多様性社会実現に向けたTOTOのユニバーサルデザインへの取り組み
TOTO株式会社は、1960年代から障がいのある方へ配慮した商品の研究開発を開始。その後も高齢者や性の多様性など、あらゆる人にとっての「使いやすさ」に向き合い、価値提案を続けてきた。
最近では、横浜駅構内のトイレ改修の際に、「男女共用(オールジェンダー)トイレ」が導入され、注目を浴びた。こうした価値創造の根底には、「つくるて、人を思うこと。ユニバーサルデザインはTOTOのすべてです。」と標榜し、ユニバーサルデザイン(UD)に基本としたものづくり・空間提案に重点を置いた企業理念がある。多様性を認め、支え合う社会の実現に向けて、TOTOのものづくり・空間提案はこれからも先手先手で展開されることは間違いないだろう。
今回は、TOTO株式会社 UD・プレゼンテーション推進部 UD推進グループの本橋 毅氏に、TOTOのUDに対する取り組みと、TOTOが抱く社会的使命について話を聞いた。
高齢化施設のリニューアルで改修事例が増加
――これから高齢化が進むにつれ、それに見合った空間施設が必要になります。
本橋 TOTOが提案する空間は、住宅とパブリック空間の2つがあり、このパブリック空間に病院・高齢者施設が重要なテーマも含まれます。要介護(要支援)高齢者の増加や介護人材不足などにより、病院・高齢者施設向けの商品に対する要望も高くなっており、TOTOとしても設計者・施工者向けに専門の冊子を作成し、それに見合った商品を提示しています。
たとえば、介護が必要になっても排せつだけは自分の力で済ませたいという気持ちに応える「ベッドサイド水洗トイレ」は高齢者施設への導入が始まっています。もともとは介護保険制度を使った住宅への中採用を期待し開発した商品でした。ところが高齢者施設での介護スタッフも慢性的な人手不足の時代です。介護スタッフが少ない夜間時の排泄介助やトトイレまでの付き添いも必要になりますから、人手が必要になります。そこでベッドの近くにトイレがあると自分で用が足せるので介護スタッフも必要最小限の見守りですむということで高齢者施設での「ベッドサイド水洗トイレ」の採用が徐々に増えてきました。

高齢者施設への導入が進む「ベッドサイド水洗トイレ」
――今、高齢者施設のリニューアルが進展していますが、影響はありますか?
本橋 ちょうど2000年から介護保険が始まり、世界最高水準の高齢化率となる中で、国は高齢者保健福祉施策の一層の充実を図るため、いわゆる「ゴールドプラン21」を策定しました。それ以前の1990年代からすでに高齢者施設が数多く建築され、今、水まわり設備などのリニューアルの時期に入ってきています。これまで新築での提案事例は多かったのですが、これからは改修事例が増加することも視野に入れ、TOTOの『バリアフリーブック 病院・高齢者施設編』には改修事例も新たに掲載しています。
具体例では、社員寮として使用していた建築物を改修し、高齢者施設に用途変更した事例があります。TOTOと介護事業主体主様と連携した取組みで、この事例ではこれまでトイレがなかった居室に新たにトイレを設け、高齢者が気兼ねなく自立してトイレを使える環境を整備しました。
介護スタッフの方や事業主様のご協力で「ベッドサイド水洗トイレ」の導入前後の比較がなされ、トイレに行く回数の増加や介護スタッフの排泄介助時間の削減など、その有効性の検証もできました。

TOTOのベッドサイド水洗トイレなどが採用された「特別養護老人ホーム 万寿の家」
――この「ベッドサイド水洗トイレ」は、今後利用が増えるのでは。
本橋 「ベッドサイド水洗トイレ」は、排せつ物とペーパーを粉砕してポンプで圧送していくシステムです。水洗式ですから簡易的なポータブルトイレと違い、バケツの汚物処理も不要となり、居室のにおいが軽減され、手のかかる後始末も不要です。戸建住宅でも日当たりのいい部屋にお年寄りが居住しつつもトイレは北側の離れた場所にあると、夜間にトイレまで行くには非常に労力がかかるだけでなく転倒の危険も伴い、またご家族の心配の種です。家をリニューアルし、トイレをお年寄りが寝起きする部屋にもう一つつくるとなると、リニューアル代がかかります。「ベッドサイド水洗トイレ」は排水勾配が不要で細い配管での施工が可能となるため、トータル費用は安価で済むメリットがあります。
――福祉器具の施工という観点で、難しさはありますか?
本橋 車いすや介護ベッドのような福祉機器は工事が発生せず、組立や据付だけで、基本的にはレンタル商材です。「ベッドサイド水洗トイレ」も福祉機器として介護保険の購入対象商品ですが、レンタル対象商品にはなっていません。施設のリニューアル時の施工では、排水管と給水管をどこに接続するかが課題としてあり、家庭では排水管と汚水枡をつなげることも多く、効果的な施工方法についてはTOTOとしても検討を続けています。「ベッドサイド水洗トイレ」の施工面も含めて課題感などをエンドユーザーやリモデルクラブ店から情報を吸い上げています。

