工務店側は安全配慮義務を負うか?
この事故で、工務店Yについて押さえておきたい論点は次の3点です。
- 本件事情において、工務店Yは使用者と同様の安全配慮義務を負うか?
- 転落する危険が工務店Yに予見可能であったか?
- 工務店Yには転落による危険を防止すべき義務が認められるか?
2審判決の要旨は以下です。
- 1について
工務店Yと大工Xの間には実質的な使用従属関係があったというべきであるから工務店YはXに対して使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するのが相当である。
- 2について
大工Xが従事した工事は床のない2階部でコンパネをはめ込んで床面を形成する作業であり地面から約3.5mの高所であったから墜落する危険があることを予見し得べきもの。
- 3について
軒高さ10m未満の建設工事に適用される『足場先行工法に関するガイドライン』に照らすと、外回りの足場を設置し、困難な場合は代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど墜落を防止する義務があったと言わざるを得ない。
大工Xの自己責任は100%ではなく80%、20%の請求を認容
工務店Yには安全配慮義務違反が認められ、治療費、入通院慰謝料、休業損害逸失利益、後遺症慰謝料等合計2,992万9,995円を損害として認定した上で、大工Xの過失割合は8割が相当として、過失相殺の上、損害の2割に1割の弁護士費用を加えた658万5,999円(※)を認容するという判決でした。
※2,992万9,995円×0.2+弁護士費用=598万5,999円+60万円=658万5,999円
大工Xの過失により8割引きになった理由は以下です。
「大工Xは30年以上の経験を有する大工で相応の道具選択と技量が期待されていたこと、足場等が設置されていないことを認識しつつも工務店Yに何らの措置も求めなかったこと、両手打ちのカケヤを振り上げて当て木を打ちコンパネをはめ込もうとしたが空ぶりしてバランスを崩して落下したものでXの落ち度であり過失割合は8割が相当とする」(大阪高裁平成20年7月30日判決)
本件の場合、雇用契約ではなく請負(下請)契約関係の色合いの強い契約関係ながら、工務店Yと大工Xの間には実質的な使用従属関係があったという評価をしています。この判例の立場に立つのなら、今後は30年のベテラン大工Xに対しても工務店Yは安全のためのさらなる指導をすることが求められます。
「空振りはしないでね」とは言えないでしょうが、「カケヤはやめておいた方がいいのでは?」という道具の選定などは話し合う余地がありそうです。
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