KK線(写真:東京高速道路提供)

KK線(写真:東京高速道路提供)

東京高速道路(KK線)はどのような公共的空間に生まれ変わるのか

東京高速道路株式会社(会社所在地・東京都中央区銀座一丁目3番先)は、れっきとした民間企業でありながら、首都圏の都市高速道路の一部を構成するKK線を建設運営する珍しい会社だ。

意外にも、KK線の歴史は首都高速道路よりも長い。もっと驚くべきは、KK線の通行料が無料なことだ。同社は、KK線下部にある空間を賃貸スペースとして貸し出しており、そのテナント収入で建設費の回収と道路メンテナンスなどの費用を賄っているので、無料が実現できるわけだ。

そんなKK線にも終わりのときが来た。首都高日本橋区間の地下化に伴い、KK線と首都高八重洲線の接続が切れることが決まったことを受け、KK線の土地所有者である東京都が道路から歩行者中心の公共的空間への転換方針を打ち出したからだ。

東京高速道路株式会社は現在、東京都などと連携しながら、KK線再生プロジェクトの事業主体として、新たな公共的空間のコンセプトづくりなどを進めている。その議論の場として、共創プラットフォームを設置。アーティスト、クリエイターとして知られる齋藤精一さんをコンダクター(指揮者)として招き、多領域の専門家とともに、プロジェクトの構想を練り上げている最中だ。

今回、東京高速道路株式会社でKK線再生プロジェクトを手掛ける、常務取締役プロジェクト推進室長である花木万里子さんにお話を伺う機会を得た。

KK線はどのような公共的空間に生まれ変わるのか。KK線の歩みを振り返っていただきつつ、その動向に迫った。

KK線は大型車両が通行できない

花木 万里子さん 東京高速道路株式会社 常務取締役プロジェクト推進室長

――KK線再生プロジェクトに至った経緯を教えてください。

花木さん KK線再生プロジェクトの発端は、首都高日本橋区間の地下化でした。われわれ東京高速道路が運営するKK線は、首都高と3箇所でつながっていますが、その一つが八重洲線です。

日本橋区間地下化に伴う都心環状線のルートや八重洲線の見直しにあたり、国土交通省が「首都高都心環状線の交通機能確保に関する検討会」を設置しました。この検討会メンバーには、弊社も入っていました。

その検討会では、八重洲線からKK線に接続するルートにおける大型車両の交通確保について議論されました。と言うのも、弊社の道路は、8トン以上の大型車両は通行できない道路なのです。一般車両は通行できるので、首都高のバイパス機能を担う道路ではあるのですが、地下化に伴う再編成を検討する中で、KK線を大型車両が通行できる道路に改修できるのかというのが、大きなポイントになりました。

検討の結果、八重洲線の見直しにより、KK線との接続が困難なことに加え、KK線の改修自体も困難ということで、新京橋連結路という新しい道路、八重洲線との接続線をつくる方針が決まりました。

KK線は、現在、1日2万2000台ほどの通行車両がありますが、八重洲線との接続が切れると、KK線の通行車両は大幅に減少することが見込まれるため、KK線の有効活用策を別途検討するという方針が示されました。

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東京都主導で道路から歩行者空間への転換が決まる

KK線(写真:東京高速道路提供)

花木さん この検討会の方針決定を受けて、東京都が「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会」を立ち上げて、学識経験者及び行政関係者による議論が行われ、KK線を道路から歩行者中心の公共的空間にするのが良いという提言が出されました。

この提言をもとに、東京都が検討を重ね、「東京高速道路(KK線)再生方針」をまとめました。これにより、東京都の方針として、KK線を歩行者中心の公共的空間にしていくことが決まりました。その後、「東京高速道路(KK線)再生の事業化に向けた方針」の中で、KK線を所有する東京高速道路が整備主体となり、かつ今後の管理運営主体となることが定められました。

――KK線再生プロジェクトは東京都主導で決まったということでよろしいですか?

花木さん プロジェクト全体の方針、都市計画決定といったことは、東京都さん主導で決まりました。われわれは事業者として、その方針に従って、主体となってプロジェクトを進めています。

再生プロジェクトは「第2の創業」

プロジェクトイメージ(イラスト:イスナデザイン、東京高速道路提供) ※注記:この図はKK線再生に向けた検討内容をイメージ化したものです。

――プロジェクトの進捗はいかがですか?

