奥田 晃久さん 前国土交通省近畿地方整備局企画部長(現国土交通省水管理・国土保全局治水課長)

奥田 晃久さん 前国土交通省近畿地方整備局企画部長(現国土交通省水管理・国土保全局治水課長)

死ぬ時には「俺は世の中の役に立ったんだ」と思いたい

これまでのキャリア、国交省の仕事のやりがいとは

とある方のご紹介により、近畿地方整備局の奥田晃久前企画部長(現国土交通省水管理・国土保全局治水課長)に取材する機会を得た。すっかりオシャレに生まれ変わった新合同庁舎に感心しながら、企画部長室でお目にかかった瞬間、「これは気さくな方だ」と直感した。

案の定、率直にいろいろなお話をしてただいたわけだが、あまりに率直すぎる部分については、こちらの判断で割愛させてもらった。奥田さんのこれまでのキャリア、企画部長としての所管業務、国土交通省の仕事のやりがいなどについて、伺ってきた。

お前は建設省がええんちゃうか

――国土交通省に入省した経緯はどんなものでしたか。

奥田さん 京都大学で水理学を学んでいたのですが、研究室の恩師から「お前は建設省がええんちゃうか」と言われたのがきっかけで、結果的にそうなったという感じでした。私は広島の因島出身なのですが、先生からすれば、「田舎モンで、ドン臭い」学生だったのですが、でもなぜか建設省が向いていると言われました(笑)。最終的には当然自分で決めた道ですけどね。面接では河川をやりたいという話をしました。

――河川系として入省したわけですね。

奥田さん そうですね。最初の配属先は荒川下流河川事務所でした。ただその後のキャリアでは、現場に出ると、道路をやることが多かったんです。本省の技術調査課で人事担当係長をやったのですが、当時の人事慣行として、河川系だからと言っても、河川だけじゃなくていろいろ経験させろ、というのがありました。なので、課長になるときは、北九州国道事務所で調査課長でしたし、事務所長は姫路河川国道事務所でした。姫路のときは、播磨臨海地域道路とか道路の仕事が多かったです。河川では、関東地方整備局で河川計画課長をやりましたけど、1年だけでした。

不幸なことに、本省勤務が長い(笑)

――出先は道路が多かったけど、本省では河川系の仕事をやったと?

奥田さん そうですね。本省では、係長として技術調査課に3年、河川計画課に1年、課長補佐として治水課に4年、官・室長として河川計画課、河川環境課、海岸室の計4つのポストに合計7年いました。最近のこの7年間は、環境みたいな仕事もあれば、国土強靭化、流域治水といった仕事もやりました。

今のポストに来る前は海岸室の室長をやっていたのですが、海岸室は、海岸まわりのことはぜんぶやるという珍しいセクションなんです。整備もやるし、管理もやるし、環境のこともやるし、法規もやるといった感じなんです。室長というポストも課長待遇でした。課長会議にも出れるし、いろいろできるけっこうおもしろいポストでした。

――どちらかと言うと、出先や出向などより本省が長い感じですか。

奥田さん そうなんですよ、不幸なことに(笑)。

――不幸なことなんですか(笑)。

奥田さん 現場の仕事は楽しいです。現場の仕事を通じて課題を見つけ、本省で制度を変えてさらに現場で生かすのが理想です。毎年、「あと1年、あと1年」と思ってやっていました(笑)。国土強靭化とか流域治水とか、仕事の内容もヘビーなものが多かったです。組織・定員、予算といった重要な内部事務もやらせていただきました。整備局の定員を増やすことができたときはうれしかったですね。

われわれが災害対策をやってきた成果だけでなく、幸運もあって大きな災害になっていない

――企画部長としてのお仕事はどうですか。

奥田さん 昨年の6月末に就任して、まだ1年経っていないところですが、いろいろやっています。なにからお話ししましょうか。

――では近畿地方整備局の災害対応からお願いします。管内では近年、大きな災害は起きてない印象がありますが、どういうところに力点を置いて取り組んでいるのでしょうか。

奥田さん われわれがこれまでやってきたハード面の災害対策が功を奏した結果と幸運により、大きな災害に発展していないと見ています。災害につながりかねない、豪雨などの自然現象自体は、近畿はもちろん、全国至るところで発生していますから。災害化するのは、つまるところ、われわれの災害対策のスピードよりも地球温暖化のスピードが上回っているということだと考えています。そういう意味では近年敵である温暖化のスピードに負けないよう、もっともっと整備の加速化をしなければならない、そして責任は重いと感じてます。

