オープンハウス・アーキテクトの人材開発部次長の藪口京介さん(右)と経営推進部次長の岡村美雪さん(左)

オープンハウス・アーキテクトの人材開発部次長の藪口京介さん(右)と経営推進部次長の岡村美雪さん(左)

銀行員、パティシエ、トリマー…「#越境採用」で多様性を現場の強みに【オープンハウス・アーキテクト】

オープンハウス・アーキテクト(東京都・中野区)では、業界・経験の垣根を超える「越境採用」を進めている。同社では8年ほど前から、異業界・異業種の出身者を活発に採用を進めてきた。これまで元甲子園球児、外壁職人、トヨタ自動車期間工、パティシエ、トリマー、ホテルマン、公務員、警察官、元銀行員と、多様な人々と採用した実績を持つ。

また、「令和のゼネコン」創設を目指す同社では、施工管理、設計などの部門にスーパーゼネコン、大手設計事務所、大手デベロッパー設計部門出身者も採用するなど人材の登用でも目を見張る。業界的に人材不足の中、会社が成長しているため、さらに異業種からの採用がひろがっていくだろう

そこで同社の人材開発部次長の藪口京介さんと経営推進部次長の岡村美雪さんに「#越境採用」の戦略について話を聞いた。

業界経験は不問。求めるのは圧倒的成長意欲と熱量

――「越境採用」とは、どのような採用手法なのでしょうか。

藪口京介さん(以下、藪口さん) 業界・職種の垣根を越えて、人材を採用する考え方です。建築業界ではどの企業も採用に苦戦し、とくに若手の獲得が困難になっています。当社としても施工できる棟数を増やしていく体制を整備し、事業を拡大していくうえで人材の確保は重要課題ですが、採用のターゲットを建築業界の経験者や大学の建築学科出身者に絞ってしまうと、将来的に採用に限界がくることは明らかです。

異業界・異業種で働かれている方々にも、様々な実績をお持ちで、建設業界でも転用できるスキルを保有されている優秀な方がたくさんいます。ですので、当社では前職での職種を一切問わず、建築に対するやる気や思い、成長意欲の強い方を対象とした採用活動を8年間にわたって進めてきました。これを今回、「#越境採用」というかたちでブランディングを始めました。

――改めてブランディングを図った理由は?

藪口さん 建築業界全体を見ても、異業種・異業界からの採用は徐々に増えてきている印象ではありますが、当社ではとくに、文系や異業種・異業界出身の20代の方が数多く活躍しています。こうした方々がいっそう当社に関心を持っていただくためで、ブランディングサイトも立ち上げました。

――採用市場が厳しい中では工夫が必要ですね。

岡村美雪さん(以下、岡村さん) そうですね。とはいえ、人材を採用するうえで重要なことは、入り口はもちろん、人材を受け入れるための業務フローをきちんと構築し、さらに現場の既存社員たちによる若手の教育体制を整えることです。これらが整っていなければ、もし採用ができたとしても、すぐに退職につながってしまいます。当社のようなベンチャーの利点は、経営判断として「採用」「育成」に大胆に舵を切ることができる、そのための体制を構築できる点だと思います。

文系出身や女性現場監督などがトッププレイヤーに

――これまで8年間の取組みの中で、どのような人材を採用し、活躍されてきましたか?

藪口さん 本当に多様な人材を採用してきましたね。公務員、警察官、建設職人、パティシエ、美容師、トリマー、ホテルマン、元甲子園球児、広告代理店、元スーパーゼネコンの現場監督と、前職やご経歴もさまざまです。いまでは、どんなご経歴の方が応募されてきても驚きませんね(笑)。

2023年4月の総会では、文系出身の新卒3年目の現場監督がトッププレイヤーを受賞していますし、4~5人の部下を統括しながら年間で約100~140棟単位を管理するマネージャークラスで新卒5年目の女性現場監督がトップマネージャー賞を受賞しました。

当社では未経験者だけでなく、工務店やハウスメーカー、ゼネコン出身の方々も採用しています。業界経験者も数多くいる中で、トップを取っている方には文系出身者や女性、異業種から転身されてきた方がたくさんいらっしゃるので、本当に良い人材に巡り合えているなと感じています。

――未経験からでも活躍できる人材を採用するうえで、面接では応募者のどのような点を見ていますか?

藪口さん 一番大切にしているのは「誠実さ」、次に「やる気」と「エネルギー」、最後に「賢さ」です。この「賢さ」は学力的な意味ではなく、人生の選択に誠実に向き合ってきたかを意味します。

その方のお人柄を見ることを重視しており、一般的にイメージする形式的な面接ではなく、カジュアルな面談形式にてお互いの理解を深めるようにしています。

岡村さん また、「#越境採用」の専用サイトも含めて、採用関連サイトのコンテンツ制作にはかなり注力していることもあって、多くの方が事前にサイトを見ていただいているので、自然と熱量の高い方に応募いただいています。

――未経験者を採用することに不安はないのでしょうか?

