会社員として勤務しながら副業で同業会社を設立
ハウスメーカーX社で勤務するYは2015年に入社後、翌2016年には営業所長に、2020年には支店長に昇格しました。Yは、勤務するX社よりも低価格帯での注文住宅を手掛けたいと考えるようになり、自分で同業のA社を立ち上げました。
Yは、X社の顧客情報を使って自らのA社の営業活動を始めました。A社の営業のためにX社の許可なく、X社のパソコン、プリンター、設計ソフト等を使用し、X社の勤務時間中にA社の営業電話をかけました。A社は、2020年12月から2022年11月にかけて、複数の顧客との間で住宅の新築工事請負契約を締結しました。
顧客情報を自分の会社に横流し、そして提訴へ
2023年1月、X社内において、YがA社の業務を行っているという疑義が生じ、不正調査チームが組成されました。同年3月、Yに対するヒアリングが行われました。事実関係を把握した上で、2023年3月にX社はYを懲戒解雇する処分を下しました。
その後、X社は2023年7月、Yを大阪地方裁判所へ提訴しました。X社の営業社員が展示場やコネクションにより多額の費用と労力をかけて集積した「営業秘密」である顧客情報をYが不正に持ち出し、利用したという不正競争防止法違反があると主張しました。
逸失利益は、Yによる顧客の横取り行為がなければ受注できていた請負代金合計額1億4,515万5,961円に、X社の粗利率29.8%を乗じた4,325万6,476円。これに、弁護士費用432万5,647円を加えた合計4,758万2,123円がX社の損害額であるとして請求しました。
これに対してYは、A社が受注した顧客は低予算であり、X社との間で請負契約を締結する可能性はなかったため、X社に逸失利益は生じていない、また、A社はX社よりはるかに低価格で新築住宅の建築工事を請け負っており、ほとんど利益は生じていないと反論しました。
判決「営業秘密とは認められない」
不競法2条6項は、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものを「営業秘密」と定義します。
しかし、本件におけるX社の顧客情報は基幹業務システムにログインしさえすれば、1,700人前後のX社従業員が社用パソコンや私用スマホからアクセス可能な状態にあり、紙媒体への印刷も可能であったことから「営業秘密」とは認められないとしました。
また、予算が足りずにX社へは発注できない顧客情報であり、X社との成約見込みはないとして基幹業務システムから削除されたものであり、有用性も認められないとしました。裁判所はX社の請求をいずれも理由がないと棄却し、訴訟費用はX社の負担としました。(2025年2月13日 大阪地裁)
建設業界の伝統と連携
建設業会は伝統と連携がある業界です。たとえば、世界最古の企業・金剛組は建設業です。「大工の神様」とも呼ばれる聖徳太子が四天王寺建立のために百済から招いた工匠・金剛重光によって設立されたのが金剛組で、四天王寺のお抱え宮大工として、1400年以上にわたり社寺建築の技術と心を伝承してきました。
織田信長の焼き討ち、大坂冬の陣など四天王寺は7度焼失しました。その都度、金剛組が再興に取り組み、試練を乗り越えてきました。しかし、平成の時代、金剛組自身が危機に陥ります。神社仏閣にもコンクリート建築が増加したことにより大手ゼネコンとの価格競争に巻き込まれた結果、売上の減少や資金繰りの悪化により経営危機に見舞われました。この2005年の経営危機に、髙松建設が支援しました。金剛組は再建され、髙松コンストラクショングループの一員として、グループ企業と連携し、伝統を守りながら事業を続けています。
X社で支店長を任されていたYは、よりローコストな住宅を消費者に届けたいと願って独立を思い立ちました。A社で受注した案件でもほとんど利益をとっていないと言っています。それがYの志であったのなら、Yには、X社では対応できない低予算案件を請け負いX社と連携するという選択肢もあったのではないでしょうか。

