「Takamiya Lab. West」の鳥瞰写真

「Takamiya Lab. West」の鳥瞰写真

足場業界は「持たざる経営」へ。タカミヤが仕掛ける”プラットフォーム構想”の拠点「Takamiya Lab.」とは?

前回、株式会社タカミヤ取締役常務執行役員経営戦略本部長の安田秀樹氏は、次世代足場の優位性、現在も普及が進んでいる実情と、新たな戦略として、「タカミヤプラットフォーム」を解説した。

※前回記事:「足場業界のAmazonになる」 業界の常識を打ち砕くタカミヤの”仮設機材の総合プラットフォーム構想”

「タカミヤプラットフォーム」の「OPE-MANE(オペマネ)」サービスの概要を読み込んでいくと、今後、レンタル会社は足場の在庫を持つ必要がなくなり、面倒な手間も必要なくなる。タカミヤの機材Base(機材センター)に保管、管理、品質担保をすべて委託できるようになれば、業界は一変することになる。

足場鳶工事業者やレンタル会社の機材センターの取材経験は幾度となくあるが、いずれも土地が広く、しっかりと足場機材を担保するために人員は必要との印象を受けた。足場は職人の安全を担保する視点から見ても重要でおろそかにできない。だからこそ保管、品質担保などの業務には一定の費用がかかり、経営的に安全を担保しつつもスリム化の実行は、足場業界の大きなテーマであった。

この一連の作業を「タカミヤ」にすべて委託できるとなると、極端な話、在庫管理が一切不要になる。そこで足場鳶工事業者は、営業と職人の確保に注力でき、レンタル会社は営業に専念できる。また、足場業界の周辺領域の業界、たとえば建材流通店は、ゼネコンとのパイプも深いため、従来の建材販売とともに足場レンタルを行うこともありうる。さらにゼネコンは、もとより足場を自社で保有せず、レンタル会社からレンタルしてきたが、「タカミヤプラットフォーム」に参加することで現場での搬入もスムーズに進むことも考えられる。そうなると、「持つ経営」が主流であった足場業界は「持たざる経営」へと変革する可能性がある。

さらに安田氏の解説は、プラットフォーム事業の象徴となる「Takamiya Lab. West」や2024年9月にグラウンドオープンした、プラットフォーム事業の象徴となる「Takamiya Lab. West」へ。その新施設である「Innovation Hub」の完成をもって、「Takamiya Lab. West」が2024年9月に正式にグランドオープンを迎えたことが述べられた。

プラットフォームの象徴的な施設「Takamiya Lab. West」

――「Takamiya Lab. West」はどのような施設でしょうか。

安田氏 「Takamiya Lab. West」は施設の総称で、当社のビジネスモデルをトランスフォームした内容を顧客にご理解をいただく場です。タカミヤが足場のレンタル会社から足場のプラットフォーム企業へと変わった点について様々な角度から説明するために、プラットフォーム事業の象徴となるよう建設しました。同施設の一部に、2024年9月に「Innovation Hub」を新設し、建設業界が抱える課題解決のためのソリューションを研究・開発するための新拠点として、グランドオープンしました。研究開発施設とプラットフォーマーが利便性を感じられる施設となっています。

この「Takamiya Lab. West」、そして今後、群馬県藤岡市に建設予定の「Takamiya Lab. East」を中心に、周辺の機材Baseの役割をブラッシュアップし、プラットフォームユーザーの利便性を高めていくつもりです。

「Takamiya Lab. West」事務所棟

――「Innovation Hub」ではどのような役割を担うのでしょうか。

安田氏 「Innovation Hub」には、「安全・施工」「技術・設計」「管理・物流」「開発・製造」の各エリアがあります。タカミヤプラットフォームでは、元からあった機能をDXでブラッシュアップし展開していますが、これらを具体的に体感できる場所になっています。各エリアでそれぞれの取組み内容について展示物などを使って、お客さまに分かりやすく解説しています。

