東急建設株式会社(東京・渋谷区)は2019年に、今後の拡大が見込まれる中大規模木造建築市場へ本格参入。立ち上げた新ブランド『モクタス』が軌道に乗っている。今後、木とRC造やS造などをミックスする木造・木質モデルの混構造建築を強化する方針だ。『モクタス』は、「木心地のよい都市を創る」というビジョンを掲げており、木造建築技術で環境未来都市を創造することを目指しているという。
中大規模木造建築では、公共的な施設でも鹿児島県の「佐田町森林総合活性化センターさたでいホール」、民間施設でも「日立建機株式会社土浦工場事務管理棟」などで実績を着実に積み重ねており、さらに技術的にも木質構造の建築物に導入できる高遮音二重床システムの開発により、非住宅木造建築の軽量化と高遮音化を実現した。
2021年3月には新たな企業ビジョン「VISION2030」を掲げ、脱炭素や廃棄物ゼロの目標を示したが、その具体的な方法の一つが木造・木質建築とのことで注目度は増した。さらに東急建設の有力な商圏である渋谷を中心とした首都圏では、大規模ビルだけではなく、中層ビルや旧耐震設計時代の物件も多く、今後こうした建築物もターゲットとして考えられる。
今回、東急建設建築事業本部事業統括部の木造推進部の大給乘禎(おぎゅうのりただ)部長、浅井透専門部長、稲葉文彦担当部長が非住宅の中大規模木造建築の戦略について余すことなく語った。
新ブランド『モクタス』と「木造推進部」の展望
――3年前に、中大規模木造建築市場へ本格参入したことで新ブランド『モクタス』を立ち上げられましたが、現在に至るまでの経緯について教えてください。
大給乘禎氏(以下、大給部長) 東急建設は、ゼネコンとしては稀な木造戸建住宅を40年以上手掛けてきましたが、2018年から中大規模木造建築に本格参入し、それに伴い『モクタス』ブランドを立ち上げました。そして同時に、従来の「住宅事業部」から「木造建築事業部」に組織名称を改編、その後さらに事業を加速させるため、2020年4月に木造建築事業部を廃止し、建築事業本部の中に「木造推進部」を新たに設置しました。これまで木造建築事業部は首都圏を中心に展開してきましたが、この組織改編により全国展開を目指す事となりました。
また、組織改編前までは技術開発も含めて、戸建住宅および低層木造建築に注力しておりましたが、近年、デベロッパーから混構造の中層建築物について多くの要望をいただいており、こうした要望に応えていく為にも現在は、戸建住宅事業から中大規模木造建築市場へとシフトしています。2020年度には戸建て住宅の工事がおおむね竣工したため、2021年度から本格的に中大規模木造建築に取組んでいる段階です。
――『モクタス』の趣旨は。
浅井透氏(以下、浅井部長) 『モクタス』は当社の中大規模木造・木質建築ブランドです。脱炭素社会に向けた取組みを中心に据えつつ、木造建築物を建てること、つまり都市に木(もく)を足すことにより、「木心地のよい都市を創る」というビジョンを表したものになります。このビジョンの実現のため、木造の良さを全てのステークホルダーに認知してもらう啓発活動等も展開しており、社会環境の視点からも植樹を実施し、原生林に近い植生復元の活動に参加しながら、木の良さ、脱炭素、環境、木造建築の意義などを包括的にPRする事業を展開しています。
とくに今、林業では川上の部分が置き去りにされています。まずは木造建築市場を活性化し、国産材流通の循環を進め、林業活性化にも貢献していきたいという思いも『モクタス』には込められています。
一例として、「都市の木造化」をイメージしたイラストレーションを作成しておりますが、都市に木(もく)を足すことで街の魅力をより向上させ、木心地(きごこち)のよいまちづくりに貢献したいという思いが込められています。
延床面積5,000m²超の大規模木造オフィスが竣工
――非住宅の中大規模木造について、最近ではどのような実績がありますか?
大給部長 代表的な物件では、延床面積約5,000m²超えの日立建機株式会社土浦工場事務管理棟です。木造在来軸組工法による2階建ての大規模なオフィスです。通常は耐火建築物となるのですが、中央コア部分を耐火建築物(90分耐火)として南北棟を分割する事で建築基準法上の別棟建物として扱うことが可能となり、準耐火建築物(45分準耐火)にて柱・梁は燃えしろ設計による木構造を現しとし木の温もりを感じられる空間が実現できました。また、執務エリアや吹抜部には積極的に自然採光や換気が可能な環境配慮型のオフィスとなっています。
当物件は、2021年度のウッドデザイン賞の受賞や、カナダ林産業審議会(COFI)主催の「第4回COFI木造建築デザインアワード」大型建築部門入賞、茨城県建築士事務所協会主催の「第35回茨城建築文化賞」入賞等の実績があります。また、最近では熊本県玉名郡の「南関町庁舎等建設工事」で公共工事も施工しました。
そのほかの公共的な工事としては、鹿児島県肝属郡の「佐多町森林総合活性化センター さたでいホール」、岩手県の「大船渡市立越喜来小学校・越喜来こども園」、「東急池上線 戸越銀座駅」なども施工しており、木造の魅力が官民工事問わず、認知されつつあると感じています。
――木造の世界に先鞭をつけた点では、かなり先見の明があったということですね。
大給部長 前提として、国産木材を活用していくという社会的課題と脱炭素への貢献という観点から、木造への取組みを加速化させてきた背景がありますが、今後の市場規模を考えても、中大木造建築市場への参入をいち早く展開すべきという経営判断に至っています。
とくに、この1年は案件の持ち込みが非常に多くありました。現在はウッドショック等による資材高騰の影響もありますが、木造化や木質化への機運は非常に高まっています。