近畿地方整備局では、南海トラフ巨大地震による津波被害が想定されていることを踏まえ、企画部内に平成29年度から局内各部を横断する津波対策連絡会議を設置し、情報の共有を図りながら、危機感が強く、やる気のある自治体を支援しています。

近畿地方整備局ではこれまで、L1対応のハード整備を進めてきたところですが、L1以上の津波対策、ハード・ソフト対策については、基本的に各自治体が実施する必要があります。

これらの対策と関係する近畿地方整備局内の部署はそれぞれ異なります。たとえば、まちづくりに関係する対策は建政部、道路に関する対策は道路部というように、所管が分かれているわけです。連絡会議を通じて、各部の対策などに関する情報を共有・連携しながら、局全体として自治体の津波対策を支援しているところです。

津波対策と言っても、堤防だけつくっておけば良いというわけではありません。ソフト面も含め、総合的な対策が必要です。自治体の危機意識が強く、自ら安全・安心な地域を作らねばという思いを持ち、自ら行動を起こす地域に寄り添い、技術面、予算面で支援したい、という思いを持って、取り組んでいるところです。

また、地震発災後の浸水対策についても、がれきなどによって道路が通行できない場合を想定して、排水ポンプ車などの事前配置計画を講じておくことで、最悪でも1ヶ月程度で排水を完了できるようにしています。どこが浸水するかは実際に起きてみないとわかりませんが、人が多く住む地域を優先してやっていくということで整理しています。最悪の想定で配置計画をつくっているので、実際はがれきが少ない場合もあるので、その場合はもっともっと早く排水できると思います。

――緊急輸送路の確保という観点で現在取り組んでいる事業としてはなにがありますか。

奥田さん 福井県の大野油坂道路、和歌山県の串本太地道路などがあります。いわゆるミッシングリンクの解消としての事業ですが、局として最重点事業になっています。そのさきにも兵庫県の大阪湾岸道路西伸部、奈良県の五條新宮道路などが控えています。

【PR】施工管理技士のキャリアアップ方法と資格の重要性

淀川を水素船が往来する時代が来る

――河川で言うと、淀川大堰に閘門をつくっていますが、船での資材搬送を視野に入れているそうですね。

奥田さん そうです。災害時に船で物資などを運ぶ目的も持たせています。大阪万博に向けた観光という目的もあります。

国がつくる広域地方計画というものがあって、私が近畿版の幹事長をしています。計画づくりの一環として、地域の代表的な企業の方々にインタビューするということをやっています。その印象としては、各社さんカーボンニュートラルに非常にチカラを入れられていると感じています。輸送で言うと、クルマよりも鉄道、鉄道よりも船が良いという考え方を持っています。船の燃料も油ではなく、水素にしていきたいと考えている会社もありました。

個人的には「また船の時代が来る」と痛感しているところです。淀川大堰閘門が完成すれば、長期的には、淀川にも物資を運ぶ水素船が入ってくるという気がしています。大阪はもともと水都と言われた都市ですので、船の時代の再来を期待しているところです。地元住民やメディアの関心も高いと思っています。

インフラDXの「すそ野」と「高み」

――管内の建設業の担い手確保についてどうお考えですか。

奥田さん 魅力ある職場環境にすることが重要だと考えています。そのためには、たとえば労務単価の見直しであったり、1人当たり仕事量の増加といった取り組みが必要になってきます。1人当たり仕事量の増加は、デジタルや機械などを活用したいわゆるインフラDXの取り組みということです。

インフラDXはまだまだ道半ばです。今まず力を入れているのはインフラDXに取り組む建設会社を増やすこと、すそ野を広げることだと考えています。加えてインフラDXをちゃんとやっている会社は褒め称えて、仕事が取れるようにする必要もあります。つまり、インフラDXに関しては、まずは「すそ野を広げる」、そして「高みを目指す」という2つの施策を進めていくということです。

