高知土木事務所長に聞いた「優秀な現場監督の条件」「県都防衛、インフラ整備の最前線事情」…高知土木事務所長に聞く県都防衛、インフラ整備の最前線
高知県土木部の高知土木事務所は、高知市全域の海岸から平野部、山間部までを管轄しています。
市域には、かつて浦戸湾内の海だった場所を埋め立てた海抜0m地帯、孕(はらみ)地区があります。
昭和21年(1946年)の昭和南海地震の際には、この地域で1mほどの地盤沈降が発生。数カ月にわたり田畑が浸水したそうです。現在は市街化が進み、民家や商店が立ち並んでいます。
南海トラフ巨大地震による津波被害の想定では、孕地区をはじめ、高知駅や高知市役所がある高知市中心部まで浸水するとされており、津波、浸水対策は県都防衛の最重要施策だと考えられます。
高知土木事務所では今どんな仕事に力を入れているのでしょうか。所長の武内盛久さんと技術次長の田内克彦さんにお話を伺いました。
東日本大震災を教訓に、河川・港湾の耐震化事業を推進
施工の神様(以下、施工):高知土木事務所の仕事の内訳、地震対策の割合はどうなっていますか?
武内盛久(以下、武内):高知土木事務所の事業費は、平成24年度から平成28年度までの5年間では、おおむね80億円から120億円の間で推移しています。事業の割合は、道路が38%から58%で最も多く、次いで河川が24%から42%、港湾が9%から16%となっており、公園(1%〜12%)、急傾・砂防(1%〜8%)、ダム(1%〜3%)と続きます。
東日本大震災を教訓とした全国防災事業として、平成23年度から27年度までの五カ年計画で緊急性のある事業に取り組んだ結果、事業費がピークとなった27年度は、河川、港湾が半分以上の約69億円を占めましたが、28年度は約30億円と少なくなっています。具体的には、河川や港湾の今まで行ってきた事業費に地震対策費が上乗せされた形になっています。道路関連費は、毎年度ほぼ横ばいで推移しています。
地震・津波対策等費に占める割合は、24年度が21%、25年度が32%、26年度が31%ときて、27年度にピークの47%(約56億円)に達した後、28年度に32%となっています。事業別では、河川と港湾が大部分を占めています。
三段構えの堤防で県都を守る!
施工:津波・高潮対策の進捗は?
武内:港湾と河川の二つの事業を進めています。港湾事業の目的は、まず発生頻度の高いL1津波に対して、津波防護ラインから陸側への津波の侵入を防ぐこととしています。次に、最大クラスの津波L2に対して浸水面積や浸水深の低減を図るとともに、津波到達時間を遅らせ、高知市の被害を最小限化することを目的にしています。
具体的には、津波に対する「三重防護」として、海側から高知新港沖の防波堤を第1ライン、浦戸湾入口部分の堤防などを第2ライン、浦戸湾内護岸などの第3ラインの、三つの防護ラインを設定し、これらの施設に対して、粘り強い構造への補強や地盤沈降などに対応したかさ上げや液状化対策に取り組んでいます。現在、若松町地区護岸の耐震補強を実施中で、29年度からは新田町地区での耐震化工事の着手を予定しています。
三重防護の事業期間は28年度から43年度までで、県の事業費は約250億円。事業の進捗率は、23年度から29年度の間で約15%となっています。なお、三重防護の事業費は、国直轄事業を合わせると約600億円になります。
河川事業は、高知市の重点区間での津波や浸水による被害を最小化することを目的としています。対策方針としては、津波や浸水の被害想定に基づき、優先度に応じて河川堤防の液状化対策や排水機場の耐震化を図っているところです。浦戸湾流入河川で対策が必要な延長は約39kmありますが、そのうち14kmの堤防の耐震化が完了しています。また、浦戸湾内にある9カ所ある排水機のうち7カ所の耐震化が28年度までに完了しています。
施工:長期浸水への備えは?
