建設キャリアアップシステム(CCUS)の現在地。3か年計画公表、あらゆる現場や職種で展開へ

国土交通省は、国が率先して取り組む事項をまとめた「CCUS利用拡大に向けた3か年計画」を公表した。6月20日に、2024年度「第1回建設キャリアアップシステム(CCUS)処遇改善推進協議会」(会長・蟹澤宏剛 芝浦工業大学建築学部教授)で同計画案を示したが、建設業団体からおおむねの合意を得られ、当初案からの大きな変更はない。

協議会は関連106団体から構成され、行政、建設企業、公共や民間の発注者その他建設業に関わる者が一体となって、建設業でのCCUSの普及・活用を通じた社会保険加入の徹底、労務費や法定福利費の確保、建設業退職金共済(建退共)の普及などに向けた取組みを進める上での課題、取組み方針を協議する。関係者の取組み状況の定期的な情報共有を図ることにより、建設業での処遇改善を総合的かつ継続的に推進することを目的とする。

活動内容は、次の通りだ。

  1. CCUS の活用を通じた社会保険加入の徹底、労務費及び法定福利費の確保並びに建退共の普及を進める上での課題に関する意見の交換
  2. CCUSの活用を通じた処遇改善の取組を進める上での課題に関する意見の交換
  3. CCUS の活用を通じた処遇改善の方針の協議・確認
  4. CCUSの活用を通じた処遇改善の推進に向けた周知及び啓発
  5. 関係者の取組み状況の情報共有や意見の交換
  6. その他前条の目的を達成するために必要な活動

CCUSは官民連携で推進しており、何よりも技能者の処遇改善にとって不可欠な取組みだ。CCUSの現在の規模は、6月30日末現在での登録数累計が、技能者は146万2,912人、事業者は26万8391社、一人親方を除き17万7515社と年々拡大し、さらによりよい制度へと進化している。今回の協議会の内容をもとにCCUSの今後を展望する。

“登録”から”メリット拡大”、そして”定着と発展”へ

出典:国土交通省

6月の協議会の会合では、まず重点課題が示された。建設業の今後の担い手確保のため、CCUS登録や活用を推進し、技能者の賃金アップや退職金制度の適正な運用を通じて、適正な労務費の確保・行き渡りが、技能者の処遇改善につながる好循環を生み出すし、また安全書類の作成の効率化を通じた働き方改革推進のため、CCUSと労務安全システムとの連携強化を図る必要があるとした。

さらに、一人親方が安心して働ける環境整備のために、適切な契約形態かどうかを判断する働き方自己診断チェックリストの活用を促進し、「適切でない一人親方」の目安について、より精緻な基準を設ける必要があるとした。建退共制度については、掛金納付の状況が透明化され、事務作業の負担を軽減できる電子申請方式やCCUS連携の利用促進を図り、証紙貼付方式は適正な掛金納付を確保する必要があるとした。

そこで協議会の取組み内容を次の4点に集約した。①CCUSの推進、②建設業の一人親方対策の推進、③建退共・CCUS連携の利用促進、④賃上げの推進・適切な賃金や法定福利費の確保・行き渡りだ。

3年間で「定着発展」のフェーズへ

2019年から運営を開始したCCUSは5年目に入っており、土台になる技能者や事業者の取組みが進展している。

まず1年目は「登録拡大フェーズ」と位置づけ、CCUSの土台になる技能者・事業者登録を拡大する。2年目は「メリット拡大フェーズ」と位置づけ、改正建設業法と一体となった処遇改善・業務効率化を拡大する。3年目は「定着発展フェーズ」と位置づけ、処遇確保や業務効率化の浸透や定着する。

CCUS利用拡大に向けた3か年計画 / 国土交通省

具体的な取組みについては、「経験・技能に応じた処遇改善」では、「労務費の基準」に適合した労務費の確保・行き渡りと一体とし、CCUS技能レベルに応じた手当・賃金制度の普及拡大を行う。2025年度から改正建設業法に基づき、「労務費の基準」を踏まえた労務費を下請業者まで行き渡らせ、その上で下請業者には、CCUSの技能レベルに応じた賃金(レベル別年収)の支払徹底を求める。そして、これらが実効性あるよう「建設Gメン」が監視する。

また、2024年度からCCUSレベルに応じた賃金・手当支払いなどを行う「技能者を大切にする適正企業」の自主的宣言制度を創設、宣言した企業を国土交通省HPに掲載。2025年度からは表彰・経審での加点などのインセンティブ導入や推進目標の設定なども検討し、より高い水準の取組みの企業の認証制度を構築する。