「ベッドサイド水洗トイレ」の仕組みの図解
また、新築の高齢者施設では、事前配管で壁に給排水のコンセントを設置している現場もあり、今後入居される方の状態にあわせて「ベッドサイド水洗トイレ」を設置したり、取り外したりする事もできるように配慮されています。これから新築を建てられる際は、自分が高齢者になったことを想定し、トイレをどこに配置し、寝起きする場所を考慮し、設計していくことが重要になってくると思います。後々を考えると、事前配管を設置しておくことが老後の安心材料になりますね。
3年ぶりの「国際福祉機器展」で注目集まる
――「国際福祉機器展2022」への出展で、反響はいかがでしたか?
本橋 国際福祉機器展にはTOTOは1995年から出展しているのですが、今回はじめてリアル展とウェブ展の双方に出展しました。コロナ禍の中、会場に来られない方や遠方の方ばかりでなく、リアル展で見たことをウェブ展でも再度確認したり、詳しい情報を会場から検索したりできる効果もありますからね。
当日は商品展示や説明のほか、株式会社くますま代表・理学療法士の河添竜志郎氏を招へいして、「コロナ禍の中で高齢者の行動や意識はどう変わったか」をテーマに、高齢者にとって必要な生活環境、商品や空間について解説したプレゼンテーションも好評でした。
――来場者の属性は。
本橋 介護スタッフや福祉機器の販売を手がける方ばかりでなく、障がいのある方や高齢者の方、その家族の方も多くご来場され、自立して快適な暮らしを実現していくためにはどのような設備が必要か、という視点で説明員の話をうかがっている方が多かったですね。ウェブ展示会には3,000人以上のアクセス、リアル展は約1万2,000人にご来場いただき、合計で1万5,000人もの方にTOTOの新商品や提案を見ていただきました。
また、例年商品の技術的な裏付けにも関心を寄せる方が多く、たとえば「タッチ水洗はどのような構造で稼働しているか」「きれい除菌水の仕組み」などについて、現物で内部を見せたりするような特別な展示台も設けました。
今年のテーマを「ふれあいの、新しいかたち。」とし、コロナ禍で注目が続いているタッチレスの新商品のほか、汚れの原因のひとつである菌をしっかり除菌する「きれい除菌水」、「ベッドサイド水洗トイレ」などの各商品に光をあてて説明したほか、水まわり4空間の新商品コーナーも用意しました。会場で行われた紙芝居的な寸劇も好評でしたね。こうした展示や説明にもTOTOの「つくるって、人を思うこと。」という考え方がベースに流れています。