武内:既存の排水機場を活用するとともに、移動ポンプ車を配備する構想があります。海や川からの流入を防ぎ、ポンプ車で強制排水する形になると思います。ただ、それによって備えが万全になるわけではないと考えています。
現場監督の力量を計るバロメーターとは?
施工:受注者として、こういう建設業者は素晴らしいと思うところはありますか?
武内:高知市内にある業者の技術者のFさんは素晴らしい技術者です。Fさんに任しておけば安心という感じで、信頼のおける技術者です。Fさんは「トンネル工事であっても長靴を履く必要がないような作業環境にしたい」という思いがある方です。トンネル工事では、一般的に湧水が多く、長靴で歩くことが多いのですが、Fさんの現場では、湧水の管理がしっかりしていて、革靴でも歩けるほどです。そういう方に担当していただくと助かります。
施工:個人の技術者の力量によって、それだけの違いが出るのですか?
武内:そうです。現場代理人が現場の長で、全ての指示を出しているわけですから、その力量は現場を見れば一目瞭然です。ちゃんとした現場代理人の仕事は、仮設の状況や準備の段階などからも、配慮の仕方が全然違います。
施工:県としてルールを設けているわけではなく、現場代理人が自主的に配慮をしている?
武内:そうです。Fさんのような配慮がないから、この現場はダメだということではありません。ただ、現場代理人によっては「Fさんのような現場があるよ」と言うことはあります(笑)
施工:もっと頑張れと?
武内:ええ。
現場監督の技術力?そんなのあって当たり前
施工:ルール違反ではないけども、これは困るという業者、技術者はいるのですか?
武内:どの業者であっても、われわれが発注する図面通りのものをつくる技術力はお持ちだと考えています。業者によって何が違ってくるかというと、ものを作る過程なんです。
現場代理人、主任技術者によって、つくり方が変わってきます。つくり方というのは、例えば、現場の整理整頓もその一つです。キレイに整頓されている現場は安全性も高くなる。そういったところまで、きめ細かく配慮がされているか否かが大きな違いになってくるわけです。
工事の過程では、発注者であるわれわれがチェックする場面があるのですが、われわれが目で見たいものについて、事前に的確に連絡してくれるかどうかということもあります。業者によっては、見たかったのに、すでに埋め戻していた、という行き違いがたまにあります。その点、発注者の意図を汲んた的確な対応をしてくれる現場代理人は、ありがたいと思います。
まち中の工事では、特に地域住民の方々のご理解、ご協力なしに工事を進めることはできません。県としてルールを設けているわけではありませんが、現場代理人をはじめ施工に関わる方々が住民に対して丁寧な対応を心掛け、信頼関係を築くことで、スムーズに工事を進めることができます。
施工:現場代理人にものをつくる技術力があるのは当たり前で、その過程でプラスアルファの工夫ができるかどうかが、評価の分かれ目ということですか?
武内:そうです。人もそうですし、会社の姿勢も影響します。ものをつくるに当たって、最低の合格ラインを目指しているのか、常に満点を目指すのかによって、その思いの濃淡の違い、つまり資質の違いが出ます。
必ずしも資質の高い業者が受注できるわけではありませんが、多くの業者が経験を積んで、高いレベルを目指して欲しい、という希望はあります。
……津波被害に対する最良の方策は、高台移転だと思われます。「ぐるりと防波堤を作るより、全戸を高台移転する方が安い」という意見もあります。ただ、その実現には、かなり高度な政治決断と強固な住民との合意形成を伴うことが予想され、実現可能性は極めて低いと思われます。
高知県としては、ある程度の被害は甘受するとして、被害をどれだけ低減化できるかという方針のもと、三重防護などのインフラ整備を進めているようです。長期浸水対策については、今後も粘り強く知見の収集などに取り組み、さらなる一手を講じて欲しいところです。
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