先輩の自慢話は迷惑か?技術伝承か?「超有名テーマパーク」の建設現場を救ったのは…

超有名テーマパークの建設工事で問題発生

これは夢の国とも呼ばれる、あるテーマパークの建設工事に関わった鳶職Bの話である。

超有名なジェットコースターの建設に携わっていた鳶職Bはまだ29歳ぐらいだった。

ジェットコースターの建設工事も半ばまで進み、重さ1トン強の木造小屋(工場で完成済み)が現場に搬入されてきた。これから着手する工事は、この木造の小屋を鉄製の土台にピタッと密着させ、ボルトで固定する作業である。小屋の土台と鉄製の土台は同じサイズだ。

しかし、木造の小屋を無傷で吊り上げるには、通常のワイヤーでは破損する恐れがある。そのため、柔らかいナイロン製のスリングで包み込むように吊り上げた。多少、メキメキという音はしたものの、なんとか吊り上げに成功し、みんな安堵の表情を浮かべた。


小屋は宙吊りのままで…

ところが、吊り上げた小屋を設置場所までクレーンで旋回させると、また問題が発生した。

このまま小屋を設置しようとすると、吊り上げに使用したナイロンスリングを抜き取ることができないことが判明したのだ。ここまできて作業は中断。吊り上げた小屋は、空中で待機。時間だけが無常に過ぎた。

このときの作業員は、鳶職Bに加えて、ベテランH(42歳)、若手A(18歳)、若手Y(19歳)の計4人。

小屋は吊り上げられたままなので、すばやい状況判断が必要だし、どう考えても後戻りはできない。技術的に優れているベテランのHも頭をかかえた。しかし、誰の口からもグッドアイデアが出てこない。

このとき鳶職Bは、以前勤めていた会社の社長の自慢話を思い出した。

その話とは、大きな川に橋を架けるときに用いる技術である。橋を架けるときに橋脚を作り、その上に橋桁を乗せる方法で、台船で設置場所まで運び、潮の満ち干きを利用するというものだった。

満潮を利用して桁を持ち上げ、干潮を利用して桁を橋脚に降ろす。そのとき、微妙な調整をするため、あえて橋脚から桁を(南京袋に砂を詰めたもので)浮かして仮置きする。そして、台船を抜き取った後で浮いている桁を(砂袋に鎌で切れ目を入れ、砂をサラサラと抜きながら)徐々に降ろしてゆき、最終的に正規の位置に収める。

鳶職Bも最初はこの方法を聞いて「すごい方法があるもんだな」と感心し、いろいろ質問していたが、さすがに何度もこの自慢話を繰り返されてウンザリしていた。しかしこの自慢話が、のちのち国民的テーマパークのジェットコースター建設工事で生かされた。

この社長の話を思い出した鳶職Bは、ベテランHに持ちかけた。「それだ!それでやってみよう」とH。土のう用の袋を使用し、結構簡単に小屋を収めることに成功した。

4人の中に難しい仕事をこなした満足感が漂った。Hは予想外のアイディアにとても感心し、Bに聞いた。

「どこでこんな方法を知ったんだ?」

「前の社長の自慢話を思い出して、これは使えるんじゃないかなと」


先輩の自慢話は、施工技術の伝承だ!

このことがあって以降、鳶職Bは難しい仕事に直面したときは、色々な先輩の話を思い出し、応用しながら仕事を積み上げてきたという。

鳶職Bはこう言う。

「先輩の自慢話は、つならなくてもまじめに聞けば、先輩も喜ぶし、きっとどこかで役に立つはずだ。自慢話は、先輩の現場人生の濃縮エキスでもあり、技術の伝承でもある。先輩の自慢話を、拒絶するか、自分の武器にできるか、それが現場でのひらめきや、発想力を左右するのかもしれない」

鳶職Bの話を聞くまでは、私も、まさかウザったい自慢話が、超有名テーマパークの建設工事を影で支えていたなんて知りもしなかった。

さあ、今日も先輩たちから、施工技術の濃縮エキスを吸い取っていこう!

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鳶職です。職長経験多数。かつて建設現場の花形と言われた鳶に思いを馳せながら、激動の建設現場を渡り歩いています。
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