仕事を知らない「設計の先生」に言いたい! 木工事が寸法1~2㎜にこだわるワケとは?

丹下健三先生でも難しい?木工事がこだわる寸法1~2㎜

部材の寸法で部屋の表情は変わります。

例えば、敷居の天端から縁側の縁甲板天端までの寸法をいくつにするかですが、バリアフリーの場合、あなたなら寸法は何㎜にしますか?

0㎜?ブッブー!0寸法はありえません。3㎜です。

50㎜にすると、ほぼ敷居の厚さになりますが、段差が大きくなるため、お年寄りには危険です。しかし重厚さが増し、頑丈に見えます。その中間の25㎜にすると、中途半端な寸法だと言われます。

では30㎜にするとどうだ、12㎜にするとどうだと、こうなってくると、私なら無難なところで30㎜にします。廊下の埃を室内に侵入させないし、ある程度の重厚さも確保でき、日本建築の伝統的な見付け寸法も表現しているからです。

わずかな寸法ですが、これが実に難しい。早い話、丹下健三先生クラスの設計の大先生が、鶴の一声で23㎜にすると言っていただければ即決です。大設計家が決めた寸法であれば、誰も逆らえません。

しかし、丹下先生も、住宅の設計が一番難しい、超高層はそうでもない、というようなことを言っています。本当に難しい。難しい問題から逃げるために、お施主さんに「決めてよ」と言いたくなりますが、あなた達プロでしょと言われそうですし、一応プロとしてのプライドもあります。

見付け寸法はデザイン表情に影響を与え、チリ寸法と見込み寸法は収まり寸法と言って壁幅、サッシの位置により決まります。


構造強度、加工、現場施工に影響する寸法

建具によっては重さが30kg以上ある物もあります。それを3か所の丁番で支えるので、開閉がスムーズにいくのか、垂れ下がらないか検討する必要があります。出入り口の三方枠がバラバラに壊れては信用にかかわり、鉄と違い溶接というわけにもいきません。ビスと金物、接着剤で固定するしかありません。

基本的には、強固に固定する頑丈な寸法、見た目も安心感を与える寸法が望ましいわけですが、設計によっては見付け寸法を細く見せ、壁内部に隠れる所は厚くする場合もあります。

枠の見付け寸法は普通25㎜ですが、これが30~40㎜となると縦枠と上枠との取付方法で問題が出てきます。

45度の留方だと乾燥収縮で隙間がでてきて、角を出す方がいいと言うことになり、そうなると同じ見込み寸法というわけにはいきません。上枠を縦枠の面内に収める寸法にしなければならない。恥をかきますからね。

では、その角は上枠の天端からどれだけ出すか、出さないか、ということで、検討が始まります。出さない方が現場での壁仕上がりには良い方法です。

そして加工工場での機械にも限度というものがあります。設計の先生によっては0.5㎜なんていう寸法にこだわる先生がいますが、機械の加工歯に0.5なんて物はなく、1㎜単位です。仕事を知らないと言うしかない。0.何㎜は許容寸法。現在は空調設備があり、部屋は乾燥気味なので、それも考慮した施工でないと今後のメンテナンス等に影響を与えます。

予算に影響する寸法

見付け寸法25㎜と言いますが、原材料の寸法は28㎜で、3㎜ほど荒削り、中仕上げ、仕上げで25㎜まで持っていきます。荒削りは加工機械の歯で削り、中仕上げ、仕上げは手作業、化粧単板貼の場合は、機械やすりで中仕上げを行います。

これが26~28㎜となると、原材料の寸法が無い場合があるので、その時は材料を張り合わせて加工することになりますが、無駄が多く出る寸法、原価が上がるので避けたい寸法です。

長さについても、既製品は4mが一番長い寸法ですが、両端は割れや反りが出ていて使えないため、その部分を切断する事を考えた長さ寸法で加工しなければなりません。4mの材料は3.9mの材料、3m以上の材料は4mの材料を使用することになります。

失礼ながら、仕事を知らない、あるいは若い設計の先生はこの寸法にこだわる傾向があります。コストの事も考えていただかないと、一流の設計者とはいえません。

原木の確保から始める場合は、製材時点でいかようにもできるから問題ありませんが、普通は製材所や木材会社の既製品を使うので、そこから削り寸法、加工寸法を考慮した設計をお願いしたいものです。


現場所長「自分の家もあばら家だけど、ここまでひどくないよ」

最後に私が経験した失敗事例を紹介します。

敷居の建具が入る溝がありますね。建具がその溝で左右に動き開閉します。その溝の深さで失敗しました。

溝の深さは普通は2~3㎜です。敷居滑りを張り付けても建具が外れません。ところが、あるスーパーゼネコンさんの現場で、設計さんがその溝の深さを5㎜にしろとききませんでした。5㎜は相当に深いです。たしかに建具は地震でも外れないでしょう。

私は3㎜で十分だと突っぱねたんですが、頑としてききません。しかたなく、その通りにしましたが、案の上、鴨居の部分で隙間が大きく出て、見苦しいのなんの、貧乏くさくなりました。

そこの所長さんが皮肉まじりに言っていました。「自分の家も相当にあばら家だけど、ここまでひどくないよ」と。まったく同感です。さすが昔の人は考えてるなと思ったしだいです。

結局、お金を掛けて、その建具の隙間から見える部分を化粧単板で張り付ける事でなんとか収まりました。木工事はとにかく寸法1~2㎜にこだわります。

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中学を出て大工になる。ふとしたことで正社員ではないが、大手ゼネコンの社員となり頑張る。入った部が有名人や社長の高級住宅、寺社建築を手掛ける部署であった。周囲が頭の良い人ばかりなので、それにつられて自分も一級建築士、建築施工管理技士に合格する。その後、住宅メーカーやゼネコンなどに転職。今は生産設計などを手掛けている。
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