「祝貫通ウチワ」を持つ加藤広則さん(右)と下河太一さん

「祝貫通ウチワ」を持つ加藤広則さん(右)と下河太一さん

戸田建設がトンネル貫通セレモニーをやるというので体験してきた

レアな貫通セレモニーに参加

戸田建設株式会社は2023年12月8日、窪川佐賀道路平串トンネル工事(延長1337m)の貫通に合わせ、実貫通見学セレモニーを高知県四万十町内のトンネル坑内で開催した。地元住民や関係業者など約200人が見守る中、ピアノ演奏を皮切りに、実貫通発破、貫通点浄めの儀式、鏡開きなどが行われ、参加者全員による万歳三唱で締めくくった。

席上、主催した同社平串トンネル作業所長の加藤広則さんは、「(セレモニーでは)実際に火薬の威力を体験してもらう実貫通、ピアノ生演奏といった珍しいことをやりました。(参加者には)このイベントを心に刻んでほしいです。工事はあと約半年ほど続きますが、引き続き工事に対するご理解、ご協力をお願いします」と語った。

窪川佐賀道路は、高規格道路の四国8の字ネットワークを担う道路(2車線)で、窪川工区(四万十町平串〜四万十町金上野、延長約5km)、佐賀工区(黒潮町拳ノ川〜黒潮町佐賀、延長約6.2km)から成る。平串トンネルは窪川工区の一部で、戸田建設が工事受注。2021年9月から掘削を開始していた。

以上が、今回のセレモニーのあらましだが、レアな貫通セレモニーに立ち会えたので、印象に残ったいくつかの事柄について、触れておきたい。

現場所長自ら「地上の星」をピアノ生演奏

ピアノを演奏する加藤さん

開式に際し、まずピアノ演奏が行われた。このピアノは、四万十緑地公園に設置されている「森のピアノ」で、セレモニーのために、わざわざ借りてきたものだ。トンネル坑内にファンシーなデコレーションが施されたピアノが置かれている光景は、なかなかシュールだ。

「奏者は地元の人にお願いしたのかな」と思っていたら、「演奏は加藤広則作業所長がいたします」というアナウンスが鳴り響いた。あまりに意外な展開に一瞬ざわついたが、加藤さんがおもむろに中島みゆきの「地上の星」を弾き始めたとたん、シンと静まり返った。(筆者は)ピアノ演奏に関しては無知だが、トンネル工事の現場所長がふつうにピアノを弾いている様は、シュールを通し越して、感動すら覚えた。

加藤さんに以前取材した際、「現場でイベントごとをやるなら、とにかく印象に残ることをやるのが大事だ」という趣旨のことを言っていたが、まさに自らそれを実践したということになる。実際、演奏時間は2分ほどだったが、イベントから数日経った今でも、鮮烈な印象としていまだに記憶に残っている。

あとで本人に聞いたところ、「実は、4才からピアノをやっていまして(笑)」ということだった。「地上の星」を選んだ理由については、プロジェクトXへのオマージュという意味を込めているらしい。

実際の発破音を体験してもらうという演出

発破作業を映した映像に見入る参加者

感動のピアノ演奏の後、貫通点で発破作業が行われた。参加者は、貫通点から300mほど離れた安全な場所から映像で作業の様子を見守った。カウントダウンの後、「ドン」というけっこうな音量の爆発音が坑内に鳴り響いた。貫通点には1mに満たない穴(貫通点)が空き、外光が差し込んだ。

貫通穴

発破に際し、耳栓をわたされていたが、つけなかったので、ちょっと驚いた。おそらく、これも加藤さんの演出だろう。と言うのも、あの加藤さんなら、トンネル工事、NATM工法ならではの発破音を実際に体験してもらいたいと考えそうだからだ。

雄叫びを上げながら、樽神輿をかついで走る

樽神輿を先導する下河さん

参加者一同が貫通点に移動し、清めの儀式が執り行われた。実際の施工を担当するトンネル施工会社のメンバーが、神妙な面持ちで、祭壇が設置された貫通点周辺に塩などをまき、頭を垂れた。この儀式は本来、山の神様に感謝を捧げるため、神職が執り行う儀式。これも加藤さんの差配だとすれば、興味深い。

清めの後、樽神輿が運びこまれ、鏡開きが行われた。樽神輿を運んだのは戸田建設(1基)とトンネル施工会社(2基)。戸田建設の樽神輿を扇動したのは、現場代理人の下河太一さん。なにやら雄叫びを上げながら、威勢良く樽神輿を貫通点手前まで運んで行った。

鏡開きをする加藤さん(中央)

鏡開きはふつうに執り行われたが、本来(?)はその場でお神酒を酌み交わすことがあるが、この現場ではそのようなことはなかった。これは当然のことである。

この後、貫通石拾い、記念撮影が執り行われたようだが、ほかのことに気をとられていて、あまり覚えていない。地元の区長さんの音頭で万歳三唱して、閉式した。セレモニーの中身としてはそんなところだ。

万歳三唱

蛇足で言えば、個人的に印象深かったのは、隣の工区でトンネル工事を行なっている他社の建設会社メンバーが参加していたことだ。ライバルではあるが、お互い学び取ることもあるのだろう。

もう一つは、式典イベント会社の存在だ。同社は、貫通式や開通式などの土木関係のイベントを手掛ける福岡にある会社だが、体育会系のノリでテキパキ動いていたのが、好印象だった。トップ写真の「祝貫通ウチワ」を手配したのも同社だ。テキパキさゆえに、何度か体当たりを喰らったのもコミで、印象に残っている。

最後に、セレモニーで「加藤さん、やるなあ」と思ったことについて書きたい。それは花だ。ピアノの周りやパネルの前には彩り鮮やかな花々が飾られていた。心に余裕がないと、こういうことはできないものだからだ。

誰にも顧みられぬ花々。だからこそ、その美しさが心に沁みる(?)

ざっと見ていたところ、花を愛でる参加者は少なかったが、それでも地元参加らしき女性2人組が、かがみ込んで花を見ながら、なにやら話をしている様は見られた。

土木にメロディを。トンネルに花を。

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