国際福祉機器展に出展し、商品をアピール
――TOTOの福祉機器でとくに人気があったものは?
本橋 やはり、「ベッドサイド水洗トイレ」は一番好評でしたが、トイレや風呂に簡単に設置できる昇降リフトの注目度も高く、高齢者や障がいのある方ご本人、介護スタッフの皆さんが熱心に体験している姿を何度も見かけました。
TOTOの福祉機器は、今まで水洗トイレを使っていた方が、高齢になられたり障がいを持たれたりなどの理由で使えなくなりそうになったとき、少しでも長く今までと同様に、水洗便器でウォッシュレットを使って誰の力も借りずに自分で用を足せるようにするためのものです。この考え方は、排泄や入浴といった人間の尊厳を守ることに繋がるものと思っています。
商品開発の根底にある「TOTOのユニバーサルデザイン」
――こうした商品群の根底にある「TOTOのユニバーサルデザイン」という考え方とは。
本橋 2019年12月に「TOTOのユニバーサルデザイン(UD)」をリニューアルし、同時に『ユニバーサルデザインbook』(コンセプトブック)も作成しました。これらの目的は、「TOTOがUDを通じて創造する活動」「TOTOのUDで目指す世界の姿」を、さまざまなお客様の「使いやすさ」に向き合い、価値提案を進化させていく姿勢を伝えるためのものです。
歴史を紐解けば、1974年に障がいのある方(主に車いす使用者)のための水回り空間の使い方を提案したことから本格的にスタートしました。1990年代になると高齢者の問題が浮上し、2000年から介護保険が開始されます。TOTOは1995年から高齢社会に対応した商品開発のための「シルバープロジェクト」を発足、2002年には一人でも多く使いやすいものづくりを目指して神奈川県・茅ヶ崎市に「UD研究所」を設立し、2004年にはCRS宣言「ユニバーサル宣言」を行い、事業活動ミッションの一つに「UD」を据えました。その後、高齢者や障がいのある方だけではなく、性的マイノリティの方にも配慮したパンフレット等を配布しています。
「UD研究所」では、実際に当時者に来訪いただきご意見をうかがい、実際に商品開発や空間提案につとめ、その時に空間提案した内容がのちのJIS、ISOや国のガイドラインに活かされたりしています。
商品開発に欠かせない「6つの価値」と「UD5原則」
――身体面だけでなく「心のバリアフリー」という言葉もありますが、心の面への配慮は。
本橋 TOTOでは、心身両面への配慮についても取り組み始めています。先ほどお話したUD改定に伴い、①グローバル社会を支えるUD、②生活様式を変革するUD、③共生社会の実現に向けたUD、④性のあり方を考えるUD、⑤家族の生活を楽しくするUD、⑥人口構造に配慮したUDという6つの価値の実現を目指しています。
――今お話しいただいたUDの理念を具現化し、商品化するうえで大切なことは何だとお考えですか?
本橋 まず第一に「UDサイクル」の考え方に基づいて商品開発につとめていくことです。商品を開発・提案していくときに実際に消費者からお話をうかがうことからスタートし、社内で一緒にディスカッションし、使い勝手を検証し、商品を提案し、さらに快適さを模索、新商品を検討する。この一連の作業を「UD研究所」が実施しています。

UDサイクルの考え方
また、UDは多様な人にとって「使いやすさ」「快適さ」を真剣に考えることから始まります。そこで、TOTOでは①ラクに使える、②操作しやすい、③ここちよい、④えらべる、⑤安全で安心、という「UD5原則」を心にとめながら、よりよい商品開発・提案を進めています。実際に、2000年以降からUDにのっとった商品群が開発され、今ではほぼすべての商品にUDのマークが付与されております。
一例ですが、最近の提案では「男女共用トイレ」が出始め、脚光を浴びています。たとえば高齢の母に付き添える息子さん、発達障がいのある息子さんに付き添うお母さん、娘さん一人でトイレに行かせることが心配なお父さん、あるいはトランスジェンダーの方にとっても性別を問わないトイレであれば、皆さんにとって安心ですよね。そこでTOTOでは『考えよう みんなのパブリックトイレ』というパンフレットを作成し、男女共用トイレの必要性を提示しました。民間の新しくできたオフィス空間や公共施設には男女共用の個室のトイレが設置され始めていますが、まずは「みんなで考えよう、みんなのトイレを」のスタンスで活動を進めています。
事例としても増えてきており、横浜駅の横浜高速鉄道みなとみらい線・東急電鉄東横線では、改修前に男女トイレ内それぞれに設置されていたバリアフリートイレを男女共用にされています。異性の介助が必要な方やトランスジェンダーの方などが気兼ねなく使えるよう、バリアフリートイレ以外にも男女共用個室トイレが2か所新設されています。
人としての尊厳を守り、福祉のまちづくりへ貢献する
――かつてない超高齢化社会が到来するなかで、TOTOは目指していくものは。
本橋 国が定義する高齢者、つまり65歳以上の方々は総人口のうち30%近くに及び、2025年になると団塊の世代が75歳となり、後期高齢者に移行していきます。要介護や要支援の認定者は、約700万人になっています。介護スタッフが依然不足している現状の中で、無駄な時間を削減していくことで、入居者と触れ合えるような環境と時間を確保していかねばならないと考えています。
また、一方で元気な高齢者も数多くいらっしゃることも事実です。国としても介護が必要とならないよう介護予防に注力していますが、TOTOとしてもタッチレス製品や「きれい除菌水」のような、高齢者が今まで通りの生活を維持し、なるべく在宅で元気に快適に過ごせるようなラインナップもそろえていきます。
TOTOで扱っている商品は、入浴や排せつといった「毎日誰もが使うもの」です。パブリック商品についても、先に話したように、これまでは身体障がいのある方など目に見える方への配慮を重点に行ってきましたが、今後は性的マイノリティの方など、様々な方がトイレを気兼ねなく使っていただけるような空間を提案していくことが重要になってくると考えています。こうした取り組みが基本的人権や人としての尊厳につながっていくと考えています。今後もUDを根底に置いたものづくりなどを実施していくことで、よりよいまちづくりの一助となりたいですね。
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