現場監督による工程内検査写真撮影イメージ

【大東建託】「AI現場監督構想」を発表。初弾は検査写真のAI 自動分類システム

大東建託株式会社(竹内啓社長)はこのほど、AI(人工知能)を活用して現場監督の業務をサポートする「AI現場監督構想」を発表した。9月から全国の施工現場で、現場監督の品質管理業務で負担となっている工程内検査写真の分類・添付作業を、画像をアップロードするだけでAIが自動分類するシステムを導入する。

現場監督による品質管理は、高品質な施工を実現するため非常に重要な業務の一つだ。後工程での問題発生の予防のために、施工の各段階で綿密な検査を行い、定められた基準や仕様を遵守しているかを確認する必要があるが、検査結果を写真と検査表に詳細へ記録する際、検査項目は約260種類に及ぶため、現場監督は業務後に膨大な数量の写真の振り分け作業に時間を費やしてきた。また、作業が煩雑なため、写真振り分けミスの発生リスクもあった。今回導入する工程内検査写真のAI自動分類システムにより、検査写真は適切な項目に分類・登録され、当該作業時間が従来の約50%削減できる見込みだ。

現場監督の資格保持者、とくに1級建築施工管理技士などは昨今減少・高齢化の傾向にあり、建設業2024年問題の課題の一つ。大東建託は全国で常時約2,000ヶ所の施工現場が稼働し、資格保有者が複数の現場を管理しているが、管理に多くの時間を費やし、かつスキルが属人的になるなど、業務の効率化・可視化と管理品質の高度化・均一化が課題としてあるという。今回策定した「AI現場監督構想」は、これまでに蓄積された業務ノウハウや協力会社の陣容・スキルなどに関するデータを活用し、現場監督一人当たりの業務効率を2028年までに20%の向上を目指す。大東建託は2024年に、営業担当者の育成や営業活動を支援する「AI課長」を開発するなど、AI活用を進めており、今後もAI技術を活用し、現場管理業務の効率化、安全性と品質の向上を目指す。

監理技術者の年齢構想は60歳以上が約35%

大東建託株式会社 安全品質管理部 次長の小川龍二氏

今、現場監督の人材獲得は建設技能者とともに危機的な状況が続いている。今回は、現場監督の人手不足に焦点をあて、デジタルを活用しながらどのように人材を獲得しているか大東建託 安全品質管理部次長の小川龍二氏が説明した。建設業の就業者数は1990年には約600万人を誇っていたが、2022年では約480万人と全体から見ると約2割減少し、今後ともこの傾向が続く苦しい状況が想定される。あわせて高齢化も進行中で、約3割以上が55歳以上、一方で29歳以下は約1割となっている。

さらに監理技術者の年齢構成も高く、2022年では60~69歳は23.5%、70歳以上が11.4%と合計で34.9%に及び、「大東建託としても現場監督などの採用強化とともに人材育成は大きなテーマ」と小川氏は語る。そこで、同社は採用に注力するとともに、労働力不足への対応とシニア層の活躍を促進するため、2026年4月から社員の定年を現行の60歳から65歳に引き上げ、選択定年制を導入する。社員は自身のライフスタイルやキャリアプランに合わせて、60歳から65歳までの間で定年を選択することが可能になる。

建設業界にも時間外労働の上限規制が適用され、いま労働環境の変革が求められている状況だ。「建設業2024年問題」では、大東建託では現場監督と大工職人(協力会社・作業員)の両面から対策を展開しており、現場監督では「AI現場監督構想」「床下検査ユニットの開発・導入」のほか、「資格取得目的の海外現場監督の確保」、「遠隔アプリでのリモート検査」、現場管理「匠アプリの導入」などを行う。一方、大工職人に対しては、「匠マイスター技能選手権」の開催、「大東スチールの社員大工の採用開始」(2024年9月~)、「TAKUMI Builders Connect」(協⼒会社の業務効率化・DXを⽬指し、電⼦施⼯管理システムを2025年から開発・販売)、⾃社訓練校「⼤東テクニカルカレッジ」(若手作業員の育成・定着と施工体制の強化を目的に、千葉県東金市に2022年に開校)、工期の平準化などを実施している。今回の記者説明会では、「AI現場監督構想」「床下検査ユニットの開発・導入」にフォーカスをあて解説した。

このうち、施工の神様でも取り上げたウズベキスタンでの新卒採用者は、2024年12月に来日して先に教育を受け、2025年4月からは新卒者と同じ研修に参加した。「現場監督の補佐として現場で活躍している。さらに9月にも二期生として面接する予定だ。また、インドネシアでも施工管理者の大東専用講座を2025年8月に開講し、2027年秋には約5名の採用を予定している」(小川氏)

