初の酒蔵再生プロジェクト完遂
――今回は、歴史ある「佐嘉酒造」の全面リニューアルという非常に特殊で意義深いプロジェクトに携わられました。このプロジェクトにおける関わり方や、背景について教えてください。
佐藤氏 佐嘉酒造のリニューアルに関しては、当社は「デザイン監修」という立場で関わらせていただきました。施工についても、全3期のうち、「第1期工事」と「第3期工事」を担当しました。
このプロジェクトに参画した背景には、佐嘉酒造を傘下にもつ「地域みらいグループ」と当社が、九州地区の住宅事業を通じて以前から協力関係にあったことが挙げられます。同グループは、地元・佐賀で由緒ある酒蔵を、単なる酒の製造ラインとしてではなく、「地域の皆様の交流拠点」そして「世界へ向けた発信拠点」として継承していきたいという、ビジョンを持たれていました。
当社にとって酒蔵の建築に携わるのは今回がはじめての挑戦でしたが、大変貴重な経験となりました。今後はこの経験と、強みである木造の知見を活かし、様々な中大規模木造建築を推進していきたいと考えています。
――世界への発信拠点としての役割を、空間デザインとしてどのように具現化したのでしょうか。
佐藤氏 私たちのデザイン監修としての最大の役割は、「木をどのように使い、どう表現するか」という意匠的な付加価値を持たせることです。歴史ある酒蔵の風景、周囲の自然環境との調和を次世代へと継承しながら、木材の温もりと建築としての機能を最大限に引き出しました。
酒造りの命を守り抜く「ゼロタッチ」の施工思想
――第3期工事で御社が手がけられた「樽貯蔵庫棟」は。どのようなアプローチをされましたか?
澤村大輔氏(以下、澤村氏) 「樽貯蔵庫」は木造2階建ての建築です。外観は白と黒のモノトーンを基調とし、伝統的な日本の酒蔵が持つ厳かな統一感、景観との連続性を持たせたデザインとしています。
一方で内部空間については、自然素材の持つ「調湿機能」をフルに活用する設計としました。強固な木のフレームをあえて現し(あらわし)にし、内壁には黒く塗装した木毛(もくもう)セメント板を全面に張り巡らせています。自然素材である「木材」をあえて現しにすることで、建築そのものが呼吸をし、酒造りに不可欠な「調湿作用」を自然に生み出すような環境を構築しているのです。
また、この建築には空調設備が一切ありませので、「空気が淀まないようにすること」に一番気を遣いました。空気が淀むと湿気が溜まり、カビや雑菌の繁殖に繋がってしまいます。そのため、いかに「重力換気」や「風力換気」といった自然換気のメカニズムを生み出せるか、窓の位置や開口部の抜けには非常に配慮しました。
設備の力に頼り切るのではなく、素材そのものの力で内部環境をコントロールする。これもまた、木を知り尽くした住友林業ならではの「魅せる建築」の一つの解だと考えています。
――中大規模木造建築、しかも酒蔵という特殊な用途ゆえの技術的ハードルは、具体的にどのようなところにありましたか?
澤村氏 躯体工事の根本的な特性についてお話しますと、現代の木造建築における柱や梁といったフレーム材は、事前に工場で精密にプレカットされて現場に搬入されます。たとえばS造であれば、現場でボルトを締める際に、穴の径や接合部にわずかな「遊び(クリアランス)」を持たせて微調整することが可能ですが、木造のプレカット材による接合部は、金物と木材が完全に密着するよう設計されており、基本的に「ゼロタッチ(遊びが全くない状態)」で組み上げていかなければなりません。
――遊びが一切ないということは、土台となる基礎の段階で、すでに完璧な精度が要求されるということですね。
澤村氏 木造の柱は、基礎コンクリートから立ち上がっているアンカーボルトに対して、ズレが一切許されず、そのまま「ドン」と乗ります。後からの帳尻合わせが効きません。そのため、足元の基礎工事の段階におけるアンカーボルトの位置出し、および基礎天端(てんば)のレベル管理には大変気を遣いました。
測量機器を用いたミリ単位の確認を幾度も繰り返し、コンクリート打設時のわずかなズレすら生じさせないよう、基礎業者とも綿密な打ち合わせを徹底しました。ここでの精度管理を徹底した結果、上棟の際に木材が素直に組み上がったのです。