近畿地方整備局ではインフラDX認定という制度をつくっており、認定会社が工事に手を挙げた際には総合評価で加点するということをやっています。正直に言って、認定基準は今はかなり甘めになっています。この認定制度がある程度浸透したら、高みを目指すほうに重心を切り替えていこうという考えでいます。

――今年度からBIM/CIMが原則適用になりましたが。

奥田さん BIM/CIMについても、まだまだ道半ばです。外注でやっているようではダメで、自分の会社でやる、つまり内製化しないと、受注者にとって儲けなどさまざなメリットは出てないのではないかと思います。

市町村に説明して回るキャラバンを実施中

――働き方改革への対応はいかがですか。

奥田さん 直轄工事に関しては順調に対応しつつあると認識しています。

――自治体の対応が気になるところですが。

奥田さん そうですね。われわれとしては発注者協議会を通じて、粘り強く働きかけているところです。あとはそれぞれの首長の認識も重要になってくるので、各府県と連携して市町村を説明して回るキャラバンを昨年度から実施しています。今年度からは市町村長に直接会って説明することをやっていきます。

――ICT施工や働き方改革については、自治体の中でも温度差がありますよね。

奥田さん ありますね。府県や政令市はある程度やっていただいていると認識しています。ただ、一般の市町村に関してはかなり対応が遅れています。「安くつくってもらってなにが悪い」という風潮が残っています。その辺も含め、首長さんにしっかり説明していかないと、なかなか状況は変わらないと思っているところです。

――キャラバンはどのクラスの職員が回るのですか。

奥田さん いわゆる官クラスです。私は「事務所長も回るべきだ」と言っています。「要望を聞くだけでなく、ウチの要望も聞いてもらえ」と言っています。ウチとしても汗をかいて示していかないといけませんので。

係長クラスの職員が全然いない

――近畿地方整備局職員の働き方改革はどうですか。

奥田さん 多様な人材に来ていただきたいと考えているので、在宅勤務を含め多様な働き方ができる職場づくり、スマートな職場づくりをコンセプトに掲げ、いろいろ取り組んでいるところです。職員支給のパソコンも新しくなるので、局内外のペーパーレス化や資料データなどのクラウド管理なんかも進めていく考えです。

――職員のリクルーティングはどうなっていますか。

奥田さん ここ3年ぐらいは、土木以外の学科の学生さん、農学とか化学といった学生さんにも積極的にリクルーティングをかけているところです。こういうアプローチは今後も継続していこうと考えています。大学などの土木の先生との距離を縮める必要もあると思っています。

あとは、中途採用です。一時期職員の採用数が減った時代があったので、特定の世代だけ職員がスゴく少ないんです。組織としてはキビしい状況です。具体的に言うと、係長クラスが全然足りていません。そのあたりを中心に中途採用を頑張っています。課長のすぐ下が係員という職場も少なくないので、今の管理職クラスは相当キツいと思います。中途採用職員の離職率は新採に比べてまだ高いので、入省前後の認識のミスマッチ解消を心掛けていきたいと思います。

一生をかけて働ける職場

――国土交通省の仕事のやりがいはなんですか。

奥田さん やはり世の中の役に立つ仕事に携われることです。私自身そういう思いを持って仕事をしてきました。世の中が良くなれば、それがちょっとしたことだったとしても、率直にうれしいです。自分一人で世の中を良くするという話ではありません。そういう思いを口にしながら、いろいろな人と一緒にやっていってこそ、世の中は良くなるものだと思っています。

最期死ぬ時に、「ああ、やれることはできたなー、少しは世の中の役に立ったかな」と思いたいですね。自分は騙せないのでハードルは高いですけど、自分の一生をかけて働ける職場だと思っています。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「ビッグプロジェクトあるで。毎日やりがい感じられるで」 “良い橋をつくろう”という情熱が溢れる職場
「”下請け”という言葉は使わない」 徳倉建設の現場代理人が語る、円滑な現場のつくり方
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「国道57号北側復旧ルート」が10月開通!熊本地震からの復興加速なるか?
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
モバイルバージョンを終了