【大東建託】数百人にも及ぶウズベキスタン人学生がエントリーし、5人を技術者として採用。インドネシアの大学では「技術者の育成講座」も開設へ

大東建託の稼働施工現場数は約2,000現場(常時)で、1級建築施工管理技士の有資格者数は約700名(常時)。これに管理職、積算職や設計職などを含むと全社の有資格者数は約1,900名に達する。そこで現場監督の一人当たりの現場数は3.3件、協力会員数は約1万1,000社で合計の人数は約15万人にも及ぶ。案件が主に賃貸集合住宅のため、工期は短く数は多い点で資格を持つ現場監督が複数現場を担当していることが特徴だ。

大東建託の施工現場・管理の現状

AI現場監督構想で2028年までに業務効率を20%向上

そこで、同社は「AI現場監督構想」を策定した。この構想により、事務処理時間を削減し、現場や協力会社に向き合う時間や後進育成の時間を確保する。2026年までに平均残業時間を現行の30時間から15時間へ削減し、2028年までに一人当たりの業務効率を20%向上するという。9月からは、工程内検査写真の自動分類をスタートさせる。「現場写真はさまざまな角度から数千枚を撮影するため、探したり、チェックする時間がかかるが、AIが適切な写真を選択し、写真を探す時間や人的なミスを減らし、写真選択の精度を高めることに加え、現場に戻ってから行う業務の減少に効果が高い」(小川氏)

AI現場監督構想を策定

工程管理では、工程表作成の自動化をさせるイメージで2026年度から着手する。現場の内実は地域ごとにバラバラだ。現場監督が特定の地域で業務を行えば、その地域での技能者を頼りに現場を稼働させていくが、実情は新天地への異動があり、現場と向き合う必要もある。その際、重要なことは技能者をタイムリーに把握する点にある。「現場の入退場、技能者の年齢構成、大東建託の業務を何割行っているかを捉える必要がある。入退場情報をAIに覚え込ませることによって、地域ごとの協力会社、技能者の情報を把握できるようになる。そこで現場監督が急に別の地域に異動になり、現場を担当することになっても、AIが自動的に作成した工程表をもとに工程表が選び出した協力会社を見て、アポイントを取れば、現場も予定通りにはまり、無駄を減らすことにつながる」(小川氏)

そのほか、安全管理では、施工内容の注意をAIが自動で喚起事項を選定して現場監督に与え、現場監督はその事項を活用し、朝礼・昼礼で作業員に伝える。また、現場ではライブカメラを設置しており、仮に作業員の中でヘルメットをかぶっていない人物がいればマーキングし、外部からでも作業員の注意喚起が図れるような機能も導入する方針だ。

予算管理では、進展状況に応じた査定の予測値をAIに覚えさせ、自動査定によって未払いや支払い遅延の防止を目指す。

最適な床下検査ロボは6月から試行

従来の床下点検業務のようす

また、大東建託では、株式会社エアリアルワークス(肥後誠社長)と、業界最高水準の軽量性と急速起動を特長とする床下検査ユニットを共同開発し、6月から試行導入を開始している。賃貸住宅では、水漏れやシロアリ被害の有無などを確認するため、定期的な床下点検を推奨している。これまでは、従業員がほふくの姿勢でサーチライトを持ち、床下に潜ってきた。また、従来の床下検査ユニットは、持ち運びの重量や充電時間、高さに制約のある床下に潜行する形状などでも制約があり、活用が限定的な側面があった。

大東建託は、建設業界の抱える労働負荷軽減の観点などから、様々な物件で活用可能な床下検査ユニットの開発を目指し、ドローンなどによる検査機器開発・販売に実績のあるエアリアルワークス社と共同で、業界最高水準の①車高160mm②重量3.4kg③起動速度約2分④乗り越え可能な段差最大17cmを備えた床下点検に最適なユニットの開発に取り組んだ。同機を使用すれば、床下点検時間はわずか5分に収まるという。なお、同製品は、エアリアルワークス社がMOGRAS6L(モグラス・シックス・エル)として建設業界向けに販売中だ。

床下の段差は最大17cmまで乗り越えられる

床下検査ユニット概要

名称:MOGRAS6L(モグラス・シックス・エル)
寸法:W350mm-H160mm-L480mm
重量:3.4㎏(バッテリー含む)
走行速度:最速2.0km/h(調整可能)
起動速度:約2分
段差の乗り越え:最大17cm程度(使用環境により異なります)
動作時間:最大1時間(使用環境により異なります)
充電速度:20分
問い合わせ先:株式会社エアリアルワークス
お問い合わせフォーム:https://arws.jp/contact/
Webサイト:https://arws.jp/

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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