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【羽田空港アクセス線基盤整備事業の現場に迫るシリーズ第3弾】シールドトンネル工事編

以前、羽田空港のアクセス鉄道基盤整備について記事にしたところだが、そこから1年半が経過したころ、主要な工事が急ピッチで動き始めたという情報を得た。じゃあということで、東京空港整備事務所をはじめ、1月下旬時点で動いていた3つの現場を回って、取材してきた。

羽田空港アクセス線基盤整備事業の現場に迫るシリーズとして、全5編にわたって公開していく予定だ。

第3弾では、シールドトンネル工事編として、鹿島・東亜・あおみJV所長(現場代理人)の柴田佳彦さんにいろいろお話を伺ってきた。

柴田 佳彦さん 鹿島・東亜・あおみJV 羽田アクセス線シールド工事事務所長(現場代理人)

柴田 佳彦さん 鹿島・東亜・あおみJV 羽田アクセス線シールド工事事務所長(現場代理人)

技術的な課題が多く、工期的にも非常にキビしい現場

シールド発進立坑(鉄筋組立)の状況(2025年2月下旬時点、鹿島JV写真提供)

――こちらの現場の概要・進捗と見通しはどうなっていますか?

柴田さん こちらの現場では、羽田アクセス線新線建設区間である約5kmのうち、羽田空港島内の約2kmのトンネル区間を担当しています。施工はシールド工法で行います。トンネル線形はほぼ直線ですが、外径11.8mのシールドマシンを土被り深さ4mから40mまで掘り進め、最後は、空港島護岸のところで、反対側(大田市場側)から掘進してくるシールドマシンと地中接合します。

埋立地であることや、滑走路直下を掘進するということで、技術的な課題が多いです。工期的にも非常に厳しい施工条件にあります。

現在は、シールドマシンを地中に入れるための立坑を構築しているところです。掘削寸法は、横17.7m×延長21.1m×深さ20.5mになっています。現在、深さ約5mまで掘削が完了しており、立坑の天井部となる頂板框梁を先行して構築しています。

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さまざまな障害物を除去しながら、地中可燃性ガスにも配慮しなければならない

シールド発進立坑(框梁コン打設)の状況(2025年2月下旬時点、鹿島JV写真提供)

――施工管理上のポイントなどを教えてください。

柴田さん 空港島は人工島であるため、地盤が軟弱です。今回のトンネル区間は約40年前に埋め立てられた場所であり、地盤改良材などが埋まっている部分を掘り進んでいくことになりますが、その際さまざまな障害物を除去しながら工事を進めていく必要があります。

南関東地区特有の地中可燃性ガスにも配慮しなければなりません。そのため、地中障害物を回収することができ、かつ可燃性ガスをトンネル内に流出させない「ハイブリッド式シールド工法」を採用することにしています。大断面では国内初の採用事例となりますが、この工法で安全で確実なシールド施工を進めていく考えです。

ECI方式によって、ゼネコンの経験知、暗黙知を設計に反映できる

シールド掘進のCG(鹿島JV画像提供)

――こちらの現場はECI方式(技術提案・交渉タイプ)での受注ということですが。

柴田さん 我々ゼネコンのノウハウを設計に反映できるメリットは大きいと思います。極力ムダのない効率的な設計施工を提案できるという点では、今後主流の発注方式になっていくと感じています。

ゼネコンは、現場施工だけでなく、プレゼンするための設計、提案、積算を含むさまざまな分野で活躍することができる存在です。多種多様な工種や工法の組み合わせを考えながら、ものづくりを進めていく楽しみを味わえるのは、ゼネコンならではではないでしょうか。

警察庁舎、滑走路、共同溝といった重要構造物が輻輳している

――こちらの現場は、狭隘かつ現場が輻輳しているようですが、施工環境的にどうですか?

柴田さん 空港島内では複数の現場が同時に動いているので、他の工区との調整が非常に重要になってくると考えています。特に工事車両の動線確保や台数管理、一般歩行者の通路確保といったことに関する調整は、今後さらに増えると予想しています。

我々の工区単独で言うと、警察庁舎、滑走路、共同溝といった重要構造物が輻輳していて、シールド掘進通過時の計測管理が大きなポイントになっています。万が一これらを傷めてしまうと、空港の機能がマヒしてしまいます。そうならないためにも、設備、埋設管理者などの関係者と日々調整しながら、施工を進めているところです。

「現場での五感」づくりと「現場の見える化」

――いわゆる働き方改革への対応として、取り組んでいることなどはありますか?

柴田さん コロナ禍を経験して、正直、建設業の現業職においては、テレワークに限界があると感じました。建設現場は生モノであり、気候や時勢によって、対応が日々変化するモノです。そういうことに対応するためには、やはり「現場での五感」が大切になります。

なかでも土木工事は、土と木、自然を相手にした職業であり、五感、ときには第六感をもって察知をしながら、モノづくりをしていきます。とても大変な職業ですが、これを楽しめる人は、ぜひとも建設業を目指してもらいたいと思っています。

建設業も人材不足を抱えている中で、2024年度から働き方改革旋風が巻き起こりました。我々の現場でも、「工事の自動化や省力化による負担の軽減」「快適に仕事ができる職場環境の提供」を促進しているところです。

働き方改革を促進させていくには、ハード、ソフト両面での取り組みというものが、重要になってくると考えています。

ハード面では、技術開発による工事機械の自動化、遠隔操作により、技能者の負担軽減や省力化を図っています。今回のシールド掘進もほぼ自動で方向制御などが行えるようになっています。我々元請職員においては、移動時間削減のため、現地サテライトオフィスの設置や遠隔臨場による検査立会など、快適な環境職場づくりに取り組んでいます。

ソフト面で言うと、この現場に限らず、鹿島では、限られた時間で効率よく社員を教育するという観点から、いままで蓄積してきたノウハウをデジタルの力でデータ化し、共有、水平展開して、次世代につなげていく取り組みや災害事例をもとに作成した「安全の見える化動画」の活用をしています。

安全管理だとか施工方法、創意工夫といったことについて、「現場の見える化」を図っているところです。

近年では、女性職員もさらに増えており、魅力ある建設業になりつつあると感じています。

魅力を感じて働く意思があれば、誰でもやりがいや達成感を感じられる仕事

――仕事のやりがい、魅力についてどうお感じになっていますか?

柴田さん 人々の生活、命を守るのが我々の仕事です。新規工事だけでなく、維持管理や災害復旧なども含めた土木の現場は、どの現場も社会からの責務を背負っています。少々の困難に遭遇しようが、そこに魅力を感じて働く意思があれば、誰でもやりがいや達成感を感じることができる仕事だと思っています。

一人ひとりが使命感を持って、直面する課題に向き合い、これまで培ってきた経験を活かし、それを解決して乗り越え、現地でモノづくりに携われることが、土木工事のやりがい、魅力だと思っています。

ちなみに、私の妻は病院勤務、息子は山岳レスキュー勤務です。私も含め、コロナパンデミックにおいても、現物、五感で仕事を続けてきた家族です(笑)。

――最後に、意気込みをお聞かせください。

柴田さん 日本の空の玄関口でもある羽田空港の安心安全を第一にしながら、安定した施工を目指し、確実に工事を進めていきます。

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