大和ハウスグループ(※1)と大東建託グループ(※2)は、両グループが管理する賃貸住宅で、平時や有事の協業・情報共有を推進し、地域の防災力のさらなる強化と入居者が安心して暮らせる住まいを提供するため、「災害における連携及び支援協定」を締結した。
両グループ会社が管理する賃貸住宅は、国内の約189万戸(大和リビング約65万戸、大東建託パートナーズ約124万戸の合計。2023年12月31日現在)。賃貸世帯が約1500万世帯と言われており、両グループ合計のシェアは12%を越え、協定のインパクトは大きい。協定内容は両グループの賃貸住宅や基盤・インフラを活用し、平時と有事で防災活動や災害支援で連携する。平時では全国の賃貸住宅入居者、オーナーや地域住民を対象にAEDの講習や水災・火災のVR体験、消火訓練などの防災イベントを共同開催する。また有事を想定した情報連携体制の構築、被害・空室情報の共有などの災害時連携訓練を実施することで、地域防災力の強化を図る。
また、震度6弱以上の地震の発生や警戒レベル5「特別警報」が発令される有事では両グループが協議し、共同対策本部を設置。被災地域の状況調査結果、空室情報や被災者支援策を共有する。被害状況を把握し早期の災害復興に役立て、被災地域の賃貸住宅入居者の仮住まいを融通し合う。大和ハウスグループのロイヤルホームセンター株式会社とも連携を図り、災害用備蓄品や復旧用資機材を必要に応じて供給するほか、大和ハウス工業の全国9か所の工場に移動式貯水タンクを設置し、有事では被災地域の賃貸住宅入居者に生活用水を配給する。
今回都内で両グループは記者会見を開催、大和ハウス工業の芳井 敬一代表取締役社長、出倉 和人取締役常務執行役員集合住宅事業本部長、大東建託の竹内 啓代表取締役社長執行役員、守 義浩取締役執行役員が出席し、今回の提携の意義について語った。
(※1)大和ハウス工業株式会社、大和リビング株式会社、大和ハウス賃貸リフォーム株式会社。
(※2)大東建託株式会社、大東建託パートナーズ株式会社、大東建託リーシング株式会社。
業界競合 災害連携で何故タッグ?
左から、大東建託の守 義浩取締役執行役員、竹内 啓代表取締役社長執行役員、大和ハウス工業の芳井 敬一代表取締役社長、出倉 和人取締役常務執行役員集合住宅事業本部長
なぜ、両グループは災害連携や支援でタッグを組んだのだろうか。まずその点について芳井社長が解説した。
2018年7月に「晴れの国」といわれる岡山県に西日本豪雨災害が襲った。芳井社長は岡山県に赴き、「被災者に一日も早く笑顔を取り戻すためにはどうすれば良いのか」と考えたという。災害が激甚化している中、いち早く被害状況を把握し、被災者の生活再建を支援する体制を構築する必要がある。大和ハウス工業はかねてより、「人・街・暮らしの価値共創グループ」として、地域が抱える課題に向き合い、地域の誰もが安心して暮らせる豊かな街を目指し、物流施設や工場を被災者の一時避難場所や支援物資の一時保管場所として提供する、連携協定を全国各地の自治体と締結している。そんな中、第三者を介して、大東建託の竹内社長と会合の機会をもった際、芳井社長は「災害における連携」について語ったところ、竹内社長はその場で快諾し、両社で詰めていったというのが両グループがタッグを組んだ背景にある。芳井社長は、「賃貸住宅で業界1位の大東建託グループと連携を結んだインパクトは大きい」と語り、また竹内社長の即断について感謝の意を示し、この連携の輪が広がることを希望した。
両グループの協業イメージ。平時、災害発生時、有事に分けて7項目で連携する。
一方、大東建託グループでは、「地域の“もしも”に寄り添う」という理念のもと、地域防災を平時と有事の両輪で支援し、グループ全体で災害時の地域の早期復興の寄与を目指し、2023年2月に「大東建託グループ防災ビジョン2030」を策定。同ビジョンのもと、全国展開のネットワークを活かした防災活動を進めるとともに、地域の各自治体との防災連携強化にも積極的に取り組んでいる。