花木さん 今は計画段階で、具体的な内容はまだ決まっていません。基本的には、既存施設を活かす、リノベーションして新しい価値をつくるプロジェクトなので、建物全体を新しくするわけではありません。また、新しい価値をつくるという点では、弊社の歴史にも関係してくるところがあります。

弊社が設立された70数年前は、戦後復興の混乱期で、住宅難、食糧難の時代でした。その一方で、モータリゼーションが到来しつつあった時代でもありました。

そんな状況の中で、戦後、「日本が経済成長を遂げていくためには道路網の整備が不可欠である」と考えた財界人23名が発起人となって会社を設立し、自動車専用の道路を建設したというのが、弊社の歴史であり、KK線の歴史です。

KK線が建設された場所は、もともと外堀、京橋川、汐留川といった河川でしたが、道路を建設する際に東京都が河川を埋め立て、弊社がその土地をお借りしてKK線を建設しました。

KK線は、民間活力による公共事業、いわばPFIの先駆けと言えると思います。今回の再生プロジェクトも、KK線をリノベーションして、新しい公共的空間をつくっていくことになるので、弊社では、このプロジェクトを「第2の創業」として位置付け、公民連携プロジェクトとして、全社一丸となって取り組んでいます。

単に収益を目的として実施する事業ではない

花木さん 民間企業が公共的な事業を担うという点では、弊社の創業の精神とか、使命や役割といったものを、変わらず継承しながら、取り組めるプロジェクトだと思っています。

KK線はわずか延長約2kmの道路ですが、沿道には、京橋、銀座、有楽町、新橋といった歴史的価値と魅力あるまちが広がっています。今回の再生プロジェクトでは、KK線の上部空間だけでなく、周りのまちも含めて、みなさんと一緒に新しい価値をつくっていくことが重要だと考えています。

――いわゆるエリアマネジメント的なこともやっていこうということですか?

花木さん KK線プロジェクトは、いわゆる地権者を中心としたエリアマネジメント的な仕組みとは少し異なるものになるかもしれませんが、プロジェクトにふさわしい新しい仕組みについても、考えていきたいと思っています。

区間ごとの段階的な供用開始も視野に入れる

――プロジェクトのスケジュールはどうなっていますか?

花木さん KK線は2025年4月に通行止めになる予定ですが、今はクルマが通行しているので、KK線整備に向けた様々な調査や実験というものが、まだ十分にできていない状態です。当面の間は、技術的なことも含めた調査実験や利活用に関する実証実験などを実施していく予定です。いろいろなデータが整ってきた段階で、整備に着手したいと考えています。

東京都の方針では、2030〜2040年代ごろに全線供用開始ということになっていますが、われわれとしては、一部区間であっても、完成した区間から段階的に供用開始していくことも視野に入れています。

どういう空間が魅力的なのか、しっかり実証を重ねていく

歩行者空間の体験イベント「GINZA SKY WALK 2024」開催時の様子(写真:東京高速道路提供)

――2023年、2024年にも実証実験的なイベントを実施したようですが、成果や反応などをどう評価していますか?

花木さん 2023年のイベントは東京都主催で、弊社は「協力」という立場でした。東京都さんには、KK線が道路から公共的空間に変わるということを、都民に広く認知してもらいたいというお考えがあり、KK線を通行止めにして、実際に歩いてもらって、こういう場所があるということをアピールするイベントを実施したということです。

2024年のイベントは、東京都と弊社の「共催」として1万5000人の参加者を募り、3日間実施しました。KK線を広く知ってもらうという目的はまったく同じです。

KK線には幅員が狭い場所と広い場所がありますが、道路の幅員が広い箇所については、歩行者の滞留空間として活用することを考えています。2024年のイベントでは、こういった箇所にいろいろなコンテンツ、プログラムを設定して、参加者に体験していただき、活用状況やニーズなどを検証しました。

沿線地域との連携というところは、まだ十分には実証できていませんが、KK線周辺のみなさまや参加者の方々からは、夢のあるプロジェクトだとか、高い場所から見渡すとふだんと違った景色を楽しめたとか、おおむね好評価をいただきました。

ただ、「道路を通行止めにして歩くイベント自体が珍しい」ということもあっての好評価です。これからは、どういう空間が魅力的なのかというところをしっかり実証を重ねていくフェーズに入っていくことになります。われわれとしては、引き続きみなさんのご意見を伺う機会も設けながら、進めていきたいと考えています。

歩行者空間の体験イベント「GINZA SKY WALK 2024」開催時の様子(写真:東京高速道路提供)

新しい公民連携のカタチへのチャレンジでもある

――どういう公共的空間をつくるかを決める主体は東京高速道路だけど、東京都もある程度意見を言うという感じですか?

