インフラ整備は、発注者と受注者との共同作業だ。
建設現場では、国発注の工事の場合、建設監督官と施工業者(現場所長、監理技術者、現場代理人)の共同作業だと言える。一般論として、この関係がうまくいかないと、良いモノ、良いインフラをつくるのが難しくなるらしい。折しも、いわゆる働き方改革(残業時間の上限規制)の波が押し寄せる中、建設現場における発注者と受注者との健全なコミュニケーション、円滑なコラボレーションがこれまで以上に強く求められているように思われる。
ということで、建設監督官と一緒に話そうシリーズとして、建設監督官と監理技術者などの方々とのグループインタビューを連載してみることにした。
今回はその第3弾として、土佐国道事務所発注の越知道路の現道拡幅工事、橋梁補強及び歩道部拡幅工事の3現場を取り上げる。
西森 敬洋さん 土佐国道事務所 建設監督官
梅原 稜河さん ミタニ建設工業株式会社
谷岡 勇さん 新進建設株式会社
藤井 康一さん 川田工業株式会社
越知道路の現道活用区間の3現場
現道拡幅現場の俯瞰写真(写真:ミタニ建設工業提供)
――越知道路事業の概要について、ご説明をお願いします。
西森さん 越知道路事業は、地すべりや落石といった災害の危険性を解消するほか、山道なので急カーブが多いので、線形不良箇所を回避することで、安全で信頼性のある幹線道路の交通機能の確保を目的とする事業です。
事業着手は平成20年となっていて、全体延長は約3kmあります。約3kmのうち、令和5年6月に、バイパス区間である約1.8kmの区間が開通済みです。現在は、残りの区間は現道活用区間ということで、主に現道拡幅の工事、橋梁補強及び歩道拡幅の工事を行っているところです。今動いている工事区間の延長は約640mです。開通時期については未定です。
現道拡幅の工事は、道路の横を流れる仁淀川のほうに張り出す工事で、ミタニ建設工業さん、新進建設さんにそれぞれ担当してもらっています。
橋梁補強及び歩道部拡幅の工事は、ケヤキ谷橋という既設の単純箱桁橋があるのですが、現行の耐荷重に対して強度が不足していることから、既設橋を補強し、さらに、川側に張り出した歩道を設置するというものです。この工事の特長としては、既設橋の下にアーチリブを架けて2径間にして補強するという、全国でも稀な工法を採用していることです。
仁淀川に仮設物が流出しないよう配慮
足場撤去前の様子(写真:ミタニ建設工業提供)
――それぞれの工事の進捗、施工管理上のポイントなどについて、お聞かせいただけますか。まずはミタニの梅原さんから。
梅原さん まず工事のポイントから言いますと、片側交互通行で施工しているので、隣接工事である新進建設さん、川田工業さんとの連携を密にして作業する必要があるということがあります。
それと、張り出し工事は、仁淀川に面した場所での作業になりますので、台風や大雨発生時に仮設物などが流出しないよう、配慮する必要があります。この現場独自に、仮設物の撤去判断基準を設けて、基準を超えた場合は仮設物を撤去することにしています。2024年の出水期は、幸い仮設物を撤去する事態は起きませんでしたが、2023年の出水期には、実際に仮設物を撤去しました。
進捗で言いますと、2024年11月時点で、計画が76.1%に対して実施工程は74.8%となっており、おおむね計画通りとなっています。
足場撤去後の様子(写真:ミタニ建設工業提供)
――仮設物の撤去は大変そうですが。
梅原さん そうですね。高さ16mほどの足場なのですが、時間的余裕がない中で、足場屋さんの段取りをつけて、急いで安全に作業しなければならないので、けっこう大変でした。
出水期に高さ18mの足場を3日かけて撤去
足場撤去後の様子(写真:新進建設提供)
――新進建設の谷岡さん、お願いします。
谷岡さん 片側通行の中、仁淀川に面してに足場を組んで、道路の張り出し工事を行うのは、ミタニさんと同じで、独自に基準を決めて、仮設物の流出の危険がある場合は、仮設物を撤去するのも同じです。ウチの現場では、2024年の出水期に高さ18mほどの足場を3日かけて撤去しました。
ミタニさんと違うのは、ウチの工区は合計延長約410mあり、A工区、B工区、C工区に分かれています。工区が飛んでいるので、連続性のある工事がなかなかできないというのが、ウチの現場の問題点の一つです。
それと、B工区ではもともと、足場を組んで機械をすえてアンカー工の施工をする予定だったのですが、足場を組むと撤去するリスクがありましたので、当方で無足場工法を提案して、足場のないカタチで、今施工を行っているところです。
進捗率は、2024年12月時点で約50%です。ちょっと遅れ気味です(笑)。
