右から、住友林業株式会社 建築事業部 佐藤輝典氏(建築部長兼工事グループ グループマネージャー)、澤村大輔氏(建築部 工事グループ 安全・品質チームリーダー)

右から、住友林業株式会社 建築事業部 佐藤輝典氏(建築部長兼工事グループ グループマネージャー)、澤村大輔氏(建築部 工事グループ 安全・品質チームリーダー)

【住友林業】330年の伝統を木造技術で未来へ。「佐嘉酒造」リニューアルと中大規模木造建築の最前線

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、建設業界は今、歴史的な転換点に立たされている。資材調達から建設、廃棄に至るまで、サプライチェーン全体におけるCO2排出量の削減が急務となる中、非住宅分野での中大規模木造建築のうねりは日々力強さを増している。ESG投資の観点や、相次ぐ法改正を背景に、ゼネコン各社や大手ハウスメーカーがしのぎを削る中、圧倒的な技術力と独自のバリューチェーンを武器に業界を牽引しているのが住友林業だ。

同社は、RC造と木造を組み合わせた「ハイブリッド建築」の実証として、6階建て社宅を竣工させるなど、木造の可能性を広げるプロジェクトを手がけている。森林経営から木材の製造・流通、そして建築に至るまで「木」を軸とした事業を展開する同社の強みは、その独自の事業展開にある。

さらに今、業界の熱い視線を集めているのは、単なる技術的ショーケースにとどまらない。佐賀県で330年以上の歴史を誇る老舗蔵元、「佐嘉酒造(さがしゅぞう)」の全面リニューアルプロジェクトでは、木造建築技術を取り入れ、施設を新たな姿へと刷新した。

今回は、住友林業の建築事業を牽引するキーパーソンである佐藤輝典氏(建築部長)と、佐賀の現場で実際に陣頭指揮を執った澤村大輔氏(安全・品質チームリーダー)に、佐嘉酒造の建設現場で繰り広げられた知られざる技術的ハードル、酒蔵がもたらした地域の活性化、現場監督と地元の職人たちが強固な人間関係で紡ぎあげた「モノづくりの真髄」について話を聞いた。

非住宅木造建築の現在地と「次なるステージ」への技術的布石

――現在の「建築事業部」の動きはいかがですか。

佐藤輝典氏(以下、佐藤氏) 非住宅分野の木造化・木質化を推進する事業を、当社では早期から「木化(モッカ)事業」と位置づけ、専門部署を設置して市場を開拓してきました。その後、事業規模の急速な拡大に伴い、2022年1月に「建築事業部」へと統合・発展し、5年目を迎えています。

「木造の知見を世の中に広く社会実装していく」というミッションのもとで、現在はS造やRC造とのハイブリッド建築の導入を進め、技術やノウハウの高度化を図っています。

――最近の中大規模木造建築にはどのようなものがありますか?

佐藤氏 代表的なものとしては、ハイブリッド建築の6階建ての住友林業社宅「みどりのの庭」(茨城県つくば市、2025年5月末竣工)があります。ここでは、RC造と木造のハイブリッド建築などを通じて、中大規模木造建築における知見を深めました。

具体的には、建築の中央部にRC造を配置し、その両端を木造とする構造計画を採用しました。地震や風による建築全体の「水平力」を全て中央のRC造に負担させることで、木造部分にかかる構造的な負担を軽減させているのが特徴です。

住友林業社宅「みどりの庭」

一方、2026年3月に全体完工した「愛知県立春日井高等学校 1号棟校舎建替え工事」では、つくば社宅とは異なったアプローチをとりました。同じ平面混構造でありながら、「中央部分が木造、両端部分がRC造」という構造を採用している点が最も大きな特徴です。

さらに、この春日井高校の校舎では、建築全体で約453m3の木材を使用し、そのうち約65%(約290m3)に愛知県産材を採用しています。こうした取組みも含め、私たちは現状の技術レベルを固定的な「到達点」とは捉えず、用途や条件に応じて構造や材料の最適解を探りながら、実績を積み重ねていくことで、中大規模木造建築のさらなる発展につなげていきたいと考えています。

愛知県立春日井高等学校の1号棟校舎

――2017年には熊谷組との業務・資本提携により、ハイブリッド建築への進化を試みましたが、現在の進捗はいかがでしょうか。

佐藤氏 提携以来、中大規模木造建築の市場開拓などで強固な協業体制を築いてきました。現在も熊谷組とは様々な工法を駆使し、新たな社会実装の試みを続けています。今後とも両社がそれぞれ開発してきた技術内容を融合し、これまでにない新たな建築を手掛けていく方向性について、提携当時のスタンスと変化がありません。

参考記事

住友林業と熊谷組の提携、ハイブリッド建築とワンストップサービスの時代へ

――中大規模木造建築での住友林業としての強みはどこにありますか?

