自殺を考える施工管理技士や設計技術者の気持ち
先日、新国立競技場の建設工事現場に勤務する若い現場監督が残業212時間以上に達し、自ら命を断つという悲しい出来事がありました。おそらく、この現場監督以外にも、自殺を真剣に考えたことがある施工管理技士や設計技術者はかなりおられるんじゃないかと推測します。
私もその1人です。ひと月の残業時間が200時間どころか、300時間に達し、気づいたときには「ラクになりたい」の一心で、電車に飛び込むことを考えたり、車の流れに飛び込むことを真剣に考えたりしたこともあります。
もうかなり前になりますが、私は某県にて災害復旧の仕事をしていました。そこで私は自殺願望を抱くことになりました。
時期は秋。翌年1月の国会での審議に予算を間にあわせるため、復旧の査定業務が急ピッチで進められていきました。日々何かしら打ち合わせが入り、あるいは提出資料の確認や検証などで、私は何度も何度も発注者の事務所に赴きました。
しかし、一度決まったことがそこで突然変わったり、方針が2転3転したり、仕事を進めては戻り、戻っては進めての繰り返しで、なかなか前に進まなかったのです。ときには夜中に発注者の事務所に呼び出されて説教されたこともありました。
家に帰るのは週2回。牛丼もラーメンも味がしない
今思えば、経験が浅かった私の要領がなってなかったのが最も大きな要因でした。当時、私は毎日朝から翌日の朝方(5時とか6時頃)まで仕事して、自分の机で寝て、8時頃に起きてまた仕事、という日々でした。時々家に帰ってましたが、週に2回くらいだったと記憶してます。
そうこうするうちに味覚がおかしくなり、牛丼やラーメン食べても味がしなくなったり、いつしか表情もおかしくなっていたようで、同僚から声をかけてもらえなくなっていきました。あとで聞いたところ、目がイッちゃってると言われました。
ある日の夜中、家に帰るとき、歩道を歩いていたんですが、行き交う車を見て、「ここで飛び込んだら、ラクになりそう」という思いが湧き、しばらくその場で考え込んでいました。
勇気が無く飛び込むことはしませんでしたが、そんな時が何度もありまして、本気で自殺しようか迷っていました。私は気づかなかったのですが、当時は表情が明らかにおかしかったらしく、仕事が一区切りついた時に上司から「自殺するんじゃないかと毎日毎日気が気じゃなかった」と言われました。
結局、自殺する勇気はなく、今も建設業で仕事しています。で、私自身も自殺を考えたことがある技術者として、1つ断言できることがあります。それは「自殺はダメ!絶対!」ということです。その時は辛くても、その辛さはずっと続くわけではなく、一時的なものです。一時的なものといっても、長い時は2~3年続くことはありますが、10~20年続くなんてことはまずありません。
施工管理技士や設計技術者は2~3年の辛抱が重要
命あればどんなに辛くてもどうにかなるし、どうにかできるんです。
例えば、今の職場で働いていて辛くてしんどくてきつくてどうしようもない、ということであれば、一定期間休みをもらってのんびりしたり気分転換する、という選択肢があります。もしくは転職して環境を一新することも可能です。会社を変わりたくなければ現場を変わればいいし、もしくは内勤を希望して支店や本社の技術部・設計部などに移る、という道もあります。もしも自分で命を断ってしまったら、それらの道はことごとく絶たれるわけです。けど、命さえあれば、極論何でもできます。どうにかなります。
以前、「施工の神様」の記事「自殺するな、転職するな」上司が嫌なヤツでも、現場は2年の辛抱だ!で、こんなことが書かれてありました。
「建築現場は大抵2年で終わる。2年我慢すれば上司も変わる。上司と合わないからと言って辞めるのはバカらしいぞ」
たしかに多くの現場は2年か3年で異動になることが多いです。私も多くの現場を経験してきましたが、多くの技術者は2~3年で別の現場や本社・支店に異動していました。特に最近はどの現場も人手不足なので、異動したい!と希望すれば異動しやすくなっていると思います。
現場によっては、合う人合わない人、居心地が良い悪い、仕事が面白いつまらない、仕事がラクキツイといった点は何かしらあると思います。イヤになることだってあります。私も何十回とあります。体を壊してフェードアウトしたこともあります(最低なことです)。ただ、自殺まですることはない、とも思うんです。生きていれば、どうにかなるし、どうにかできるので。
「自分の体験」を押し付ける風潮が強い建設業界
少し話変わりますが、建設現場には「俺が我慢してきたんだから、お前も頑張れよ」というニュアンスのことを言う人がいます。バリバリやってこられた方によく見られるようで、建設業界はそんな人がたくさんいます。
以前はひと月に1~2日の休みが取れれば良かった、なんて話もちょくちょく聞きます。実際、そんな時代もあったようですが、その当時と今とでは求められるものが全く違います。それを認識してるかどうか定かじゃないですが、求められるものや時代背景が違うのに昔の考えを今も踏襲するのはいかがなものか、と思います。
もちろん、古くても良きものは残していった方が良いですが、昔の自分の経験や価値観を周りに伝え染め上げようとする風潮が、建設業界は特に強いように思います。新国立競技場の過労自殺の件は、こうした要素も絡み合っている可能性があるでしょう。
現場所長や現場代理人という立場であれば、もっと長く同じ現場にいることもありますが、ヒラの立場であれば2~3年、もしくは1つの工種が終わるタイミングで、次の現場ということになることが多いです。
ここさえ我慢してしまえば、新たな場所でやれる、というのは確定しているようなもの。もし同じ会社で仕事をするのが我慢ならないようであれば、会社を変わったっていいんです。命さえあればどうにかなるしどうにかできるものです。自殺だけはダメ!絶対!ということを、特に若手の建設技術者には頭の片隅に入れておいてもらえると幸いです。