「現場を仕上げる感動こそ、土木のやりがい」中村建設の技術者鼎談

「自分の仕事に感動できるか」が、土木技術者の分かれ道

ベテランと若手の土木技術者インタビューのはずが・・・

中村光良社長率いる中村建設株式会社(本社・奈良市)には、20名の土木技術者が働いています。中村建設株式会社の土木技術者は、どのような思いで土木の仕事に携わっているのでしょうか?

当初は、ベテランと若手の技術者へのインタビューの予定でしたが、なぜか中村社長も参加。急きょ企画変更し、中村社長と2名の土木技術者へのインタビューとなりました。

藤井さんはなりゆきで入社、植田さんはほぼ強制入社

藤井庸人 中村建設株式会社技術本部副本部長

施工の神様(以下、施工):土木の世界に入ったきっかけは?

藤井庸人さん(以下、藤井):大阪の私立の工業高校に入ったことです。中学時代に進学先を選んだ時点で、私の人生は決まりました(笑)。高校では建築、大学で土木を学びました。別に土木が好きでもなんでもなく、将来立派な技術者になりたいという思いもなかったです。仕事としてやるからには、少しでも良い技術者になろうとは考えてきましたけど、今ある自分は、ただの流れ、なりゆきの結果です(笑)。

施工:卒業後に中村建設入社ですか?

藤井:平成13年に途中入社しました。その前は別の建設会社に勤めていました。

施工:中村建設に転職した理由は?

藤井 中村建設の前に勤めていた会社が下請け会社だったので、現場を総合的に管理する仕事をしたいと思ったからです。

植田育宏 中村建設株式会社技術本部土木担当

施工:植田さんの土木のきっかけは?

植田育宏さん(以下、植田):普通科の高校を卒業後、奈良市内の専門工事会社に就職し、中村建設の下請けとして、現場作業をするほか、複数の会社をまとめる元請けとの折衝役、番頭さんのような仕事を8年ぐらいしていました。

施工:その後、中村建設に転職したと?

植田:父親の知り合いに中村社長がいて、父親の強いススメで、中村建設に転職しました。正直、自分の意思ではなかったです(笑)。

藤井:私はなりゆき入社で、植田くんはほぼ強制入社です(笑)。

中村光良社長(以下、中村):入社理由としては最悪やなあ(笑)。

施工:なかなか赤裸々な(笑)。

中村:でも、植田くんぐらいの世代はこんな感じですよ。

中村光良 中村建設株式会社社長

土木の仕事は「はい。今日で終わり」というときの快感が格別

施工:土木の仕事のやりがいは?お金という人もいますが。

藤井:私の知り合いで、東日本大震災の後、お金が良いからという理由で、東北の現場に飛びついた技術者が何人かいました。また、同じ理由で、何回も転職する人間も知っています。しかし、その後の彼らを見ていて、良い結果を得られているとは感じません。私自身、お金を軽んじているわけではありませんが、年収が50〜100万円増える程度で、現場や会社をコロコロ変えようと考えたことはありません。

土木のやりがいは、やはり、一つの現場が終わった瞬間ですね。他の職種では味わえない土木ならではの達成感だと思います。いろいろな問題を解決しながら、完成にこぎつけ、「はい。今日で終わり」というときの快感は格別です。これは1,000万円の現場でも1億円の現場でも同じで、これを味わいたくて、続けている感じです。

施工:やっている間はツライ分、終わったときの快感が大きい?

藤井:本音では「現場に行きたくない」という気持ちが常にあります(笑)。

施工:やっと現場から解放されたという快感ですか?

藤井:そうです。解放感です。


一つの現場で発注者が別々。社員全員の記憶に残る「修羅場」

施工:これまでで印象に残っている現場は?

藤井:西名阪自動車道まほろばスマートICの現場です。この現場は、NEXCO西日本と奈良県から、同じ場所でそれぞれの工事が発注され、たまたま両方とも中村建設が受注しました。私は奈良県発注の工事現場の所長をしていて、植田くんはNEXCO発注の現場で働いていました。

同じ現場で同じ会社だから、スムーズに工事が進められると考えられがちですが、「一つの現場で発注者が違うとこんなに大変なのか」というぐらい、非常に苦労しました。正月返上で何とかやり切りました。終わったときの解放感たるやモノスゴイものがありました(笑)。

中村:その現場は、藤井くんだけではなくて、中村建設株式会社が受注した仕事の中でも、いろいろな意味で最も大変な現場でした。NEXCOからの発注はスマートインターの設置工事、奈良県からの発注はスマートIC設置工事に伴う側道の移設工事でした。

藤井:現場は毎日が戦争でした(笑)。

施工:どういうところが大変だったんですか?

