株式会社植木組 建築設計部長の鳥羽寛氏

株式会社植木組 建築設計部長の鳥羽寛氏

【植木組】「BIMは内製化すべき」 全案件でBIM活用率40%以上が目標

実際の建物と同様なモデルをコンピュータ内の仮想空間に再現するツール「BIM」をプラットフォームとし、さまざまなICTシステムと連携し、生産性向上や働き方改革に寄与する動きが活発となっている。特に、技能労働者不足や建設資材の高騰など、建設業界には不安要素もあり、各社ともデジタルの活用によってこの難局を乗り越える構えだ。

主に新潟県に地盤を持ち、全国展開している中堅ゼネコン・株式会社植木組(新潟県柏崎市)もいち早く、BIM/CIMに着手した。現在、設計段階でのワークフローの改善を目的にBIMを活用、意匠、構造や設備設計で各BIMモデルを作製、各モデルの統合を目指す。

中期経営計画の中にも「BIMの整備」も明記し、今や経営上でも重要なテーマだ。今後の動きとしては、設計・施工段階でのフロントローディングやICT建機のほか今後活用が考えられるAIやロボットなどの様々なデジタルツールなどとの連携も視野に入れる。

今回、植木組の建築設計部長の鳥羽寛氏にBIM戦略について話を聞いた。

1冊の本との出会いからBIMを導入

──2015年からと業界内でも早い時期からBIMに取り組まれていますが、どのようなきっかけだったのでしょうか?

鳥羽寛氏(以下、鳥羽氏) 私の経歴からお話させていただくと、新卒で植木組に入社して、それから3年間は現場監督を経験していました。最初の現場は旧建設省の工事事務所の管理棟や格納倉庫の工事に携わり、新入社員ではありましたが、S造・RC造・SRC造すべて担当させてもらいました。それからはコンクリート二次製品の工場や事務所を4棟施工して、湯沢スキー場のマンション棟の人工地盤の施工途中に社会人留学で大学へ入り直して、設計事務所へ出向することになりました。大学は意匠系を専攻していたので、社会人留学では構造系を学ぶことにしたんです。

以降は構造を中心とした設計畑を歩むことになったのですが、昇格試験のレポートを執筆中に、これからの設計分野ではどのような未来が待っているのかを考えている中で、(株)日建設計の山梨知彦氏が執筆された『BIM建設革命』という本に出会ったんです。

同書では「BIMとは何か」から始まっていたのですが、BIMの導入による生産性向上の効果に衝撃を受け、これから建築業界でも大幅に導入されていくと思いました。私自身、手書きからCADへと移行する時代も経験していたので、同じようにCADからBIMへと移行することもイメージしやすかったんです。

それから当時の上司に軽い気持ちで、「今後、BIMが本格的に導入される時代が来ます」と提案したら、「それならウチでもやってみよう」とトントン拍子で話が決まっていったのがきっかけです。

――BIMの導入を決めてからは、どのように動いていったのでしょうか?

鳥羽氏 まずは意匠チームでBIMを採用することにしたのですが、開始から数年間は部分的な3次元化レベルの活用に留まっていました。若手は吸収が早いので、BIMの使用頻度自体は高かった半面、個人の力量に任せていたことが思うように取組みが進まなかった要因だと思います。一方で、国土交通省が土木分野でCIMを積極的に採用する動きに連動して、同時期から土木技術部と技術開発部がCIMを積極的に取り入れており、建築設計部としてもBIMのスピード感をCIMと同様に早める必要がありました。そして、5年前に私が建築設計部長に昇格し、中期経営計画の作成にも参画するようになってから、BIMの本格導入を進めていきました。

BIMモデルを扱う女性技術者

──現在の建築設計の体制は。

鳥羽氏 本社11名、東京本店5名です。私を除いて、意匠が5名、構造が3名、設備が4名、BIM担当が2名です。そのうちの1名をBIMのワーキングリーダーに任命して、意匠、構造、設備設計分野を横断的に管轄しています。


BIM推進には内製化が必須

──現在、どのような案件でBIMを展開中でしょうか?

鳥羽氏 東京本店のメイン工事であるマンションのほか、工場やオフィスなどの案件では可能な限りBIMで対応しています。活用件数としては、2019~2021年度で合計29件、2022~2023年度は合計19件です。

企画から実施設計までのBIMの導入はまだ数%に留まっていますが、一部の意匠や構造の骨組み部分でのかかわりでは70%まで進捗しています。ただ設備設計は遅れ気味になっているので、意匠モデルと統合する試みを展開しています。

意匠、構造や設備設計の統合モデル

先日も東北地方での大規模工場の案件ではプレゼンツールとしてBIMモデルを作成し、ツインモーションで動画をつくったのですが、お客様から非常に好評でした。マンションでもパース等でBIMを用いていますが、3Dモデルでの設計可視化による施主・社内等のコミュニケーションや理解度の改善、お客様のコンセンサスを得る上では大変有効だと感じています。また、設計変更に伴う手間やコストの削減や設計図間での整合がとりやすく、質も向上しています。

外部足場モデルの活用

──BIMの運用を外製化するのではなく、内製化を選択された理由は。

鳥羽氏 内部にBIM技術者が不在だと、社内外で打ち合わせもチェックもできませんから、BIM技術者が社内にいないとスムーズに進まなくなります。これからさらにBIM物件が増えたときには、人的リソースを考えると100%内製化すべきかどうかは疑問符も付きますが、BIMで生産性を向上させるにはまずはBIM技術者を自社で抱えることが重要だと考えています。

──内製化にあたり、どのような育成方式を採用されていますか?

鳥羽氏 先ほどお話した通り、まずは課題だったBIM業務の属人化を改めるため、組織として正式にBIMのワーキングリーダーを置くことにしました。新潟にBIM教育を行っている専門学校があるのですが、3年前にそこの学生を採用して担当者としました。また別の構造担当者には構造設計事務所の(株)ベクトル・ジャパンに出向してもらい、外部の機関にも協力を仰ぎながら育てています。

関連記事:「全ての建設事業者をBIMで繋げる」建材商社発のDXは”建設プロセスの断裂”を解決できるか?

全案件で40%以上、実施設計案件で80%以上が目標

──今後はどのようなところまで進捗されていきますか。

鳥羽氏 2022年度から2024年度にかけての第14次中期経営計画で、計画や施工案件含む全案件でBIM活用率40%以上、実施設計案件では80%以上を目指しています。そのために2023年度は設計部門でワークフローの整備、テンプレートの作成を進め、2024年度からはこれらを稼働させながらブラッシュアップしていく予定です。

設計・施工案件では、BIMのデータを用いた施工図を作成したり、動画を活用した施工手順プレゼンテーションで施工検討会でのバーチャル竣工により理解度を促進するほか、ICTやIoTとの連携や中高層建築物でBIMを導入した木材利用やZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)への活用も検討中です。

また、BIMモデルとICT建機の連携も検討しています。具体的には、ICTシステム搭載建機にBIMの3次元データ(掘削データ)を取り込み、GNSS(グローバル衛星測位システム)などから建機本体の正確な位置情報を取得して、生産性の向上と高精度の施工が可能となることに期待しています。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「もっと早く全面適用にならないかな」とすら思うくらい、BIM/CIMは良い技術
「全ての建設事業者をBIMで繋げる」建材商社発のDXは”建設プロセスの断裂”を解決できるか?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「建設デジタル、マジで、やる。」 BIM人材を養成し、施工BIMの普遍化へ
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
モバイルバージョンを終了