大工がカケヤの空振りで2階から転落

大工がカケヤの空振りで2階から転落。自己責任でも発注者に賠償責任?

30年のベテラン大工がカケヤを空振り。自己責任では?

工務店Yの依頼により工事現場で作業をしていた一人親方の大工Xが転落事故により負傷した場合、工務店Yは安全配慮義務違反に基づき損害賠償責任を負うかについて1審と2審で判断が分かれた判例があります。損害賠償請求金額は4,497万2,767円でした。

一級建築士の資格を有し30年間大工として経験を積んできている一人親方である大工Xが、工務店Yの依頼を受けて2階建て戸建住宅の建前を建築するために、2階部で作業していたところ、床部にコンパネを設置する際にカケヤを空振りしてバランスを崩して転落。頚椎脱臼骨折などの傷害を負うとともに、後遺症が残ったと主張して工務店Yに対して安全配慮義務違反の不履行について4,497万2,767円の損害賠償を求めました。

カケヤの使用は想定外。1審判決は損害賠償請求を却下

工務店Yは、通常、大工がコンパネをはめ込む作業をする際、危険な場所でカケヤを使用することはないと考えており、大工Xが本件事故当時カケヤを使用していることも知らなかったそうです。

工務店Yは、大工Xがカケヤを使用してコンパネをはめ込む予見可能性がない、また大工Xが主張するような安全管理のための指導監督体制を確立し、転落事故が起きないように注意を喚起する等の義務までも負わないとして1審判決は工務店Yの安全配慮義務違反を認めず大工Xの請求を棄却しました。

これを不服とする大工Xが控訴しました。そして2審では損害賠償請求が容認されました

工務店側は安全配慮義務を負うか?

この事故で、工務店Yについて押さえておきたい論点は次の3点です。

  1. 本件事情において、工務店Yは使用者と同様の安全配慮義務を負うか?
  2. 転落する危険が工務店Yに予見可能であったか?
  3. 工務店Yには転落による危険を防止すべき義務が認められるか?

2審判決の要旨は以下です。

  • 1について

工務店Yと大工Xの間には実質的な使用従属関係があったというべきであるから工務店YはXに対して使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するのが相当である。

  • 2について

大工Xが従事した工事は床のない2階部でコンパネをはめ込んで床面を形成する作業であり地面から約3.5mの高所であったから墜落する危険があることを予見し得べきもの。

  • 3について

軒高さ10m未満の建設工事に適用される『足場先行工法に関するガイドライン』に照らすと、外回りの足場を設置し、困難な場合は代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど墜落を防止する義務があったと言わざるを得ない。

大工Xの自己責任は100%ではなく80%、20%の請求を認容

工務店Yには安全配慮義務違反が認められ、治療費、入通院慰謝料、休業損害逸失利益、後遺症慰謝料等合計2,992万9,995円を損害として認定した上で、大工Xの過失割合は8割が相当として、過失相殺の上、損害の2割に1割の弁護士費用を加えた658万5,999円(※)を認容するという判決でした。

※2,992万9,995円×0.2+弁護士費用=598万5,999円+60万円=658万5,999円

大工Xの過失により8割引きになった理由は以下です。

「大工Xは30年以上の経験を有する大工で相応の道具選択と技量が期待されていたこと、足場等が設置されていないことを認識しつつも工務店Yに何らの措置も求めなかったこと、両手打ちのカケヤを振り上げて当て木を打ちコンパネをはめ込もうとしたが空ぶりしてバランスを崩して落下したものでXの落ち度であり過失割合は8割が相当とする」(大阪高裁平成20年7月30日判決)

本件の場合、雇用契約ではなく請負(下請)契約関係の色合いの強い契約関係ながら、工務店Yと大工Xの間には実質的な使用従属関係があったという評価をしています。この判例の立場に立つのなら、今後は30年のベテラン大工Xに対しても工務店Yは安全のためのさらなる指導をすることが求められます。

「空振りはしないでね」とは言えないでしょうが、「カケヤはやめておいた方がいいのでは?」という道具の選定などは話し合う余地がありそうです。

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関西をベースに広告コピー、取材記事、農家レポートなどさまざまな原稿を執筆しています。ギターはスケールに挑戦中です。
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