セミナーで講演した、鴨林広軌社長

セミナーで講演した、鴨林広軌社長

【Arent】BIMへの入出力を自動化、AIを掛け合わせてBIMを最大限活用

建設DXを推進する株式会社Arent(鴨林広軌社長)は、2024年12月11日~13日に開催した「JAPAN BUILD-建築の先端技術展-第4回 建設DX展 東京」に出展した。初日に「BIM自動化とAIを活用した建設DX戦略」をテーマにセミナーを開催し、鴨林広軌社長が登壇した。

鴨林社長は、建設業界でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性とその推進方法をBIMの自動化とAI技術を中心に解説。とくにBIM入力と活用自動化に焦点を当て、建設プロセス全体の効率化や業務フローの改善をどのように実現できるかを紹介した。

従来のERP型システムの課題やArentが推奨するDXの基本戦略であるアプリ連携型システム群の構築方法についても説明し、企業が直面するデジタル化の課題を解決するための戦略を提案。さらに、生成AI技術を用いたデータ活用や業務自動化の具体例を提示し、建設業界におけるDX推進の可能性と将来展望を描いた。

今回、同セミナーでは、建設DXは「アプリ連携型」「自動化」がポイントであり、業務視点での最適なシステム群とBIMを統合し、そこから生み出されたデータでのAI活用が肝要と提起したセミナーの内容をまとめた。

生成AIの現在地。活用事例を紹介

鴨林広軌氏は、京都大学理学部数学科を卒業後、三菱UFJアセットマネジメント株式会社、グリー株式会社を経て、2015年に独立。その後、株式会社Arentの代表取締役社長に就任した。先端技術を駆使した開発を強みに、ITエンジニアと経営の両軸の考え方で多数の企業を支援している。

建設DXを中心に業務を進めるArentは、2023年3月に東証グロース市場へ上場。プラント建設業の国内最大手の一つ千代田化工建設株式会社との合弁事業「PlantStream」により、数ヶ月かかるプラント配管の大規模設計をわずか数十秒に圧縮。工期やコストに加えて、人や環境の負担を大幅に軽減した。また、高砂熱学工業株式会社と共同で建設業での一連業務プロセスを統合し、BIMを中核とした9つのSaaS(※)プロダクトが連携するプラットフォーム「PLANETS(プラネッツ)」を開発、運用を一部開始した。

※SaaS…サービス提供事業者側で稼働しているソフトウェアを、インターネットなどのネットワークを経由して、ユーザーが利用できるサービス

講演では、AIの進歩が著しいものの、どう活用してよいか分からないとの現状の声について触れた。帝国データバンクの「生成AI活用状況調査(2024年8月1日)」によると、建設・不動産の分野では、活用は9.4%、検討中が23.4%、予定なしが58.4%で、他業種と比較するとAI活用が進まず、半数以上が活用の予定がないことが分かった。

業種別生成AI活用状況 / 出典:帝国データバンク(作成:Arent)

この結果については「ChatGPTに問いかければそれなりの回答は返ってくるが、これをどう業務に活用すればよいかが分からない」というのが業界の本音のようだ。そこで、Arentは、具体的な活用事例として、子会社の株式会社ArentAIと共同で業務効率化を進める企業向け生成AIプラットフォーム「BizGenie」を開発し、2024年7月に販売を開始した。社内にある図面やPDFなどの膨大な資料の中から手軽に、情報を特定する機能に優れる。建設業界では図面などのデータを探す手間にかなりの工数を使っているが、生成AIの活用で解決する。

「画像認識での検索ニーズは高いため、『BizGenie』にも機能を搭載した。たとえばバルコニーのある図面を探す場合、『BizGenie』を使い、フィットする図面を検索し、複雑な図面でも読み込んでもらえる点に利点がある」(鴨林社長)

企業向け生成AIプラットフォーム「BizGenie」

鴨林社長はDXについても触れた。DXを実現できている企業は、社内システムがアプリ連携型のシステム群で構成されているという。「企業の中にはシステム開発会社に社内システムの開発を委託しているところもあるが、この場合はDXができている状態とは言い難い。理由は、モダンなツール(SaaS)は常にリリースされ続けており、それらから成るアプリ連携型のシステム群を構築することが重要だからだ」と指摘した。

DXを実現するには社内のシステム構造をアプリ連携型へ移行することが重要で、汎用的な業務に関しては市販ツールを活用し、API(※)でシームレスに連携している状態を構築すれば、DXの実現に近づく。