佐藤氏 何よりも強調したいのは、当社グループ独自のバリューチェーン「ウッドサイクル」というビジネスモデルです。森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅・中大規模木造建築の請負や不動産開発、さらには木質バイオマス発電に至るまで、「木」を軸とした事業をグローバルに展開しています。

この「ウッドサイクル」を回すこと、つまり森林のCO2吸収量を増やし、木造建築で長期間にわたり炭素固定することで脱炭素社会へ貢献できるのです。こうした環境価値への取り組みは、お客様からも共感をいただいています。


初の酒蔵再生プロジェクト完遂

樽貯蔵庫(木造2階建)の外観

――今回は、歴史ある「佐嘉酒造」の全面リニューアルという非常に特殊で意義深いプロジェクトに携わられました。このプロジェクトにおける関わり方や、背景について教えてください。

佐藤氏 佐嘉酒造のリニューアルに関しては、当社は「デザイン監修」という立場で関わらせていただきました。施工についても、全3期のうち、「第1期工事」と「第3期工事」を担当しました。

このプロジェクトに参画した背景には、佐嘉酒造を傘下にもつ「地域みらいグループ」と当社が、九州地区の住宅事業を通じて以前から協力関係にあったことが挙げられます。同グループは、地元・佐賀で由緒ある酒蔵を、単なる酒の製造ラインとしてではなく、「地域の皆様の交流拠点」そして「世界へ向けた発信拠点」として継承していきたいという、ビジョンを持たれていました。

当社にとって酒蔵の建築に携わるのは今回がはじめての挑戦でしたが、大変貴重な経験となりました。今後はこの経験と、強みである木造の知見を活かし、様々な中大規模木造建築を推進していきたいと考えています。

――世界への発信拠点としての役割を、空間デザインとしてどのように具現化したのでしょうか。

佐藤氏 私たちのデザイン監修としての最大の役割は、「木をどのように使い、どう表現するか」という意匠的な付加価値を持たせることです。歴史ある酒蔵の風景、周囲の自然環境との調和を次世代へと継承しながら、木材の温もりと建築としての機能を最大限に引き出しました。

酒造りの命を守り抜く「ゼロタッチ」の施工思想

――第3期工事で御社が手がけられた「樽貯蔵庫棟」は。どのようなアプローチをされましたか?

澤村大輔氏(以下、澤村氏) 「樽貯蔵庫」は木造2階建ての建築です。外観は白と黒のモノトーンを基調とし、伝統的な日本の酒蔵が持つ厳かな統一感、景観との連続性を持たせたデザインとしています。

一方で内部空間については、自然素材の持つ「調湿機能」をフルに活用する設計としました。強固な木のフレームをあえて現し(あらわし)にし、内壁には黒く塗装した木毛(もくもう)セメント板を全面に張り巡らせています。自然素材である「木材」をあえて現しにすることで、建築そのものが呼吸をし、酒造りに不可欠な「調湿作用」を自然に生み出すような環境を構築しているのです。

また、この建築には空調設備が一切ありませので、「空気が淀まないようにすること」に一番気を遣いました。空気が淀むと湿気が溜まり、カビや雑菌の繁殖に繋がってしまいます。そのため、いかに「重力換気」や「風力換気」といった自然換気のメカニズムを生み出せるか、窓の位置や開口部の抜けには非常に配慮しました。

設備の力に頼り切るのではなく、素材そのものの力で内部環境をコントロールする。これもまた、木を知り尽くした住友林業ならではの「魅せる建築」の一つの解だと考えています。

「樽貯蔵庫」の工事の様子

――中大規模木造建築、しかも酒蔵という特殊な用途ゆえの技術的ハードルは、具体的にどのようなところにありましたか?

澤村氏 躯体工事の根本的な特性についてお話しますと、現代の木造建築における柱や梁といったフレーム材は、事前に工場で精密にプレカットされて現場に搬入されます。たとえばS造であれば、現場でボルトを締める際に、穴の径や接合部にわずかな「遊び(クリアランス)」を持たせて微調整することが可能ですが、木造のプレカット材による接合部は、金物と木材が完全に密着するよう設計されており、基本的に「ゼロタッチ(遊びが全くない状態)」で組み上げていかなければなりません。

「樽貯蔵庫棟」の屋根の部分

――遊びが一切ないということは、土台となる基礎の段階で、すでに完璧な精度が要求されるということですね。

澤村氏 木造の柱は、基礎コンクリートから立ち上がっているアンカーボルトに対して、ズレが一切許されず、そのまま「ドン」と乗ります。後からの帳尻合わせが効きません。そのため、足元の基礎工事の段階におけるアンカーボルトの位置出し、および基礎天端(てんば)のレベル管理には大変気を遣いました。

