菊地 健市さん(金杉建設株式会社 技師長)

菊地 健市さん(金杉建設株式会社 技師長)

ICT施工はとにかくラクだが、あくまでただのツールに過ぎない

ベテラン土木技術者が考える、ICT施工とは

金杉建設株式会社のベテラン土木技術者である菊地健市さんにお話を伺う機会を得た。菊地さんは、情報化施工と言われたころから、3Dデータを活用した施工を手がけてきた方で、最初にICT施工でやった現場は、旧i-Construction大賞の優秀賞を受賞している。

発注者の信頼も厚く、2つの現場の監理技術者(特例監理技術者)を任されたこともある。言ってみれば、ICT施工のグランドマスターだ。そんな菊地さんにとって、ICT施工というものがどう映っているのか。これまでのお仕事を振り返っていただきながら、お話を聞いてきた。

※R4・R5江戸川右岸小平地先堤防整備工事の内容は、2023年6月上旬取材時点

近隣地権者への対応に気を使う現場

R4・R5江戸川右岸小平地先堤防整備工事の現場の様子(2023年6月上旬取材時点)

――こちらはどのような現場ですか。

菊地さん 江戸川河川事務所発注のR4・R5江戸川右岸小平地先堤防整備工事で、現場は外郭放水路の下流に位置しています。既存の堤防上に築堤盛土する工事で、盛土には上段盛土と下段盛土があります。今は上段盛土をやっているところです。8月から住宅基礎や水道管などを撤去する基盤整備に入り、道路や搬路の舗装工事、水道管工事などをやって、令和5年6月末に完了する予定です。

――工事の進捗はどうですか。

菊地さん 80%以上は終わっています。あとは盛土の仕上げなどが残っています。これまでのところ順調にきています。今はICT建機は2台ぐらいしか動いていませんが、多いときは5台ほど動いていました。

――こちらの現場で苦労したことはなんでしたか?

菊地さん 一番気を使ったのは近隣の地権者への対応ですかね。この現場には田んぼが隣接しているのですが、たとえば、農作業用の乗り入れ口をどう設置するかについては、発注者を含めて何度も話し合いをしながら進めており、要望に応じて、乗り入れ口の付け替えなんかも行いました。あとは、水道管を元栓から撤去するよう依頼されたので、撤去作業はかなりの長い距離に及びました。

特例監理技術者として2つの現場を掛け持ち

現場スローガン

――特例監理技術者としてこちらの現場以外もやっているのですか。

菊地さん 特例監理技術者だったのは今年3月までなので、「やっていた」というのが正しいです。もう一つのR3江戸川右岸金杉地先堤防工事の現場が動いていたときは、特例監理技術者として2つの現場をみていました。現場同士はそれなりに近かったです。

――特例監理技術者はあまり聞かない役職名ですが、初めてやったのですか?

菊地さん そうです。私もそうですし、金杉建設としてもはじめてです。最近できた役職なので。特例監理技術者だったのは9ヶ月間ほどでした。

――特例監理技術者を設置した発注者の意図はなんだったのでしょうか。

菊地さん おそらく、入札の不調不落が多かったので、同時に工事本数をこなさなければならなかったからだと思います。

――2つの現場の監理技術者を実際にやってみて、どうでしたか?

菊地さん 発注者の理解があったので、問題なくできたと思っています。補佐もつけていただきましたし。ただ、2つの現場どっちもみないといけないのは、それなりに大変でした。先に終わる金杉の現場のほうに軸足を置いてやっていました。だいたい7:3ぐらいの割合で仕事量を振り分けていました。自分としてはやって良かったと思っています。

――どういったところでやって良かったのですか。

菊地さん 若い技術者に仕事を任せて、どんどん経験させることができたからです。

――どちらの現場もいわゆるICT施工ですか。

菊地さん そうです。

情報化施工と「中身は一緒じゃん」

――菊地さんがICT施工をはじめてやったのはいつですか?