花木さん 東京都さんは監督行政というだけでなく、土地所有者でもありますので、引き続き関わっていかれることになります。

これまでの民間の開発プロジェクトは、都市計画決定されると、その後は、行政の手を離れて、民間にお任せというカタチでしたが、今回のプロジェクトに関しては、都市計画決定後も、東京都さんが行政としてまちづくりに関わっていくという思いを持って取り組んでおられます。

そういう意味でも、新しい公民連携のカタチへのチャレンジになっていくと期待しているところです。

プロジェクトの中身については、検討の段階から専門家や地域の方々などにご参加いただいて、議論や意見交換しながら、検討していくことにしています。工事が始まったら、仮囲いがされて、完成するまで中身がわからないということではなく、プロセスからみなさんに関わっていただき、それを楽しんでいただきながら、つくっていきたいと思っています。

――プロセスを隠すのではなく、オープンにして、みんなでつくりあげるプロジェクトということですか?

花木さん そうですね。われわれだけでつくって、「はい、みなさんどうぞ」ではなくて、プロセスにおいても、みなさんになんらかのカタチで関わっていただけるプロジェクトを目指しています。

誰かに頼るのではなく、みんなで決める

共創プラットフォーム会合の様子(写真:東京高速道路提供)

――プロジェクトを進めるための体制づくりはどうなっていますか?

花木さん 社内的には、プロジェクト推進室を立ち上げ、ここが中心となって、東京都やコンサルタントなど関係者と連携しながら、進めていく体制になっています。現在、推進室専任のメンバーは5名で、土木や建築といった技術系のメンバーも含まれます。全社的なプロジェクトなので、必要に応じて、社内の他部署のメンバーも加わります。いずれプロジェクトが本格化すれば、専任社員はもっと増えると思いますが。

その上で、「共創プラットフォーム」を立ち上げています。共創プラットフォームでは、主にプロジェクトのコンセプトやデザインなどを検討します。たとえば、一人の専門家に頼って物事を決めるのではなくて、いろいろな分野の方に参加してもらって、いろいろな観点からアイデアを出し合い、意見交換しながら、物事を決めていくのがねらいです。

このプラットフォームですが、2024年5月に齋藤精一さんにコンダクターに就任していただきました。現在は、建築家、コピーライター、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナーの方々が中心となっていろいろ議論していただいています。また、2024年11月には、プラットフォームのメンバーの方々と地元の方々との意見交換も行いました。

共創プラットフォームでの議論の様子(中央に齋藤精一コンダクター、写真:東京高速道路提供)

新たなスキームを考えたい

――プロジェクトを円滑に進めていく上で、課題などがあれば、教えてください。

花木さん 半世紀以上経っている既存施設を有効活用するということがあります。取り組み自体は素晴らしいことですが、今の法規制などに合わせながら、どうやって保全し、リノベーションしていくかという技術的な難しさ、課題があります。今そのキビしさをヒシヒシと感じているところです。

KK線は、もともと河川だった場所に建設されているので、区境に位置しています。中央区、千代田区、港区の3区にまたがっているため、東京都をはじめ複数の関係行政機関との一つひとつの協議、調整などが必要になり、その分手間もかかります。

このプロジェクトは、あくまで弊社の事業ですので、事業費は弊社が負担することが基本です(一部、周辺まちづくりとの連携も可能)。プロジェクトを進めるにあたっては、経済的に安定した運営スキームをどうつくっていくかという課題があります。これもチャレンジととらえて、新しいスキームを考えていきたいと思っています。

ゴールと計画を立てながら、進んでいく

花木さんとプロジェクト推進室課長の石川弘行さん(右)

花木さん 地域の方々との関係づくりも大切です。われわれだけではなく、まち全体に良い効果が波及するよう、地域のみなさんと丁寧に、真摯に対話していく必要があると考えています。関係者の利害が常に一致するわけではないので、難しい面もあり、時間もかかると思いますが、ここは一つひとつ、実績を積み重ねながら、地道に取り組んでいきたいと思っています。

このプロジェクトは、ゴールに向けてあらかじめ計画を立てて進んでいくというものではなく、ゴールと計画を立てながら進んでいくようなところがあります。われわれとしても、前例のない取組みを模索しながら進めているというのが、正直なところです。

「100年に1度あるかないかの稀有なプロジェクト」

――プラットフォームのメンバーから察するに、全然当たり前じゃない、「ワオッ!」と思わずうなるような、インパクトのあるコンセプトが出てくると思われますが。

花木さん そうでしょうね。プラットフォームのメンバーの方々の中には、「100年に1度あるかないかの稀有なプロジェクト」という方もいらっしゃいます。確かに、都心の真ん中で、これだけの長く広いスペースをデザインし有効利用するという機会は、そうそうないと思います。

【KK線再生プロジェクトHPはコチラ

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