CCUS利用拡大に向けた3か年計画のロードマップ  / 国土交通省

「CCUSを活用した事務作業の効率化・省力化」では、2024年度からCCUS登録情報を労務安全システム側で利用可能とし、データ入力作業や安全書類(各種帳票等)の作成を効率化。2024~2025年度には技能者を雇用する下請業者がCCUSに集約された入退場データを活用して技能者ごとの出面管理ができるよう、労務安全システムとの連携を推進する。そこで業界団体から事務作業の課題を聴取し、さらなる効率化のための取組みを検討・実施していく。

また、2024年度からは技能者向けのスマホアプリ開発により、就業履歴、資格、建退共掛金の積立状況を手元で確認できるよう対応し、2025年度からはCCUSに資格者証情報を登録した技能者が、紙の資格者証の携行が不要となるようスマホアプリ上での確認を推進する。さらに2025年度にはCCUSから直接、建退共への電子申請を可能とすることで、元請・下請の建退共事務を簡素化する。

地方自治体へ働きかけ強化へ

また、「就業履歴の蓄積と能力評価の拡大」では、技能者・事業者の登録拡大や就業履歴の蓄積促進策とともに能力評価の対象分野など技能者レベルの判定の促進策を強化する。カードリーダーの無償貸与、就業履歴蓄積環境の整備に対する経審加点の支援の継続について、建設業者団体と連携し、安価なカードリーダーや電話発信、iPhoneのカードリーダー機能での就業履歴登録、小規模現場向けの就業履歴蓄積方法の周知を行う。受注者のCCUS登録や就業履歴の蓄積を促す取組みが拡大するよう、地方自治体に働きかけるとともに、取組み状況を「見える化」する。

iPhoneでカンタンに就業履歴の蓄積ができるように / 建設業振興基金

都道府県のCCUSのモデル工事の実施状況(2024年4月時点) / 建設業振興基金

今後3年間で、原則すべての技能者が能力評価基準の対象となるよう取り組むとし、専門工事業団体が行う基準案の策定を調査検討費の助成などで支援する。工事の繁閑がある場合でも技能者の稼働率を維持可能とし、人材不足にも対応できるよう、「多能工」に係る評価基準を作成する場合の統一ルールも策定。各専門工事業団体のニーズに応じ、「多能工」に係る能力評価の基準づくりを支援する。

各専門工事業の実態に応じてより的確に能力評価を行うことを可能とするため、現行の4段階評価の細分化や製造・加工現場で従事する技能者の扱いを検討し、ガイドラインを見直すほか、住宅建築分野での能力評価基準を策定する。また、2025年度には技能者自身が所属会社に頼らずに資格情報の更新や能力評価の申請などを行えるアプリも開発する。

目玉は『「技能者を大切にする適正企業」の自主宣言」』

これまでCCUSにかかわる施策を多く紹介してきたが、より深く紹介したい内容がある。

それがCCUSを活用した『「技能者を大切にする適正企業」の自主宣言(仮称)」』への取組みだ。これは発注者や元請、下請を含めて「技能者を大切にする適正企業」の評価を向上し、サプライチェーン全体での建設技能者の処遇改善に向けた取組みだ。適正企業のイメージは、下請であれば、技能レベルに応じた手当や賃金支払い、月給制、週休2日制、元請・発注者であれば、一人親方を含め適正な工期、労務費での取引き、共通項としては宣言企業との取引優先、CCUSの利用環境の整備が挙げられる。

この自主宣言制度は、発注者、元請、下請の区分ごとに、CCUSを活用した技能者の処遇改善のための取組みを行うことを宣言することを指し、宣言企業は、ロゴマークを使用可能とし、企業の一覧を国土交通省のHP上に掲載する。

今後、宣言企業に対しては、表彰、経審での加点、求人、求職情報サイトでの発信、ESG評価への組み込みなどインセンティブを早ければ2024年度から実施、2025年度には水準の高い企業の第三者認証、インセンティブを強化する。

協議会に参加していた、学識者、建設業団体、建設業関連団体、発注者団体、行政機関は3か年計画案におおむね賛同を得ていたため、今回、計画案が正式な計画として動き出すことになり、これを軸にCCUSが進展していく。最終的にはあらゆる現場・職種でCCUSと能力評価を実施し、技能者や建設企業が実感できるCCUSのメリットを拡充していく。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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