菊地さん 平成28年ですね。やはり堤防工事でした。その前の情報化施工のころからGNSS締め固め管理やTS出来形などは一通りやっていました。ICT施工になったところで、「中身は一緒じゃん」と思ったので、「じゃあICT施工をやってみよう」となりました。会社からも「やるしかねえだろ」みたいなプレッシャーもあったので(笑)。

実際にやってみると、機材なんかも手持ちのものが使えたので、それほど苦労することなくできました。「ICT施工といっても情報化施工の延長だな」と思いました。

――それほど苦労はしなかったんですね。

菊地さん はじめてにしては、思ったより苦労しなかったということです。ただ、起工測量、出来形測量については、見た目が映えるので、レーザスキャナでなく、とあるカメラメーカーのUAVで写真測量をやることにして、点群データの処理はとあるシステム会社さんのソフトを分からない所を教えてもらいながら処理し、当時のUAVは自分たちでちゃんと飛行計画を組まないとうまくラップしてくれないものでした。結果的には、自分たちにノウハウを蓄積することができたので良かったのですが、最初は手探り状態で大変でしたね。

建機はICT建機ではなく、手持ちの重機に後付けでやりました。この辺は全部自分たちでやるのはキビしかったので、お付き合いのあったアクティブ・ソリューションさんにお願いしました。

最初にI-Con大賞受賞を聞いたとき、「それってなに?」(笑)

――その現場でi-Construction大賞の優秀賞を受賞したそうですね。

菊地さん そうです。ほかに適当な現場がなかったからだと思います(笑)。とくに自社だけでICT施工をやっていたのは、ウチぐらいしかなかったですから。後で聞いた話では、国土交通省としては、もともと下請けにICT施工をやってもらうのではなく、元請けが自社でICT施工をしてほしかったそうです。

――いわゆる「なんちゃってICT施工」はダメよ、ということですね。

菊地さん まあ、そうですね。

――月並みな質問ですが、i-Construction大賞受賞は嬉しかったですか?

菊地さん 正直なことを言うと、最初に受賞を聞いたときは「それってなに?」という感じでした(笑)。表彰式をやるというので、霞ヶ関の会場に行ったとき、初めて「けっこうスゴい賞なんだ」と気づきました(笑)。

もう従来施工には戻れない

――それ以降の現場はすべてICT施工でやってきたわけですか?

菊地さん そうですね、全部ICT施工の現場です。7〜8現場ぐらいやりました。どれも国発注の河川の現場です。

――それだけの数のICT施工の現場を経験すると、かなり熟練しているのではないですか。

菊地さん そうかもしれません。機材なんかも改善されてきていますし。ICT施工はとにかくラクなので、従来施工にはもう戻れませんね。自分だけでなく、オペレーターさんなども作業がラクになったという話を聞きます。

――ICT施工だったから、特例監理技術者として2つの現場を同時にみることができた、という側面はありましたか。

菊地さん それはありましたね。ICTだからこそ、測量といった作業量自体が減りますから。従来の方法だと、自分が現場に張り付いていなければならないとか、本社から人を呼ばなければならないといったことも発生していたかもしれません。

――ICT施工のノウハウについて、部下などにレクチャーすることもあると思いますが、どんな感じですか。

菊地さん 基本的には、私のほうで設計データなどを組んで、あとの修正や出来形の評価などは部下にやらせるというカタチでやっています。ICT施工について経験のある者は、最初から仕事を任せています。おかしなところがないかチェックするぐらいです。役所との調整とかCIMのやり方とかに関しては、ちょくちょくアドバイスしたり、チェックしたりはしています。

――CIMも自社でやっているんですよね。

菊地さん そうですね。

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現場のものづくりは、最後の最後は人の手が必要

――「ICT施工だけできても、一人前の技術者とは言えない」という話を聞いたことがあるのですが、この点どうお考えですか。

菊地さん それはそうだと思います。ICTはあくまでただのツールですから。現場のものづくりでは、最後の最後は人の手が必要になってきます。

――ICT施工以外の部分で、部下に教える上で心がけていることはありますか?

菊地さん ICTというツールの使い方をマスターするのは今の若い人は得意なので、そのツールをどうまとめて使うかといったところをちゃんと教えるようにしています。

――デジタルとアナログの違いについて、どうお考えですか?

菊地さん 個人的には、アナログはアナログでおもしろいですけどね。この場合のアナログとは、丁張りをかけたりとか役所と交渉したりといった地道な作業という意味ですが。若い人も好きになってもらいたいという思いはあります。ICTという道具を使うことで、仕事に余裕ができる分、地道な仕事にも手を回しやすくなるのかなと感じています。

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