなんとかなりました。

それぞれ人の性格に見合ったしゃべり方、仕事の任せ方が非常に重要

――初めて全体を任された現場はなんでしたか?

加藤さん 新東名高速道路の静岡第五トンネル(仮)の現場でした。副所長兼監理技術者として入りました。新東名は設計速度150km/hでつくられているので、3車線でも断面がかなり大きいんです。

――初めての全体管理ということで、苦労したことはありましたか?

加藤さん やはり現場というものは、誰か1人欠けても、うまくいきません。すべての人がウマくハマり込むようにしてやることが大切です。そのためには、それぞれの人の性格に見合ったしゃべり方なり、仕事の任せ方なりをすることが非常に重要でした。

台風に見舞われ、大型重機が水没した

――とくに印象に残っている現場はありますか?

加藤さん いろいろあるので絞りにくいのですが、強いて挙げるなら、2つ目に入った新東名の額田トンネルの現場です。この現場は、トンネルが4本あって、延長のトータルが5,500mある、かなりとびっきりの現場でした。社員も常時30人ほどいました。強烈な印象を受けた現場でした。

――規模の大きさが印象に残ったということですか?

加藤さん そうですね。のべ社員数も100人を超えていましたから。現場を管理する立場としては、それ自体がある意味大変でした(笑)。

あと、岩手のトンネルの現場も印象が強いですね。現場が動いているときに台風に遭ったんです。2本のトンネルを掘っていたのですが、ジャンボという大型機械が水没しました。ケーソンの現場もやっていたのですが、60tのクローラークレーンが海に沈みました。360tクレーンを持ってきて、水中ダイバーを入れて引き揚げました。動いている現場があるのに、災害復旧もやったということで、工事に遅れが出たりして、かなりシンドかったですね。

――ケーソンの現場もやっていたというのはどういうことですか?

加藤さん トンネルの現場なのですが、工種がたくさんあって、その中にケーソンで橋脚をつくる工事もあったんで、なかなかのボリュームでした(笑)。

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自分のこだわりを押し付けない

――所長として、現場を束ねる上で心がけていることはありますか?

加藤さん この現場には戸田建設の社員が8名いますが、その中には若い社員をはじめ、さまざまな社員がいます。さきほども言いましたが、所長として、それぞれの社員に合わせたもの言いをしないと、その人の能力を活かすことはできません。その辺をいかに見極めて対応するよう心がけています。たとえば、この人には丁寧に言う、この人には強めに言うということですね(笑)。

――現場管理する上でこだわっていることはありますか?

加藤さん 自分のこだわりを押し付けるようなことはしたくないと思っています。自分がこだわってしまうと、人によってはイヤな気持ちになることがあるからです。なにが正解かはわからないところがある限り、他人に強要しすぎるのは良くないと思っています。もちろん自分だけで楽しむ分には良いとは思いますけどね。

――それはそれで大変そうですが?

加藤さん ええ、大変ですよ(笑)。でも、そういうのもアリかなと思っています。

全員で「貫通」という目標に向かって取り組むのが魅力

――加藤さんにとって、戸田建設の魅力はなんですか?

加藤さん なかなか難しい質問ですが、入社してからここまで来れたのには、戸田建設になにか魅力があるんでしょうね(笑)。会社を辞めたいと思ったことは何回もありましたが(笑)。

――トンネルの魅力はなんですか?

加藤さん 24時間休むことなく貫通まで突き進む工事は、トンネルぐらいだろうと思うんです。いろいろな人々が貫通という大きな目標に向かって同じ方向を向いて取り組んでいくのが、トンネルの魅力だと考えています。途中で途切れることなく掘削し続けていって、貫通の瞬間を迎える。そこに達成感を感じています。

至って温厚で、これまでと異質な所長

下河さん

――下河さんにとって、加藤さんはどのような所長ですか?

下河さん 私は入社してまだ9年ぐらいなので、下についた所長も4人ぐらいしかいません。その中での比較になりますが、加藤所長は、過去の所長とは明らかに異質です。加藤さんは至って温厚なんです。たとえば、私がなにか説明すると、ちゃんと聞いてくれるんです(笑)。

――以前の所長さんはどうでしたか?

下河さん かなり怖い方もいらっしゃいました(笑)。スゴく良い人なんですが、常に目が据わっているというか(笑)。べつに理不尽なことを言われたことはありませんが、オーラがスゴいので、とにかくコワかったですね。

――加藤さん、どうお感じになりましたか?