藤井:うちの工事が終わらないと、向こうの工事ができない、その逆もあった、ということの繰り返しですね。

施工:同じ会社同士の現場でも、そういうことがあるんですね。

中村:同じ中村建設株式会社だったから、これぐらいで済んだんです。別の会社だったら、もっと大変でしたよ。

藤井:別の会社だったら、殴り合いの喧嘩になっていたはずです(笑)。

中村:実質的には一つの現場だったので、一緒に工事をやりながらも、発注者との打ち合わせは、NEXCOと奈良県と別々でやります。すると、ある一つの工事の進め方について、発注者から出てくる答えが違ったりするわけです。言われた現場は「どうすんねん」という話になります。別々の会社だったら、間違いなく殴り合いになっていたでしょう(笑)。「何がスマートやねん、ボケ!」とか言いながら(笑)。

振り返ると、NEXCOの仕事は、受注するまでも大変だったし、受注してからも大変だったし、決算は大泣きだったし、いろんな意味で、全部門が一番心に残る仕事です(笑)。

「使いなさい」ではなく、技術者の「使いたい」を尊重する

施工:植田さんにとって土木のやりがいは?

植田:藤田さんと同じですが、竣工したときの喜びですね。最近、ドローンなどのICT関係の新技術が出ていますが、これによって現場の仕事がどう変わるのか、興味を持っています。今、奈良県発注の富雄川の橋台工事で、初めての現場所長を任されています。迂回路を施工するのに盛土をするのですが、打ち合わせしながら、ブルドーザーとローラーの情報化施工を考えているところです。ICTを実際に使うのは私も初めてで、どれだけ人手が減るのか、スピードがどうなるのか、今のところ全然わかりませんが、中村社長に「使って良いよ」と許可をいただいたので、勉強させてもらうことになっています。

中村:富雄川の現場は、ICT活用指定の現場ではないのですが、植田くんが自主的にICTを使いたいと提案してきた案件なんです。ICT指定は、奈良県発注ではこれまで一件あっただけで、土木技術者としてICTを経験する機会がありません。そのままにしておくと、ICTを使っている技術者との差がどんどん広がってしまいます。費用を考えたら、「ICTを使わんといけ」が正解なのですが、土木技術者としての先を考えたら、「ここはICTをやろう」です。私としては「使いなさい」ではなく、「使いたい」を尊重したわけです。

藤井:中村社長のこういう姿勢は、他の建設会社にはないところだと思います。この現場でICTを使いたい、ついては数百万円かかりますと提案した場合、普通の会社なら「アホか」で終わりです、ところが、中村社長は「やれ」と言ってくれるので、技術者としてありがたいと感じます。

中村:その判断は感覚です。彼らが利益率などをチェックした上で提案しているのを知っているので、よほどのことでない限り、ひっくり返したりしません。社員には「やりたいことがあったら、すぐにやりなさい」と言っています。躊躇したら、人間はやらない方にしか歩まないものですから。あと、私もICTを生で見てみたいんで(笑)。

植田:ICTもまだ100%ではありません。不具合も出ます。そういうところをメーカーさんと一緒に考えていけたらと思っています。

施工:これまでで印象に残っている現場は、やはりスマートICですか?

植田:そうです。印象が強すぎて、夢に出てきますね。工程管理などを担当していましたが、初めて今日が何曜日がわからなくなった現場です(笑)。こんなに忙しかった現場はないですね。

施工:初めての現場所長はどうですか?

植田:わからないこともありますが、いろいろ相談しながら、とりあえず工期内に終わらせたいという気持ちです。工期的に厳しいので、ちょっとでもつまづいたら、工期内に終わりません。とにかく、つまづきがないように工事を進めていくことを心がけています。


20代の土木技術者には頭ごなしに言うか、優しく言うか悩む

施工:土木技術者の育成で心がけていることは?

藤井:植田くんぐらいの年代、30歳ぐらいの技術者は、あまり気をつかわなくて良いんです。仕事をドジドシ出しても、こなしてくれるんです。ところが20代になると、同じことをすると仕事を辞めるんじゃないかと、こっちが不安になるんです。その分、言い方とかに非常に気を使いますね。気をつかい過ぎたら相手も不安になるので、本当に難しいところです。

若者は入社してもなかなか続かないんです。彼らが辞めないためには、本人に仕事を好きになってもらうしかありません。快感とか達成感を味わってもらうことが必要です。そこまでもっていくのに苦労しているわけです。現場では皆が日々同じ目的に進んでいるんだ、ということを感じさせたいのですが、頭ごなしに言って良いものか、優しく言えば良いのか、すごく悩んでいます。

中村:若手に現場を仕上げる感動を味わわせるのは、社長である私の役割です。「現場を仕上げたと言えるのは、担当のお前らだけやで」という話をよくするんです。まず「技術者本人が仕事に感動する」必要があります。その後、「仕事を通して、近隣住民に感動してもらう」という次の段階にステップアップしていくわけです。

われわれのお客さんは役所ではなく、住民です。道路工事をするのであれば、そこをどんな人が通るのかを考えた現場づくりをしなければなりません。例えば、子どもがたくさん通るのに、大人目線で注意喚起してもダメだということです。それに気づく気づかないは、些細なことかもしれませんが、私にしてみれば、技術者のレベルを測る重要な基準です。土木技術者としての幅ですよね。私は大事な能力だと考えています。

新人教育は本当に難しいです。昔は「俺の背中を見て学べ」で良かったですが、最近はそうはいきません。会社側の人間は「辞めた人間が悪い」と考えがちですが、私はわれわれの教え方が悪かったと考えるべきだと思っています。本人の資質の問題はありますが、会社も反省しないと、新人の退職が続いたら、会社経営の致命傷になりかねません。

たとえ資質に問題のある新人でも、極力接点を持って、会社に残ってもらうようにしなければなりません。ただ、辞めさせないことばかり気にするのは、経営的に本末転倒なことだとも考えています。「辞めてもしゃあないな」とドライに割り切ることが必要な場合もあります。

「全員残ってくれたら、ラッキー」というぐらい、土木技術者が欲しい

施工:若者の意識が変わってきている?