既設橋にアーチリブを架けて2径間化する
アーチリブ地組完了時の様子(写真:川田工業提供)
――川田工業の藤井さん、お願いします。
藤井さん 当社の工事は、既設の橋梁を補強する工事で、ほかの2社さんとはまったく異なる工事です。西森建設監督官からもお話がありましたが、既設橋下にアーチリブを架けて2径間化と桁補強を行い、床版を取り替えるという、橋梁全体の改良工事になります。今は、アーチの架設と桁の補強が終わって、支承取替えなどの作業を行っているところです。2025年から床版の取替え作業に入っていくことになります。
アーチリブによる2径間化は、あまり前例のない工事です。当社のほうからいろいろと細かい技術提案をさせていただきました。
2径間化によって桁の応力状態が変わるので、それに対応した補強を行う必要があります。ただ、既設橋の耐荷重能力が不足しているので、2径間化する前に補強することはできません。一旦アーチを架けて、交通荷重分だけをアーチで支持するようにしてから、補強しました。いろいろとシバリのある中で施工しているというのが、この工事のポイントになります。
進捗は、2024年11月時点で76%になっています。
アーチをスライドさせて補強する工事は全国でも稀
スライド完了時の様子(写真:川田工業提供)
――川田工業さんとして、アーチリブ架設による橋梁補強の実績はあるのですか?
藤井さん ないです。アーチリブを架けるだけ、桁を補強するだけならあるのですが、アーチリブを架けて2径間化するのは、当社としても初めてです。
――四国地整では過去に施工実績があるのですか?
西森さん 橋の下に河川があって、アーチをスライドさせて補強するという事例は、四国ではおそらくないと思いますし、全国的にも非常に珍しいと思います。
予想外のことが起きても、「現場を止めない」が最優先
――3現場ではこれまで、いわゆる「予想外のこと」は起きましたか?
西森さん こちらの3つの現場は、いずれも通常の改良工事と比べると、異色な工事というところがあると思っています。さきほどお話のあった仮設物の撤去ですとか、設計の段階で想定し得なかったところで、いろいろな予想外のことが起きているのが印象に残っています。基本的な計画、設計というものを、実際の施工にどう当てはめていくかということで、工種ごとに何度も打ち合わせを行いながら、なんとか進めているところです。私としては、「現場を止めない」ということを最優先に考えながら、やっています。
ここの現場は、いろいろ提案していただけるので、業者さんに恵まれた現場だと思っています。
――あまり前例がない橋梁補強及び歩道部拡幅工事についてはどうですか?
西森さん 橋梁補強及び歩道部拡幅工事については、当初の施工計画からまったく変わっているんです。当初は、ベントが4つ立っていて、ベントの途中に可動域があって、そこでスライドさせる計画でした。
ところが、静岡の落橋事故を受けて、より安全性、確実性を確保する必要が生じました。そこで、トラスガーターを上に乗せて、桁を動かしていく方式に変えました。ベント自体の規模や構造もガラリと変えました。当初の計画と比べると、川田工業さんのほうでほとんどの部分を検討し直してもらって、かなり骨太なモノになっています。
川田工業さんの現場に関しては、工事が一歩進むごとに、予想外のことに直面するという感じでした。川田工業さんには、それらにことごとく対応していただいています。
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予想外はあったり、なかったり
――施工者の視点で、予想外への対応というのはありましたか?
梅原さん 私的には、大きな予想外というのはありませんでした。小さな予想外については、工法の変更などで対応できています。
谷岡さん 予想していた場所に岩盤が出なくて、擁壁などの構造が変わってしまったということはありましたが、たまにある予想外なので、大きな予想外というものは、ウチの現場でもありませんでした。
藤井さん ウチの現場では、大きな予想外が2つほどありました。架設のために、クレーンを据え付ける作業構台を設置しているのですが、杭基礎のため削孔した際、地下水が吹き出してきて、施工できないということがありました。そのときは、工法を変更して施工しました。
ベントの基礎部分についても、実際に図ってみると、地耐力が足りないことが判明しました。地盤改良で対応できるところはそれでやって、対応できないところは杭基礎を施工しました。
――西森さんから、施工計画がガラリと変わったというお話がありましたが、よくあることなのですか?