「今後、大和ハウスグループとの災害における連携することにより、安全・安心でより効果的な施策を打ち出すことができる。災害が激甚化・頻発化している中で、生活インフラの一つである賃貸住宅を提供する企業として、有事の際にいち早く生活再建を支援する体制を構築する必要がある。両グループの賃貸住宅の基盤を活用し、災害発生時には密な連携により防災対策を推進するとともに地域全体の防災力の向上と地域住民の命と財産を守ることに貢献したい」(竹内社長)
質疑応答では、賃貸住宅業界大手の両グループが災害での連携と支援をする意義についても言及があった。
「個別のケースでは、現場で両グループの社員が切磋琢磨(せっさたくま)し、奮闘するが、災害の場合であれば共同で被災者に対して支援を行う必要がある。冒頭申し上げたようにインパクトの面では、大東建託と連携する点が望ましいと考えて今回実現した。まず両クループでプラットフォームをしっかりとつくる」(芳井社長)
「現場では確かに両グループは競合するが、災害発生の際は大切なインフラである賃貸住宅を支援しなければならない。そこで個社にとどまらずもう一つ高い所の視点が必要だ。業界全体がこのような流れになっていくのが望ましく、芳井社長から連携のお話を頂いた際にはとても感銘し、すぐやるべきと判断し、その場で決断した」(竹内社長)
年内に横浜、中部、関西で防災イベント
具体的な協業の内容については、大和ハウス工業の出倉 和人取締役常務執行役員集合住宅事業本部長、大東建託の守 義浩取締役執行役員から説明があった。
平時での取組みでは、賃貸住宅の入居者のほか、オーナーや地域住民を対象とした防災イベントとして、初弾を2024年7月に横浜市民防災センターで開催する。一般的な防災知識に繋がるコンテンツをはじめ、火災のVR 体験や消火訓練など、自治体や消防団の協力のもと、各種体験型訓練を実施する考え。続けて、同年9月に中部エリアで、さらに11月に関西エリアで、同様の防災イベントを開催予定だ。また、災害発生を想定した両社グループ従業員の情報連携訓練を実施し、情報連携体制の構築、情報共有手段の確保や被害情報・空室情報の共有にもあたる。今後のビジョンとしては、2025年3月に協業項目の拡大を検討する。
協業の拡大項目については、「(まずは)この協業内容をしっかりと固め進める」(大和ハウス工業・出倉氏)、「まずお互いでの情報共有を進め、改めて協議する方針」(大東建託・守氏)と、今後詰めていく方針を示した。
被災地での修繕工事でも協業を検討
質疑応答の際、検討していく協業項目は「施工面」も含まれていたことが明らかになった。
「(災害での建物の修繕)関連は当然、共同で当たっていく方向で進む可能性が高い。災害関係は他でも同じような事案になるため、共同で行うことでより解決しやすくなる」(芳井社長)
「施工者に対して二次被害がでないよう配慮することが肝要だ。被災地のオーナーが賃貸住宅を所有している関係で保険加入、融資も含めて震災後はさまざまな課題が生じる。それがクリアされた段階で、施工者が現地に入る流れになるかと思う。このあたりについても現在、協議を行っているところ」(竹内社長)
今回の連携の幅がどのように広がるかは今後の動向に注目であるが、まずは両グループでプラットフォームを形成し、しっかりと現在の協業内容を固め、実現していく方針だ。また、自然災害により、住家被害が発生した場合、両グループが施工面でも協力する方向で検討していたことも明らかになった。普段、競業同士であるがお互いが切磋琢磨し、仕事に取組む一方、防災や災害面では協力できる点が明らかになったことは大きな成果といえるだろう。願わくはこのプラットフォームの幅が拡大し、業界全体で自然災害に立ち向かうことが重要な動向になる。