「Innovation Hub」の外観

――「Innovation Hub」では具体的にはどのような研究を進められていますか。

安田氏 「安全・施工」では足場から人が墜落・転落した際の数値の可視化を、「管理・物流」ではAIの活用で配車を自動で実施する仕組みや6トントラック1台での積載の可否を判断する自動積載シミュレーションなどを開発しています。

「Innovation Hub」の入口であり、建設課題のソリューションを紹介するための窓口となるエリア

また、仮設にはチェーンを使いますが、その亀裂や劣化は現在、人が目視で確認しています。橋梁の吊り足場はチェーンで吊っていますが、亀裂が入り、吊り足場全体が崩落してしまったら大事故になります。何百本・何千本とレンタル出荷し、戻ってきたら目視で確認する作業は大変な労力です。それをAIカメラでチェーンを通すことで、亀裂や劣化のチェックできるシステムも開発中です。

足場業界内で先手を打ち足場安全を科学的に研究

タカミヤの「Iqシステム」は徹底して隙間を防いでいるため、人の墜落・転落、物の飛来・落下を防ぎ、足場に起因する労働災害撲滅を実現する足場といえる

「技術・設計」では、BIM/CIMの取組みを紹介しています。「Takamiayaコマンド」では、BIM/CIMモデルから数量を算出し、CSV形式でデータを出力できます。図面よっては手作業でおこなっていた積算業務を最大9割削減することが可能です。

足場業界のタブー。経年劣化した足場を年代別に可視化

安田氏 「開発・製造」では、大型試験機を設置しています。これは足場の経年劣化や強度について足場を曲げて試験する試験機で、国内中でも設置している所は稀です。新品の製品は仮設工業会の認定品で決められていますが、5年や10年、場合によっては20年以上使用されている経年機材もあります。しかし、その強度は誰も分かりません。こうした経年機材が本当に安全かどうか分からない状態で使用されているのが足場業界の実情です。

“安全の可視化”を通して、安全な仮設機材を提供するために実証実験を行うエリアである試験室

それを我々はあえて年代別に、試験機にかけてデータ化・可視化しています。そして、ストックは当社のルールに基づいて処分し、新しい機材に入れ替えて安全を担保していきます。これらのデータは世の中に開示していくつもりです。このアクションにより足場に起因する事故撲滅につなげていきたいですし、今まで足場業界が曖昧にしてきたところを公開することで業界全体の質を向上したい。ある種、これは足場業界にとってタブーかもしれませんが、プラットフォームに入っていただくお客さまの信頼を勝ち取るためにも必要な取組みだと考えています。

――「Innovation Hub」の反響はいかがでしたか。

安田氏 実は、営業スタッフが各企業にプラットフォームへの参加を呼び掛けていた中で、お客さまの反応としては「プラットフォームの全体構想が、今一つわからない」というものでした。ところがこの9月の「Innovation Hub」の開設で、ゼネコン各社含めて約150名のお客さまを迎えてすべて説明したところ、「タカミヤがやりたいことはよくわかったから賛同したい」と風向きが変わってきています。

――「Takamiya Lab. West」に続いて、「Takamiya Lab. East」の土地を群馬県藤岡市に取得されていますが、今後の展開は。

安田氏 タカミヤの群馬工場は桐生市にあり、藤岡市と近接しているため、「製造」「機材Base」、そしてBaseの機能を高めるための機械化・自動化の拠点を当社内ではじめて設置する意向です。製造は日々、改善活動を実施していますが、機材Baseの生産性向上は進展していません。そこで機材Baseに製造工場の考え方を移植するつもりです。2026年度中にオープン予定の「Takamiya Lab. East」ではこの点の研究開発も進め、機能をブラッシュアップし、プラットフォームユーザーの利便性を高めていきます。

これだけBaseが機械化され、入出庫もスムーズで品質も担保されるのであれば安心してプラットフォームに足場機材を預けられると考えていただけると思います。安全管理についても、「Takamiya Lab. East」でも引き続き充実を図り、ゼネコン各社の新入社員教育や足場安全講習を実施できるような施設としていきます。