藤井さん 当初の計画が変更になるのは、良くあることです。
完全週休2日はすでにデフォルト
――いわゆる働き方改革への対応はいかがですか?
西森さん 昔に比べると、事務所全体では進んでいます。私自身としては開通を直近に控えた南国安芸道路 高知龍馬空港IC~香南のいちICを担当していることなどもあり、忙しくてできていないときもあります。
梅原さん ウチの会社として、いわゆる完全週休2日、土日祝日は休みになっていいます。この現場も含め、完全週休2日はデフォルトになっています。現場の対応としては、職員の役割分担を明確にすることで、業務の効率化を図り、できるだけ定時に帰れるようにしています。この現場には、若い人も含め5〜6人の職員が配置されています。通常は2〜3人だと思うのですが、会社の方針として、多めの職員が配置されています。これも働き方改革への対応です。
実際、私も含め、この現場の職員はほぼ定時で帰っています。書類作成については、ペーパーレス化、電子化がだいぶ進んできていますし、測量など作業工程のICT化にも取り組んでおり、業務の簡素化、効率化を図っているところです。
下請け契約も土日祝日休みが前提条件
谷岡さん 当社も会社として、ずいぶん前から完全週休2日を実施しています。当初は、現場を土日祝日を休みにするのは難しいところがありましたが、ここ数年間は、発注者さんにもご配慮いただきながら、完全週休2日で実施してきています。この現場も完全週休2日でやっています。
現場ではいろいろなことが起きているので、定時で帰れない場合もあるのですが、できる限り定時で終わるように努力しています。たとえば、ICTの導入であったり、職員の役割分担だったり、省人化、省力化の取り組みを進めながら、やっているところです。
ただ、職員数については、この現場は私も含め3人ということで、ちょっときついところもありますが、なんとか努力はしています(笑)。
下請けさんも完全週休2日です。見積もりをする段階で、「この現場は完全週休2日なので、それを考慮した見積もりを出してください。土日祝日休みが契約条件です」と伝えています。
業務シェアにより、技術、ノウハウがウスれてしまう心配
藤井さん 当社も各社さんと同じような状況で、会社として完全週休2日でやっていますし、この現場も土日祝日は休みです。残業時間についても、会社としてかなりキビしく縛っていますので、この現場でも、業務をシェアしたり、効率化を図りながら、取り組んでいるところです。
ただ、個人的には、業務をシェアするということは、自分のパートしかやらないということになりかねないので、一つのことをネチッこくやる、マニアックに突き詰める、のめり込んでやる、といったことがウスれてしまうことを心配しています。そういうことを通じて、培われる技術、ノウハウもあると思っているからです。あと数年経てば、答えが出ると思っています。
「定時を過ぎているのに、連絡して良いのか」という悩み
――施工業者などとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
西森さん ちょっとでも気になることがあったときは、雑談中でも、なんでも話し合うようにしています。業者のみなさんには「ちょっとシツコイな」と思われているかもしれませんが(笑)、ざっくばらんに話し合える関係づくりを心がけています。
ただ、業者さんに確認したいと思ったときに、それが定時を過ぎている場合、一刻も早く連絡したほうが良いのか、明日に回したほうが良いのか、いつも悩んでいます(笑)。
若い社員とのコミュは大丈夫だが、発注者とのコミュは「まだまだ」
――現場でのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
梅原さん 現場には22才、23才ぐらいの若い職員がいますが、私自身26才でして、そんなに年が離れていないし、バカ話などもしてくれるので、彼らとのコミュニケーションはうまくとれていると思っています。
発注者とのコミュニケーションについては、わかっていないこともあるので、「まだまだこれからかな」と思っているところです(笑)。
――定時を過ぎた連絡についてはどうですか?
梅原さん 私自身は、たとえ定時を過ぎていても、連絡しちゃいます。なので、発注者さんからの連絡も、定時を過ぎていたとしても、私は大丈夫です。
年は離れているが、普通に「今度飲みに行こうや」と話しかける
――谷岡さん、現場のコミュニケーションづくりについて、どうですか?
