淀川大堰閘門事業の経緯、目的とは
国土交通省近畿地方整備局は、2025年4月に開幕する大阪・関西万博に合わせ、淀川大堰閘門事業を進めている。この事業は、琵琶湖から大阪湾に流れる淀川の河口約10km地点に設置された淀川大堰に閘門(こうもん)を新設するもので、完成すれば、輸送船や観光船といった船舶による舟運(しゅううん)が可能になる。
今回、同事業の現場取材をする機会を得た(取材時期は2023年7月下旬)。まずは、現場を工事監督する同局淀川河川事務所毛馬出張所の荒木渉さんに事業概要や進捗などについてお話を聞いてきた。
淀川の水運を復活させる、あまり例のない事業
現場の様子(2023年7月時点)
――淀川大堰閘門事業の経緯について教えてください。
荒木さん 明治時代は、淀川には船が往来していました。その後、鉄道や自動車といった陸上交通網の発達に伴い、徐々に衰退していきました。
舟運復活の契機となったのが、阪神淡路大震災でした。震災により、陸上交通網がマヒしてしまった中、舟運が復旧作業に活躍しました。そのほかにも、近年は、支川である大川から定期的に観光船が行き来しているということもあり、一層の淀川舟運に対する機運が高まりを見せるようになりました。
淀川には淀川大堰というものがあります。この淀川大堰の目的の一つが、都市用水などの取水や維持用水を流すために、上流側の水位を保つことですが、上流と下流の水位差によって、船が行き来することができなくなっています。船が上下流を通行することができるようにすること、これが淀川大堰閘門事業の目的になります。
――直轄河川に閘門を整備するというのは、先例があるのですか。
荒木さん これだけ規模の大きな閘門整備はあまり例がないと思います。
――事業の概要はどうなっていますか?
荒木さん 淀川大堰の左岸側に閘門を令和3年度から整備しています。現在は、閘門や水路といった構造物を支えるための基礎工事として杭を打っています。あとは、航路を掘削するための前段階として矢板を打っています。大阪・関西万博が始まる令和7年4月までの完成に向けて工事を進めているところです。
設計段階からBIM/CIMを活用
――これまでの進捗としてはどうですか?
荒木さん いろいろと課題がありますが、目標に向けて着々と進めているところです。
――出水期の制約はありますか?
荒木さん 閘門本体の構造物の施工については、出水期から外していますが、掘削工事や杭打ちなどの基礎工事については、治水上の安全が確保されるという意味合いから、出水期も作業を行なっています。
――工事のピークはどうなっていますか?
荒木さん 出水期が終わる11月以降の見通しです。
――この事業を進める上で配慮していることはありますか?
荒木さん 作業場所の近くには住宅が密集している場所もありますので、休日や夜間に作業する場合は、前もって住民の方々にお話をして、ご理解をいただくよう気をつけています。
――いわゆるBIM/CIM発注ですか?
荒木さん 設計段階から3Dデータを作成していますが、このデータを活用し、施工の進捗などについても情報共有しながら、工事を進めているところです。
閘門本体工事は大成建設、外構工事は五洋建設
――働き方改革への対応はどうですか?
荒木さん この現場に関しては、週休2日の実施はなかなかキビしい状況です。もちろん、そのためにいろいろ取り組んではいるのですが、大阪・関西万博までにという目標がある以上、土曜日も現場を動かさなければならない場合もあります。
―― 一つの現場で大成建設さんと五洋建設さんがそれぞれ工事をしているようですが。
荒木さん 大成建設さんが基礎工事を含めた閘門本体工事を担当し、五洋建設さんは閘門本体工事以外の導流路、導流堤、締切の工事をしています。
――それぞれの工事が同時並行で進められているということですか。
荒木さん そうですね。ただ、今のところは、メインの工事は本体の基礎工事における杭打ちなので、大成建設さんが現場に入っています。出水期前は五洋建設さんが現場に入っていましたが、出水期が終わったら、再び五洋建設さんが入ってくる予定です。
――発注者として施工管理上とくに注意していることはありますか?
荒木さん 施工ヤードがかなり狭く、制約された現場なのですが、そこにたくさんの重機が動いているほか、たくさんの資材なども置かれています。われわれとして一番こわいのはやはり事故なので、現場の状況は常日頃から気をつけています。
――濁水対策はどうですか?
荒木さん 濁水については、中和処理など必要な措置をした上で、川に流すようにしています。
施工業者さんに寄り添って、事故なく
――整備完了に向けて、今後の心構えをお聞かせください。
荒木さん 現場では、予期し得ないことや、現場だけでは対処しきれないことも起こり得ます。そういう場合、目標とする工期がある中では、われわれ発注者と施工業者さんが緊密に連携していないと、なかなか工事を前に進められません。
実際に現場で頑張っているのは施工業者さんなので、彼らの悩みなども聞きつつ、河川事務所ともやりとりしながら、少しでも工期を短縮できるよう心がけてやっているところです。今後についても、施工業者さんに寄り添うカタチで、事故がないように気をつけてやっていきたいと思っています。
――珍しい現場だと思いますが、その辺はどうですか。
荒木さん 閘門という構造物自体はなかなか携わることのない工事だと思います。作業内容を一つひとつ切り分けてみれば、他の構造物の工事とほとんど変わりませんが、現場の制約上、難易度の高い工事であると思っています。どちらも経験豊富な施工業者さんですが、われわれも発注者として培ってきた経験があります。そう言った意味では、お互い良い関係性を保てていると思っています。
職場の良い雰囲気づくりが一番大事
――荒木さんにとって、近畿地方整備局の仕事の魅力はなんですか。
荒木さん 今の現場もそうですが、大きな事業に携われるのが、魅力ですね。私は入省して20年ほどですが、道路と河川、それぞれの分野で大きな事業に携わってきました。それがこの仕事の魅力の一つですね。
――出張所長というお仕事はどうですか。
荒木さん 良い雰囲気で仕事させてもらっています(笑)。管理職になってまだ2年目ですが、一番心がけているのは、話しやすい雰囲気をつくることです。職場には7名ほどの職員がいますが、良い雰囲気づくりが職場では一番大事だと思っているので、ふだんから積極的に話しかけるよう心がけています。