測量機器を用いたミリ単位の確認を幾度も繰り返し、コンクリート打設時のわずかなズレすら生じさせないよう、基礎業者とも綿密な打ち合わせを徹底しました。ここでの精度管理を徹底した結果、上棟の際に木材が素直に組み上がったのです。

「樽貯蔵庫」内観


職人との信頼関係の構築

――困難なハードルが山積する現場において、現場を指揮する監督は職人たちとどのように連携を図られているのでしょうか。

澤村氏 どのプロジェクトにおいても初期段階は、工程管理や品質管理の前に、まずは日々のコミュニケーションを通じて信頼関係を築いていくことに意識を置いて取り組んでいます。

――とくに木造の中大規模木造建築となると、職人にとっては未経験であるケースも多く、納まりが理解しづらいこともあるのではないでしょうか。

澤村氏 普段は公共工事やS造などをメインに施工される職人さんにとって、当社が手掛ける中大規模木造建築は新しい取組みとなります。そのため、進め方を丁寧に共有していくことが重要だと考えています。複雑な納まりを曖昧なまま進めてしまうと、品質の低下や、思わぬトラブルに直結しかねないからです。

そこで、「ここはこういう納まりにする」という具体的な図解や3Dのスケッチを自ら描き、現場に持ち込んで視覚的に共有します。職人さんが迷いなく手を動かせる環境を整えること。技術的に高度な要求をするからこそ、コミュニケーションの解像度を極限まで高め、対話を重ねることで円滑な現場運営につなげています。

――そうした対話は現場運営にどのような影響をもたらしていますか。

澤村氏 コミュニケーションを重ねながら関係性を深めることは重要ですが一方で、品質や安全を担保する為には一定の緊張感も欠かせません。そのバランスを意識して現場運営を行うことで、互いに信頼しながら役割を果たす、安定したチームとしてプロジェクトを進めることができたと感じています。

中大規模木造建築のさらなる普及を目指して

――酒蔵が地域にもたらす価値は大きいと思いますか。

佐藤氏 330年以上という由緒ある歴史を持つ酒蔵を、地域の皆様にどう受け入れていただけるか。周辺の風景や地形といった歴史的コンテクスト(文脈)を残しつつ、現代の中大規模木造建築の技術をいかに融合させていくか。何より、お施主様の想いをどう具現化するかを大切に、様々な試行錯誤と新たな試みを組み入れていきました。

完成した建築を見たお施主様が心から喜んでくださり、地域の方々が誇りに思ってくださる姿を見たとき、我々が提供しているのは単なる「ハコモノ」ではないのだと強く実感しました。

この酒蔵が将来、地域の方々の交流の場となり、あるいは国内外からの日本酒ファンの観光拠点として地域に深く根ざしていくことを想像すると、ものづくりに携わる者としてこれに勝る喜びはありません。

――建築事業部ではどのような人材を求めていますか?

佐藤氏 第一に、木造建築に対して強い関心と挑戦心を持っている方です。従来、S造やRC造のみを専門に扱ってきたからといって木造を敬遠してしまうのではなく、「新たな可能性にチャレンジしたい」という意欲を持つ方を強く求めています。

現場の職人とも緊密にコミュニケーションを図り、協調性を持って前向きに取り組める人財が理想ですね。 現在、当事業部は急速に拡大しており、多くのゼネコン出身者が即戦力として入社し、現場の最前線で活躍しています。

今後は木造と他構造を組み合わせた「ハイブリッド建築」の需要がさらに高まっていきますが、これらを成立させるには、S造やRC造における高度な知見が不可欠です。既存の構造に関する確かな技術力をベースに持ちつつ、木造への深い探究心を併せ持つような、幅広い視野を持った人財と共に、これからの市場を切り拓いていきたいと考えています。

――中大規模木造建築の分野において、御社は今後どのような方向を目指していくのでしょうか。

佐藤氏 今後の事業展望として強調しておきたいのは、ターゲットや用途を限定するつもりはないという点です。私たちは「中高層の木造マンション」や「特定の商業施設」といった枠にとどまることなく、中大規模木造建築の可能性を追求し続けます。

今回のような酒蔵のリニューアルはもとより、教育施設や福祉施設、宿泊施設に至るまで、純木造・ハイブリッド建築を問わず、多様な用途に対して当社の知見をフル活用し、幅広く挑戦していく方針です。

あらゆるプロジェクトから得られる知見を蓄積し、フィードバックしていくことこそが、次世代の建築事業部を形作る力となります。今回の「佐嘉酒造」で得た経験も、我々の重要な財産として次の現場へ確実に継承していきます。建築事業部内では、各チームが互いに刺激し合いながら、高いモチベーションを持って新たな領域の開拓を楽しんでいる、そんな活気に満ちた風土が育まれています。

私たちが目指すのは、ただ建築を建てることではありません。これからも木造建築の可能性を切り拓いてまいります。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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