印象に残っているHさん
これまで何度も新規入場者教育をしてきたが、今でも印象に残っている人がいる。
1対1で新規入場者教育をしたHさんだ。
これは数年前、安全専任の仕事をしていた時の話である。
Hさんは33歳(当時)。個人調査書を見ると、これから携わる電気計装関係の仕事はまだ半年ほどの経験しかない。33歳ならば、全く知識がなくとも、本人の努力次第でまだまだこれから十分追いつける年齢だ。
「最初の1か月は、全てが新しいことばかりでやや辛いかもしれないが、基本を覚え、応用を考え、資格を取得し、その道で食っていけるようになるまで頑張って欲しい!」と伝え、新規入場者教育を終えた。
Hさんのことが妙に気になった私は、休憩時や昼食時に「どうですか?」と何度か声を掛けてはみたものの、どうも反応がいまいちで、パッとした返事が返ってこない日々が続いた。
「辞めるって言ってきたよ」
もともと、あまり人と話すことが好きではないと聞いていたので、それ以上はなにも言わなかったが、周囲の人たちと世間話をしている様子もない。
作業の様子を見に行った時には、当然まだ単なる手伝いで、モノを運んだり簡単な仕事をやらされていた。
Hさんがペアを組んでいた相手は、その道のベテランだった。
どちらかと言えばぶっきらぼうなタイプで、悪意はないのだが口が悪い。でも、それはどんな仕事でもよくあることで、皆が皆、親切に手取り足取り教えてくれるわけではない。それくらいのことで嫌になっていたのでは、どんな仕事に就いても上手くいかないし、長く続かない。
とはいえ、職長が人の組み合わせを一応考えるそうだが、「その組み合わせはちょっとなぁ…」と私は首をひねって見ていた。
それでもHさんはなんとかやっていたようだが、10日ほど経ったある日、職長から連絡がきた。
「Hさんがもう辞めるって言ってきたよ」
そんなことを言われても、そこから私がどうこうできるハズもない。
本人は「この仕事は自分には向いていない」と職長に色々話したらしいが、恐らく本当の理由はもうちょっと別のところにあると感じていた。
だが、本人が辞める!と言ってしまった以上、どうしようもない。Hさんに対して、何もしてあげられなかったのが残念でならなかった。
仕事の向き不向き
どんな仕事でも最低1~2年はやらないと、その仕事の良いところも悪いところも見えてこないだろう。ましてや、自分に向いているか向いていないかなどは、そう簡単には分からないと思う。ほとんどの人がそうじゃないだろうか?
私もそうだ。中学・高校で「あなたは理科系ですね」と言われ、じゃあ先々選ぶとしたら、建築・土木・機械・電気かな?と考え、何かモノを造る仕事のほうがいいなぁと思い、建築を選んだに過ぎない。
なにがなんでも建築!と思ったわけでもないが、それでもなんとなく建築を選んだのは、数字だけで全てが決まる世界ではなく、理屈じゃ割り切れないモノを扱う世界、という認識がおぼろげにあったからかも知れない。
私は最初から施工畑にいたわけでなく、最初の出発は設計事務所だった。最初に関わったのが小さな木造の住宅だったのが幸いした。
例え、どんなに小さくとも、特定の誰かのための家の設計は、大部分が理屈では割り切れない要素で成り立っている。人と接しながら設計を創り上げていく作業は実に楽しかった。最初の4~5年は、寝食を忘れて設計の仕事に打ち込んだ。
だが、徐々にこう考えるようになった。
“設計の仕事で図面を描いているが、施工する会社によって図面を読み取る能力は違う。そのための現場管理だが、例え木造と言えども、設計図に基づく施工図がないと、施工者は設計の意図を汲み取った施工ができない。さらに、施工者側の気持ちを把握したうえでの図面でなければ単なる設計者の独りよがりになってしまい、施工者を上手く動かすことさえできない”と。
そう考えた私は、施工の世界に足を踏み入れ、今に至るというわけだ。たまたまだったが、順番としては極めて正解だったと思っているし、面白い!と感じてやってきたのは事実だ。
だが、今でも建築の仕事が天職などとは思っていない。どちらかと言えば、向いているとは感じているが、もっと向いている職業がありそうだなと常々思っている。
仕事の向き不向きを判断する前に、まずは精一杯やってみることが大切ではないだろうか。
もう限界だ!と思えるところまでやってみると、別のモノが見えてくる。そして、この経験は必ず後々活きてくるだろう。
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