中村:昔とは全然違いますね。新人が大丈夫かどうかは、入社して1週間もしないうちにわかるんです。自分の考えや感情を表現できる子は、だいたい会社に残りますね。例えば、「コンビニにめっちゃカワイイ子いてましたわ」などということを自然に言える子です。

藤井:抱え込む人間は続きません。

中村:逆に、人見知りする子は、自分で抱え込むので、危ないです。こういう子のこの部分を開放するのが大事なんですが、ものすごく難しいです。

施工:どれくらい技術者を採用したい?

中村:3人なら3人、5人なら5人全員採用したいです。

施工:来る者は拒まず?

中村:そうです。「全員残ってくれたら、ラッキー」というぐらい、人は欲しいです。

施工:技術者の年齢構成は?

中村:先代の社長が若手をバサッとリストラしたので、今30歳代後半より上がいないんですよ。

藤井:今欲しいのは40歳前後ですね。

中村:リストラの話を聞いたとき、先代社長に「社長のお前がやめろ!」と怒鳴りましたからね(笑)。

中村建設は「依存から自立」への転換のため、社長は役員会に入らない

施工:中村社長に言いたいことなどはありますか?

藤井:私も小さい子どもがあるので、中村建設は続いていってもらわないと困るわけです。万が一、中村社長に大病などされると非常に困ります。今後は、お酒などのお付き合いは控えてもらいたいです。何より私のために、長生きして欲しいですね(笑)。

中村:わかりました(笑)。お付き合いをやめるわけにはいかないのですが、過度な飲酒は控えます(笑)。長生きを言ってくれるのは嬉しいんですが、藤井くんには、私が倒れたときの準備をお願いしたいですね。

藤井:それにはまだまだ時間がかかります(笑)。今は中村社長から投げられたことに対して、必死に取り組んでいる状態ですが、われわれが中村社長にどんどん提案していくような会社にしていきたいと思っているところです。今のそういう会社の方針を次の社長後継者にもつなげていって欲しいです。

中村:お前、社長に立ったらええやん?(笑)

藤井:いやいや(笑)、何をおっしゃってるんですか。

中村:はよ渡せと?(笑)

藤井:そういうことちゃいますやん(笑)。

中村社長「お前、社長に立ったらええやん?」藤井さん「そういうことちゃいますやん(笑)」。中村社長のクロスカウンターが決まった瞬間です。

中村:中村建設株式会社は今、「依存から自立」への転換期にあります。うちは、役員会に社長が入らないんです。藤井くんら5名の役員だけでやってるんです。聞きたいことだけ、私の方から聞くので、社長に対する「報連相」もないんです。変でしょ?

施工:変です。

中村:でも必要ないんです。中に入らないことによって、逆に、会社の状況が客観的に見えてくるんです。ただ、いつなんどき私の質問が飛ぶかはわからないんですけどね。私がするのは最後の承認だけです。

以前は私が会社の年度方針をつくっていましたが、私の要求と彼らの力量に乖離が起こるので、人間関係が壊れていくんです。だから、自分で年度方針をつくるのをやめたんです。今は彼らがつくっています。そうすると、成長が止まると考えてしまいますが、彼らはハードルをそれなりに上げたものを持ってきたんです。これが依存から自立への転換です。今のところ、それですべてうまくいっています。

施工:植田さんは?

植田:僕のために、女性技術者を採用してください。

中村:頑張ります(笑)。

施工:女性の技術者はいないんですか?

中村:一級建築士の女性がいましたが、辞めちゃったんですよ。私は女性技術者に反対ではありませんが、国土交通省は女性を意識しすぎだと思っています。女性技術者を配置したら加点するようになっていますが、やめるべきです。女性に関する施策は、国土交通省久しぶりの空振り三振ですね(笑)。建設会社は、男女を意識せずに採用していますからね。女性にも評判が悪いですよ。「男女関係なく扱ってくれ」という意見は多いです。経営者としては、そういう女性こそ欲しい人材です。

 


 

藤井さんは「なりゆき」、植田さんは「強制」で土木の世界に入られたとのことですが、特に目的や理想を持たずに土木の仕事を始めたところが、現場を経験しているうちに、土木にドップリ浸かったという人は、案外多いのかもしれません。たんに「指示されたものをつくる」のではなく、「自分の仕事に感動する」ことができるかどうかが、土木技術者として伸びていけるかどうかの分かれ道のようです。

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