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丸投げと事故隠しの2つの違法行為。職人を救うために労基署が使った”日本初の裏技”

違法行為その1:上請(うわうけ)丸投げ隠し

型枠大工の男性Dさん(57歳)が窮地に陥った事の起こりは、中堅建設会社A建設が住宅・都市整備公団から工事を受注したことでした。

受注後、A建設は自社より大手企業のゼネコンBに施工管理一式を発注しました。A建設よりゼネコンBのほうが企業規模が大きいため、これを下請ではなく「上請(うわうけ)」と呼んでいました。

その後、A建設はこの現場に関わらなかったようです。自社より規模の大きいゼネコンBに任せっきりになっていました。建設業法第22条で禁止されている「一括下請負」、いわゆる「丸投げ」になっていました。これが第一の違法行為です。

違法行為その2:事故隠し

この公団住宅建築現場で事故が起きました。ゼネコンBの下請業者C工業に雇用された型枠大工の男性Dさんが右足に大けがをしたのです。

そして第二の違法行為が発生します。ゼネコンBの現場所長と下請業者C工業らは共謀し、型枠大工Dさんに労災保険を使わせず、Dさんが加入していた国民健康保険で治療させました。調査が入れば、A建設が現場に関わっておらず丸投げが発覚すると考えたのが動機だったようです。

ゼネコンBとC工業は型枠大工Dさんに治療費などの名目で計約100万円を渡しました。しかし、休業はその後、5カ月間にも及びました。

休業が5カ月間に及び、本来ならば労災保険から支給される休業補償の受給もなく、このままでは傷病補償年金に移行することもできません。Dさんの不安はつのりました。休業はこの先まだいつまで続くかわかりません。

Dさんはたまらなくなって、東京都のX労基署に相談しました。そのことで事故隠しが発覚しました。

日本初の「特定元方事業開始報告違反」

これまでの事件の構成要素は以下です。

  • A建設がゼネコンBに丸投げした → 一括下請負の禁止
  • ゼネコンBはA建設から丸投げを受けた → 一括下請負の禁止
  • ゼネコンBとC工業が労災を隠した → 労働安全衛生法違反(事故隠し)

一括下請負の禁止を問うのならば、A建設とゼネコンBを調査するはずです。しかし、X労基署は戦略としてまず「特定元方事業開始報告違反」としてゼネコンBを東京地検に書類送検しました。同法での書類送検は日本では初めての事例でした。

ではなぜ、この裏技(?)のようなアイテムを使ったのでしょうか?

型枠大工Dさんの”労災認定”を優先?

X労働基準監督署が「特定元方事業開始報告違反」を使用した理由は、推測ですが、型枠大工Dさんの救済を急いだためではないでしょうか。事故から5カ月もたっており、切羽詰まって相談に来たDさんの労災を認定して休業補償を得る必要があったのでしょう。まず、事故隠しを迅速に処理する必要があると判断したと思われます。

そこで、X労働基準監督署はA建設から提出されていた「特定元方事業開始報告」は実態と合わないので無効とみなし、実質的に工事を請け負っているゼネコンBを「特定元方事業開始報告違反」として東京地検に書類送検しました。同法違反について問えば、労働基準監督官による立ち入り検査が可能になります。

そして次に、ゼネコンBと同社専務取締役、下請け業者C工業らを労働安全衛生法違反(事故隠し)で書類送検しました。こうして、A建設とゼネコンBの丸投げを調査する時間を省き、迅速にDさんの労災を認定したのだと思われます。

ちなみに、特定元方事業開始報告とは、『実質的に工事を担う』建設会社が労基署に届け出なければならない制度です。このケースではゼネコンBが提出するべき報告書です。

建設業・造船業では同じ場所で多数の企業の社員や関係請負人が混在して作業をするケースが多いため、特定元方事業者は事業開始報告を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります。次のような事項を記載します。

  • 常時使用労働者数(元方事業者の労働者数と関係請負人の労働者数の合計)
  • 統括安全衛生責任者または元方安全衛生管理者の選任状況
  • 工事の概要(建築面積や建屋の高さなど)

A建設については、この後の処分となりました。A建設がゼネコンBに丸投げしたことが事故隠しにつながったとして、X労働基準監督署はA建設について調査に入りました。

職人であるDさんへの温情とは違って、こちらは異例の刑事責任追及に乗り出したということでした。

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