※API…ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェース

建設業界ではBIMと連携したアプリ連携型のシステム群を構築することで、DXを実現できる

そして建設業界も同様にシステム構造ではアプリ連携型を推奨し、BIMと連携した自動化SaaSの開発により、業務全体の効率化ができると鴨林社長は話す。改めてBIMについておさらいすると、従来は施主に3DCADを使い、3Dモデルを作成し確認を取り、造るときは、図面に起こし直し、施工側に引き渡す。見積もりや積算を行う際にも、2次元図面から拾い集計するが、IT業界からすると、同じことを何回も繰り返す姿は異様に映る。これはデータが一括に集まっていないことに起因し、かなりの不便を強いられている。図面のデジタル化にとどまるCADと違い、BIMは図面だけでなくオブジェクトベースの情報も一括管理できるため、BIMはIT業界からすると、あるべき姿といえる。

BIMのポイントは、①各オブジェクトが「素材・価格・寸法」などの属性データを持っている、②設計した建物の「価格」などが瞬時に把握できる、③建物を建てるためのデータベースの3点にある。

これらの特徴から見ても、BIMは導入されるべき論がかねてからあり、実際顧客のプレゼンではBIMを採用してきたが、業務の効率化や業務フローの改善による生産性の向上では思った以上に成果が出ていないのが実情だ。

BIMは顧客のプレゼンには多く活用されているが… / 出典:「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査確定値<詳細>(2023年12月国土交通省調べ)」

BIM入出力の自動化で圧倒的な業務効率化

多くの国内企業がBIM入力を手動で行なっているが、作業は非効率で、活用方法も顧客へのプレゼンテーションに留まっていることが多い点に課題がある。そこでBIM入出力の自動化で圧倒的な業務効率化を実現することが求められているわけだ。もし自動化が実現すれば、設計側、施工・維持管理にしても圧倒的に効率性が増す。

「建設DXを実現するためには、BIMと連携したアプリ連携型のシステム群を構築することが重要だ」(鴨林社長)

BIM入出力の自動化で、圧倒的な業務効率化を実現

具体的な事例では、高砂熱学工業株式会社と共同開発した「PLANETS」を提起した。PLANETSは世界でも類をみないBIMを中核としたプラットフォームで、BIMと連携した9つのSaaS群(設計自動化・見積り支援・見積り原価管理・引合い・施工図自動作成・工程管理・進捗管理・品質管理・運用管理)によって構成されている。

高砂熱学工業株式会社と共同開発した「PLANETS」

PLANETSは、各業務の独立したデータを一元管理することはもちろん、9つのSaaS群をBIMと連携させることで精度の高いデータを蓄積させることができる。

設計から施工、運用管理に至るまでの業務プロセスを、BIMと自動化技術によってデジタル化し、慢性的な人手不足に伴う長時間労働問題、職人の高齢化、DXの遅れによる生産性の低さ、建設コストの増加など、多くの課題解決につとめる。開発の実現に当たっては、Arentの自動化技術が活躍。手間がかかるBIMへの入力を自動化し、BIMに蓄積されたデータを設計・施工図作成以降の工程が自動で抽出できる等、建設業務一連のDXに貢献することが期待される。

「この9つのツール群がアプリ連携型であり、BIMと連携させることで業務が楽になるイメージが湧いてくると思う。BIMにデータを蓄積させ、溜まったデータをAIで活用させることを将来的には考えている」(鴨林社長)

高砂熱学工業との共同開発の事例を見ても分かるが、Arentは企業と伴走し、その企業の資産のベテランや技術者の暗黙知による課題解決力をシステム化することに長けている。

今回、セミナーでは高砂熱学工業との共同開発の事例を解説したが、Arentは他にも進行中の案件も含むと、千代田化工建設とともに、自律型CADでプラント設計の非効率を一掃する「PlantStream」、清水建設株式会社と施設内アクセス空席状況を案内する「Inclusive Navi」、NEXCO東日本とビジュアライズ防災対策プラットフォーム構築などの実績がある。

結論としてはアプリ連携型のシステム群とBIMの自動化が非常に重要であり、業務視点での最適なシステム群とBIMを統合し、そこから生み出されたデータでAI活用するという好循環も生まれる。鴨林社長はセミナーで、多くの企業とともにこの好循環をサポートしていきたいとまとめた。

また、ブースでは、プラント配管の自動設計が可能な3D CAD「PlantStream」、自動配筋ソフト「Lightning BIM 自動配筋」、Revitのファミリをクラウド上で管理する「Lightning BIM ファミリ管理」、法人向け生成AIツール「BizGenie」の実機デモを行った。

Arentは、今後も定期的にセミナーを開催するとともに、日本企業が長年かけて蓄積してきた職人技術や暗黙知をシステム化する方針だ。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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