プラットフォームへの参画企業を500社へ

デジタル人材の底上げを図りたいと語る安田氏

――話は変わりますが、御社のプラットフォーム構想を実現するにあたっては、デジタル人材の獲得は重要なテーマだと考えます。

安田氏 この点は社内でも課題の一つで、早急な育成は難しいものがあります。情報システムの部門では専門人材を雇用していますが、当社のテーマとしては全体のITリテラシーの向上を掲げています。髙宮一雅社長からは、「デジタルネイティブ世代を活用すべき」との指示があります。彼らは生活の中で常にデジタルに慣れ、無駄を嫌い、効率化重視の世代です。「だからこそ、彼らから学ぶことは重要である」とも髙宮社長は話しており、今回のプラットフォーム事業や「Innovation Hub」のオープニングセレモニー関するプロジェクトについても、なるべく若手の声を拾い上げ、今回のオープニングイベントではほぼ若手中心で実行し、成功を収めました。

また、当社では通常賞与とは別にインセンティブ賞与がありますが、インセンティブの中にはDXやデジタル化の取組み項目があり、そこに原資をつけています。KPIを設定し、達成した社員に対しては別枠でインセンティブとして支給しています。数年実施してきましたが、このインセンティブにより社員のDXやデジタルへの取組みは、ようやく定着してきているように感じています。教育だけでは底上げは難しいため、社員一人ひとりが同じ方向に関心を持てるような仕掛けづくりが必要です。

――これからDX企業など様々な会社との協業・連携の局面も出てくると思いますが。

安田氏 これからプラットフォームの拡大に伴い、「付加価値の向上」が重要なテーマです。たとえば、アプリケーションの開発、機材Baseの機能を高める倉庫の自動化・機械化、ロボティクス、IoTの分野での課題解決は当社単独では難しい。ベンチャー企業も含めて、今申し上げた分野に明るい企業との協業連携に踏み込みたいと考えています。

――建設業界の2024年問題についてどうとらえていますか?

安田氏 労働者不足などの要因により、当社としては従来通りのサービスを提供できなくなるリスクを感じ取っていました。そこでプラットフォームの提唱や「Innovation Hub」を開設した経緯があります。

2024年度から時間外労働の制限が法律で定まっていますが、足場業界のみならず建設業界全体で働き方改革を推進すると、業界全体のリソースが不足、工事の遅延、長期化が発生します。今、ゼネコンの中には自分たちのリソースの範囲内でしか工事を請け負うしか方法がないとの声もあります。一方、利益率の向上も念頭に置いているため、選別受注を余儀なくされています。

また、物流業界、機材センターで働く職人、足場鳶職人の方々が高齢化し、若手が建設業界に入職しなくなってきているため、そこで自動化・機械化を進めていかないと、サービスを提供できなくなる時代が到来すると思います。

だからこそ、「Innovation Hub」で研究開発した内容は市場にどんどん出していきたいと考えています。ここで研究している内容は、いずれも足場や建設業界の課題をどう解決していくかにつながるものです。今は具体的に申し上げられませんが、業界を一変させる内容のものもあります。このあたりは発表できる段階になりました逐次公表予定です。研究施設ですから、研究開発は毎年実施し、展開していきます。

――髙宮社長は「未来に足場はない」という刺激的なメッセージも出しています。最後に、タカミヤの未来についてお話ください。

安田氏 プラットフォームについては「Takamiya Lab. West」の新施設「Innovation Hub」が完成したことで、業界でも理解が進み、浸透していっていると感じます。プラットフォームのユーザー数も、現在の50~60社から10倍にしていくという挑戦的な目標を掲げていますが、当社は可能だと考えています。一定数まで増えると、加速度的に入会が進展していくでしょう。もし500社の登録が実現した場合、機材Baseの役割が重要になりますが、まだ十分に整備されていませんので、この2年間でしっかりと準備していくつもりです。

Takamiya Platform VP / YouTube(TAKAMIYA)

プラットフォームの拡大により、足場の販売・レンタルの業態についてはなくなっていく可能性があります。今も足場をレンタルするほうが購入するよりも効率的です。ただし、レンタルするよりも「タカミヤプラットフォーム」に入っていただいたほうがメリットがあると思っていただけるような仕組みを必ずやつくっていきます。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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