加藤さん 私自身いろいろな所長と付き合ってきました。中にはかなり個性の強い所長もいましたが、そういう人を反面教師にしてきたということはあるかもしれません(笑)。

下河さん 下の人間にしてみれば、自分の想いが伝わるのはありがたいことです(笑)。

――下河さんは現在、どのような仕事をしているのですか?

下河さん 現場代理人という肩書きですが、全体を統括する加藤作業所長をフォローする立場です。事務的な仕事のほか、安全衛生管理のため現場を回ったりとか、どちらかと言えば裏方的な仕事をしています。

――最初の現場はどうでしたか?

下河さん 香川と徳島の県境にある高速道路の大坂トンネルでした。2車線を4車線にする工事でした。

――いわゆるトンネル屋さんですか?

下河さん いえ、トンネル以外にもいろいろな現場に行きました。「四国で受注した現場に行く」という感じですね。四国支店は人が少ないので、基本的にどんな工種でもやるわけです。橋梁下部工の現場などにも入りました。

なんで怒られながら、仕事をしなきゃいけないんだろう

――印象に残っている現場はありますか?

下河さん 最初に入ったトンネルの現場ですね。入社したときに、会社から「どんな現場に行きたいか?」と聞かれたので、「トンネル以外の現場に行きたい」と答えました。ところが、当時受注できた現場がトンネルしかなかったので、トンネルの現場に赴任せざるを得なかったわけです(笑)。

実際に現場に入ってみると、トンネルの世界は普通の世界とは明らかに違っていました。ちょっと前まで学生だった身からすると、いきなり昔の世界に入り込んでしまった、そんな印象でしたね。たとえば、同僚の社員にはピリついている人が多かったですし、作業員さんにキツい口調で言う方もいました。「なんでこんなに怒られながら、仕事をしなきゃいけないんだろう」と不思議でなりませんでした(笑)。

――けっこう大変な環境だったんですね(笑)。

加藤さん トンネル現場は、昔から個性が強い人が多いんですよ。他の現場に比べて、なんか濃いんですよね。最初はちょっとキツいかもしれません。

下河さん 当時は拘束時間もメチャクチャ長かったです。朝6時半に朝礼をやって、夕礼が19時ぐらいでした。そこから内業をしなければならなかったので、1日の拘束時間が長い時期がありました。

――トンネル以外の現場に行きたかったのは、そういう実情をある程度知っていたからですか?

下河さん いえ、単純に山奥に行きたくなかったからです(笑)。

――なるほど(笑)。最初のトンネル現場は長かったんですか?

下河さん 2年ぐらいいました。

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自分がやられたことは、若い社員には絶対にしない

――今は現場代理人としてトンネルの現場にいるわけですが、若い社員にはどのように接していますか?

下河さん 私は自分のことをまだまだ若い社員のつもりでいるので(笑)、後輩の社員に対しては、ほぼ同期だと思って接しています。私は今33才ですが、プラスマイナス5才は同期だと考えているので(笑)、20才台前半の社員もいますが、ふだんから相当フランクに話しています。

――過去の経験を活かして、そう振る舞っているわけですね。

下河さん そうですね。同じことをしちゃダメだなと。負の連鎖は止めるべきだという思いがあるからです。私がここで同じことをしたら、若い社員も同じことをするかもしれませんから、絶対にしないと心に決めています。

四国支店は「全員知り合い」みたいな職場

――下河さんにとって、戸田建設の魅力はなんですか?

下河さん 戸田建設しか知らないので、なんとも言えません。最初の1、2年目は「いつでも辞めてやる」と思っていましたけど、なんとか仕事を続けられているという感じです。私はずっと四国支店勤務なのですが、支店の規模が大きくなく社員も少ないので、全員知り合いみたいな職場になっています。

たとえば、支店の偉い人にも直接電話できたりします。そういう雰囲気はなにかとやりやすいなと感じています。だから仕事を辞めずに済んでいるのかなと思っています。現在の私の希望としては、子どもがまだ小さいので、四国支店を離れたくないです(笑)。

加藤さん 戸田建設の場合、「支店が違うと会社が違う」ぐらい違いがあるんですよ。四国支店の個性だと思います。

――加藤さん、下河さんに対してなにを期待しますか?

加藤さん 私が彼と同じ年代のころは、彼ほど仕事をしていなかったように思います。そういう点では優秀だと思っていますし、期待もしています。

下河さん ご期待に添えるよう頑張ります(笑)。

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