藪口さん 一般論としては、施工管理の未経験者を採用すると、戦力化に至るまでに時間とコストが掛かります。現場側の理解も必要になりますから、成熟しきった企業では導入のハードルも高いのではないかと想像します。ただ、当社では8年間続けてきた中で、もはや当たり前のスキームになっていますし、現場側も理解して受け入れてもらっているのでデメリットにはなりえません。それよりも、応募される方や入社される方の母数が増え、優秀な人材を獲得できることのメリットが大きいと考えています。

令和の時代でゼネコンを創設する決意

――オープンハウスグループの採用サイトでは、「令和のゼネコン」という言葉での訴求も目立ちます。

岡村さん 具体的には、中堅さらには準大手のゼネコンクラスを目指して、事業拡大を進めています。現時点ではマンションが中心ですが、見積依頼はオフィスや高齢者施設と多岐にわたってきているので、来期以降はマンション以外のオフィスビルやホテル、商業施設・倉庫など幅広いRC造建築の受注・施工を視野に入れて動いていきます。

――RC造の案件をカバーする人材は集まっているのでしょうか?

藪口さん ありがたいことに、施工部門や設計部門、積算部門などで、スーパーゼネコンや準大手ゼネコンの施工管理出身者、大手設計事務所や不動産会社の設計者に入社いただいています。

体制としては、工事部門・建築部門の部長2名が、それぞれ130名・30名の組織のマネジメントを展開しています。一人は老舗のゼネコン社員で、もう一人は総合商社の元営業部員で、いずれも「越境採用」で入社しました。施工管理者は年間、木造とゼネコン部門両方で新卒とキャリアを含めると120~130名を採用しています。ちなみにゼネコン部門はキャリアで年間約40名、新卒は今期5名、来期20名を予定しています。

ゼネコン部門は、3年前までは約30名の体制でしたが、8月現在約150名に至り、約5倍に増えています。さきほど申し上げた案件についても、人材ベースでは受注できる環境が整いました。これからはマニュアル化のフェーズに移っていきます。

――ゼネコン出身者が応募される理由は?

藪口さん 令和の時代にゼネコンをつくると表明していることに興味を持って応募されて来られますね。ゼネコンの社員の方々には、長く働く中でそれぞれ課題を感じている方も多いんです。しかし、企業としての仕組みが固まっている中での課題解決はとても難しい。そして当社のようなゼネコンを一からつくることから携われれば、建設業界がよくなるという期待を抱いています。たとえば若手育成に献身的に行っている当社であれば、ゼネコンをつくりつつ若手育成に携わることができるのではないかと思って、入社を希望してくださる方もいます。

また、ゼネコンでは現場事務所に直行直帰することが多く、事務所が支店のような立ち位置になります。すると、本社と現場のつながりはどうしても希薄になってしまいます。当社では、各地のRC造の建築担当者を本社に呼んで食事会を催し、交流や意見交換をする機会をつくることで横のつながりを大切にしています。しかも年代別・階層別の横のつながりをつくることができるよう工夫しています。

また、若手同士現場監督の交流も活発で、「今、こういうので困っているけれどどうやって解決した?」とチャットで質問し、回答も水平展開するなど連携して知識を交換し合っています。2~3年で様々な場所から集まってきたメンバーが一緒になって仕事を進める意味では、感情の部分がとても大切だと感じています。

複数の視点で問題解決する多様性の強さ

――前回のインタビューでも同様ですが、御社には多様性の強さを感じます。

藪口さん 当社はとりわけ”多様性”が重要な会社です。常に新規事業が走っているので、様々な役割の人材が必要になるからです。

岡村さん 新しい事業を進めるためには、いろんな思考や視点を持った人材が必要です。日々成長していくためには、今に固執しては実現しませんから、多様な意見を聞けるということはとても貴重なことなんです。

――今後の人材採用の方向性は。

藪口さん パイを絞らず門戸を広くし、良い人材とたくさん出会うことがベースになります。

女性活躍も大きなテーマです。当社でも活躍している女性は増えていますが、もっと母数を増やしていくつもりです。新卒採用については女性がかなり増えていますが、会社全体で見ればまだまだ比率は高くありませんから。

また、これからのゼネコン部門を担っていただける人材もより多く採用していきたいですね。

オープンハウス・アーキテクトの「#越境採用」:https://oha.openhouse-group.com/recruit/special/


今回のインタビューでは、人材開発部次長の藪口京介さんと経営推進部次長の岡村美雪さんに「#越境採用」の狙いについて話をうかがった。次回のインタビューでは、「#越境採用」によって入社し、現場を支える施工管理者に話をうかがう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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