(公社)土木学会(佐々木葉会長)の建設マネジメント委員会傘下にある「公共工事の価格決定構造の転換に関する研究小委員会」(委員長・木下誠也・(一社)社会基盤マネジメント研究所代表理事)は、公共調達に関する研究成果を報告書にまとめた。
施工の安全や品質が確保され技術者・技能者に適切な対価が支払われ、技術開発意欲を増進する調達の実現のためには下請価格や労務賃金の適切な支払いを前提とし、実際の下請価格・労務費を積上げて入札金額が決まる価格決定構造への転換方策を検討する必要がある。
同小委員会では上限を拘束する予定価格制度の維持を前提で現行の入札契約方式の問題を分析し、予定価格の設定手法や調査基準価格を下回った札の適切な扱い方などを検討した。
今回、同小委員会の研究報告書の作成の内容の要旨をまとめる。
予定価格の設定方法など3項目を検討
土木学会での検討経緯
検討内容は、「上限価格(予定価格)の設定方法の見直し」「下限価格を下回った札の適切な措置」「市場原理に基づく適切な入札価格による健全な競争環境の醸成」の3項目がメイン。
予定価格は、過去の取引きの実例価格に基づき、工事の標準的な価格として定められている。工事には現場の施工条件により短い時間で安く施工できる工事(儲かる工事)もあれば、作業に時間がかかり施工費が高くなる工事(儲からない工事)もある。標準的な価格の考え方を工夫し、会計法の規定を前提としつつも、予算の範囲内で不調・不落を生じさせない予定価格の適切な算出で上限を適切に設定する方法を模索した。
次に下限価格を下回った札の適切な措置は、ダンピングを回避しつつ適切な価格競争の実現が肝要だ。調査基準価格を下回った場合、所要の品質の構造物を工期内に安全に施工でき、技術者・技能者に適切な賃金を払い、利益を上げている会社であれば受注できる仕組みを検討した。このため入札者は入札価格の妥当性の説明が求められ、発注者は入札価格の妥当性を判断できる職員の能力育成や体制の確保が重要になる。
市場原理に基づく健全な競争環境のもと、施工の安全や品質が確保され、技術者・技能者に適切な対価が支払われ、技術開発意欲を増進する調達のため、入札者が下請価格・労務費を適切に積上げ入札し、受注につながる制度が必要となる。
この日本特有の公共調達のルールである、予定価格による上限拘束のもとで落札者を決定する入札制度の枠組みは変わっていない。これまで土木学会でもさまざまな検討が行われ、「公共事業における技術力結集に関する研究小委員会」で議論し,発注者の技術力の補完の代替方策を研究した。もう1つの大きな課題である価格決定構造のあり方の見直しの検討を行う「公共工事の価格決定構造の転換に関する研究小委員会」を2020年に設立し、今般報告書をまとめた。
上限拘束の撤廃を求める声も
建設業界は、従来から上限拘束の撤廃を希望しているが、とくにここ数年の災害対策による公共事業拡大に伴い、上限拘束による弊害も際立ち、民間主導で完工に必要な費用が計上された価格で契約できる仕組みへの期待がさらに高まっている。発注者も不調・ 不落の多発で公共事業の執行に支障が生じることから、上限拘束の弊害に対する問題意識が高まっている。
日本が技術立国の発展のための技術開発や民間の工夫による技術競争を促す観点から、民間主導の価格決定の仕組みが必要になるほか、担い手確保の観点からも技術者・技能者の処遇改善が重要で、そのために価格決定構造を転換し、物的・付加価値労働生産性の向上によって適正な労務費・人件費を確保し得る価格決定構造の検討が必要との視点に立った。
考え方としては、不調・不落を生じさせない予定価格の設定(①上限の適切化に向けた取組み)や適切な価格であれば失格とならないダンピング対策(②下限の適切化に向けた取組み)、入札者が自らの施工能力を考慮し、適切な賃金支払いや利益計上できる価格で入札する点(③入札の適切化に向けた取組み)が大きなポイントになる。
上限価格が上がり、下限の適切化で市場競争の範囲が広がり、入札者が自らの施工能力を踏まえ、適切な賃金支払いや利益計上できる価格の入札で健全な競争環境が醸成されることが期待される。
公共工事の価格決定構造の転換イメージ
適切な入札価格で健全な競争環境を
「上限の適切化に向けた取組み」での「現行法制を変更せずにこれまでの運用の範囲内で実施できる取組み」では、①標準歩掛を用いる方法、②見積りを活用する方法(国土交通省中部地方整備局では、直接工事費全額を競争参加企業からの見積りを採用する方法)、③交渉を活用する方法、④必要に応じ実費精算をする前提で概算数量に基づいて積算する方法の4点を提示した。
一方、「現行法制を変更せずにこれまでの運用範囲を拡大して実施できる取組み」では、①施工者から事前に施工方法等の意見を聴取し、見積りを活用する方法、②最高額の見積りの活用、③不調・不落が生じないよう市場動向を考慮した積算による予定価格の設定(予定価格への上乗せ分の提案)の3点を提案した。
そして「下限の適切化に向けた取組み」では、ダンピング入札の歯止めの調査基準価格の設定と入札金額の妥当性の確認方法である発注者が、その入札価格と施工方法の評価の手法・体制・技術力の確保の課題への取組みが必要で、予定価格設定の積算方法や調査基準価格の算定方法も見直す。
その中で「適切な価格で入札されていることを確認するための取組み」では、①入札が行われる当該工事の施工計画を入札時に確認する方法(未施工工事の確認)、②入札前に施工された当該入札者の過去の工事実績を確認する方法(施工完了工事の確認)の2点を提案。
「施工体制確認型総合評価落札方式における運用の見直し」では、①作業時間・賃金の支払が確認できた工事への加点の試行、②施工体制評価点(品質確保の実効性、施工体制確保の確実性)を満点加点する試行、③調査基準価格に関わらず発注者から求められた場合、価格の妥当性を説明することを求める工事の試行を提案した。
入札契約方式と施工単価算出方法
技術競争見積審査方式(仮称)を検討
今後の課題の中には、総合評価落札方式や技術提案・交渉方式以外に、「技術競争見積審査方式(仮称)」も検討した。審査ゲージで用いる積算基準類や物価関係資料と見積額価格との相違の説明ができる、安かろう悪かろうを排除する、公共工事品質確保法に基づく、技術的に優れたものであるなど、予定価格の範囲内で発注者にとって総合的に有利な入札をした者を相手方として契約する。
手順は、技術競争の結果、選ばれた技術の見積りの審査が想定される。実際の工事にかかる費用と支払われる額との乖離は、標準歩掛を用いた際、大きくなる場合があり、一方で価格交渉を実施する技術提案交渉方式や実費精算をする維持管理業務は、実際の工事にかかる費用と支払われる額との乖離は小さくなる。標準歩掛と実際の施工にかかる費用の乖離が大きい工種や難易度が高く標準歩掛を用いることが不適切な工種は、類似工種の施工状況の調査を進め、価格交渉や実費精算の検討が必要とした。
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