谷岡さん 私は58才なので、現場にいる若い職員とは年が離れていますが、意外と共通の趣味があるので、彼らとのコミュニケーショにはあまり困っていません。「今度飲みに行こうや」とか、ふだんから気兼ねない会話ができています。まあ、自分がそう思っているだけかもしれませんが(笑)。
定時を過ぎた連絡については、私も全然構わないと思っています。ただ、連絡への対応は、翌日の朝一番にするようにしています。すぐ対応するのが良いのか、どっちが正解かわからないところはありますが。
正直、若い人とのコミュは得意ではない(笑)
――藤井さん、お願いします。
藤井さん 私は正直、若い人とのコミュニケーションは得意ではありません(笑)。ただ、チームでやっている仕事なので、現場の風通しは良くしたいとは思っていますので、職員や作業員さんへの日頃の声掛けや指示出しや注意喚起といったことですが、そういう意味でのコミュニケーションは、ふだんから心がけながらやっています。
定時を過ぎた連絡については、私は何時であっても問題ありません。連絡が来ると、若干躊躇しますが、可能なものはすぐに対応してしまっています(笑)。
自分が発注した工事を建設監督官として担当する、というレアな流れ
西森さん
――建設監督官という仕事のやりがい、魅力について、どうですか?
西森さん 私の実家は鉄工所だったのですが、仕事の手伝いをしながら育ちました。ものづくりの仕事に興味があったので、仕事の規模が大きい国土交通省を志望しました。
建設監督官という仕事は、まさにものづくりの最前線の仕事だと感じているところです。業者さんと一緒にどうするかを決めて、モノができ上がっていくのを目の当たりにするのは、楽しいし、やりがいがあります。私だけでなく、他の職員の話を聞いても、国土交通省の仕事の中でも、一番楽しい仕事だと言われています。
ケヤキ谷橋の改良工事は、局発注、局契約工事でして、私が担当したんです。自分が発注担当した工事の現場を担当しています。こういうケースはあまりないと思います。そういうのもあって、越知道路事業の現場には、人一倍思い入れが強いところがあります。なので、毎日やりがいを感じながら、仕事をしています。
誰かの役に立てるのが、仕事の喜び
梅原さん
――土木の仕事の魅力はなんですか?
梅原さん 私もやっぱり、ものづくりというところですね。道路や歩道の仕事は、モノができあがったら、誰かが使ってくれるので、誰かの役に立てることが、私にとって喜びです。
実は、私は保育園のころから建設業を目指していました。私の実家の隣が建設会社でして、「重機のオペレーターになりたい」と思っていました。そのときの思いを変えずに、ミタニ建設工業に入社し、今は現場監督をやっているわけです。
――ミタニ建設工業の魅力はなんですか?
梅原さん 職場が近いことですね(笑)。仕事で高知県外に飛びたくない、転勤したくないと思っていたので、それで選んだ感じです。
プレッシャーに耐えながら、ものづくりをするのが、やりがい
谷岡さん
――谷岡さん、土木の仕事の魅力はなんですか?
谷岡さん 高校に進学するとき、勉強がキライだったので、工業高校を選んだのですが、最初は建築学科に行こうと思っていたんです。ところが、先輩から「建築学科はお前のアタマじゃムリ」と言われました(笑)。それで、土木学科に進んだんです。新進建設に入ったのも、高校の先生にススメられて入りました。なので、建設会社に入ったのも、土木の仕事に就いたのも、なりゆきなんです。
実際に、道路をつくったり、下水道管を敷設したり、トンネルをつくったりしてきました。土木の仕事をしているうちに、最初はものをつくることが楽しかったのですが、人の役に立つこと、人に使われることも、だんだん楽しくなってきました。
その一方で、役職が上がるにつれて、工期やお金のことなども考えないといけなくなって、プレッシャーで、夜寝れない日も出てきたわけですが(笑)。そういうのも含めて、自分なりにこうすれば良いモノができるということを考えながら、実際にモノをつくっていくのは、やりがいのある仕事だと思っています。
「どうやって架けたんだ」という仕事に携われるのが、やりがい
藤井さん
――藤井さん、橋屋さんとしてのやりがい、魅力について、どうですか?
藤井さん 橋に限らずですが、大きな構造物をつくるのが魅力です。つくる前とつくった後では、景色もまったく違ってきます。橋の中には、「どうやって架けたんだ」という橋もあるので、そういうダイナミックな仕事に携わることにやりがいを感じます。
もともと、橋に強い思い入れがあって、今の会社に入ったわけではないのですが、結果的に良い仕事を選んだなと思っています。
――川田工業という会社の魅力はなんですか?
藤井さん たまたま入っただけですが(笑)、橋の計画から施工管理まで一通り経験できて、仕事も任せてもらえるので、橋の仕事のシンの部分を学ぶには、良い会社かもしれません。