山本建設株式会社の山本修代表取締役社長に聞く
山本建設株式会社は、高知県黒潮町を拠点に、60年以上にわたり建設業を営んできた会社です。平成29年度の高知県の建設業者ランキング(土木一式)ではAランク評価となっており、黒潮町を中心に高知県西部(幡多)のインフラを支える有力企業の一つです。
都市部に比べ、「ヒト・モノ・カネ」が圧倒的に乏しい「片田舎」の建設業は今どうなっているのでしょうか?
三代目社長として、ほぼ四半世紀にわたって山本建設株式会社をリードしてきた山本修代表取締役社長にお話を伺いました。
施工の神様(以下、施工):山本建設株式会社の歩みを。
山本正好(以下、山本):山本建設株式会社は、建築大工だった私の父親の山本正好が昭和26年に個人創業したのが始まりです。昭和45年に株式会社化しました。一般土木は創業以来、継続して請け負ってきましたが、昭和50年頃、漁港整備など港湾土木工事の需要が見込まれたことなどから、港湾の仕事も行ってきました。
施工:土木の勉強をしてから入社した?
山本:私が入社したのは、昭和44年です。私は土木ではなく、電気を勉強してました。私は男三兄弟の次男で、長男が大学で土木を学んでいましたので、兄が会社を継ぐだろうと思っていました。私は県外に出るつもりでしたが、父親に「会社に残れ」と言われ、そのまま今に至っています。
施工:その後、お兄さんが継いだ?
山本:昭和62年に父が亡くなり、兄が社長を継ぎました。平成5年3月まで兄が社長をやっていたのですが、兄が高知県議に転身したので、その後、私が三代目の社長になりました。弟が副社長をやっています。
施工:会社に入ってからの担当は?
山本:私は生コンを担当していました。昭和48年に幡東生コンクリート株式会社を設立したのですが、そちらをずっと見てきました。私が土木を担当するようになったのは、昭和53年ぐらいからです。
施工:高知県内のお仕事が中心ですか?
山本:そうです。
施工:公共工事が中心ですか?
山本:土木関係は、ほぼ100%官発注です。昭和50〜60年代は、港湾工事が半分以上を占めていましたが、今は20%程度です。最近は道路工事が半分以上ですね。船舶関係の海洋工事は、全国で下請け、孫請けを行っており、沖縄以外はほぼ全ての都道府県で仕事をしました。
施工:完工高は10〜17億円で推移しているようですが。
山本:スポットの案件が入ったときなどにより、増減はありますが、10億円ぐらいをメドにしています。今後は大変ですけどね(笑)
施工:津波対策などで今後も仕事はあるのでは?
山本:新庁舎建設など、黒潮町でのハード面での整備は、今年度中までにほぼ終わります。
田舎の建設業は、人手不足が深刻。社長自らスカウトも行う
施工:土木技術者の確保は?
山本:山本建設の1級、2級の土木施工管理技士は、ここ数年は、人の入れ替わりはありますが、15名程で推移しており、ここ3年間は、高卒の社員を1名ずつ採用しています。それ以前は、14年ぐらい新卒の採用はしていませんでした。その頃は、仕事量が減っていた時期だったので、なかなか採用の踏ん切りがつきませんでした。
田舎だと、どうしても公務員に行ってしまいます。そもそも、地元で就職する高校生がいないんです。今年うちに入った学生は、高知県建設業協会の高校生現場見学会で、うちの現場を見た学生で、「君、うちに入らないか」とスカウトした子です(笑)
施工:若者の確保にご苦労されている?
山本:うちのベテラン技術者は、40〜50代になっているので、あと10年経てば定年を迎えます。今の時点で20歳そこそこの技術者を入れておかないと、手遅れになる思いがあります。
私としては、あと1〜2年で身を引いて、息子に任せようと思っていますので、バトンタッチする前に、ある程度の道筋をつけておきたいという思いもあります。息子は34歳ですが、27歳から会社の仕事をやっています。今は、建設業協会の役員などの対外的な仕事は私、中の実務は副社長である弟が担当しています。今後は、兄の息子、弟の息子と三人で、会社を経営していってもらうことにしています。
施工:建設業協会の役員として、高知県の建設業の現状をどう見ていますか?
山本:高知県としても、県内の地元の建設業者がなくならないようにということを基本に、いろいろ施策を講じていると思います。最近では、国にしても、県にしても、建設業協会などの業界団体と積極的に意見交換するようになっており、建設業者が何に困っているのか、何を望んでいるのかなどの把握に努力されています。ここ5年間で、労務単価は毎年上昇していており、平成13年度の時の水準まで持ち直しています。
施工:建設業者は減っていますか?
山本:減っています。四万十市と黒潮町から成る中村支部では、20年前は88社ほどありましたが、今は48社ほどです。その48社ごとに、災害など何かあったときの緊急対応のエリア担当を決めています。黒潮町が34mの津波被害を受けたときには、近隣の市町から応援に来てもらうことになっていますが、何しろ34mの津波ですので、応援態勢がちゃんと機能するのか不安はあります。
施工:山本建設の社屋も被害を受けるでは?
山本:われわれの社屋がある場所の津波想定は高さ15〜20mで、ここはGL3mです。
施工:山本建設の社屋自体が危ないんじゃないですか?
山本:想定通りの津波が来ると、われわれも逃げるしかありません。社屋をはじめ、モノは全てなくなるので、津波想定区域外の遠くの場所に土地を確保し、遊休の機械や資材はすべてそちらに移動保管しています。
社員の残業が増えるから「書類ありますか」と聞かないで!
施工:国や大手ゼネコンでは週休2日制を進めていますが。
山本:先日、国土交通省四国地方整備局と建設業協会との意見交換会があり、ちょうどその問題が話題になりました。われわれを含め、地域の建設業者のほとんどが4週6休ですが、工期的に詰まっていなければ、われわれとしても休みを増やすことはできます。ただ、社員の技術者は月給制なので特に問題ありませんが、現場の作業員は日給月給制がほとんどなので、彼らの給料が減るという問題があります。作業員からは、休みを増やさないで欲しい、という要望が強いんです。
また、書類の簡素化を言いながら、むしろ年を追うごとに提出書類が増えているような気がします。国からは「いえ、減らしています」と言われましたが、実際のところ、検査のときの書類は減っていません。減ってない理由は、検査官に「この書類ありますか」と言われることがあるので、バックデータを持っていなければならないからです。私は国に対して、「検査官がこの書類ありますか、と聞かないでください」とお伝えしました(笑)
収入が安定すると、仕事への緊張感がなくなる作業員
施工:作業員の場合、休みを増やして日給を2割アップすれば良いのでは?
山本:それなりの補償があって実現できれば、それがベストだとは思います。同じ仕事をして、1日の単価が上がるほうが働く人にとっては一番良いでしょうね。ただ、今のところは、日給月給制なので「多くの日数を働きたい」という希望が強いです。
20年程前に、わが社も作業員を含め全員を月給制にした時期もありましたが、10年程前に又、作業員は日給月給制に戻りました。人間って面白いですよね。収入が安定してしまうと、逆に、仕事への 緊張感がなくなるところがあります。
施工:週休2日を守る会社のほうが、工期的には不利になるという問題もあるのでは?
山本:建設業で週休2日導入を協議しているのは、国と大手ゼネコンから成る団体です。大手はすでに週休2日を導入しているので、なんの問題もないわけです。しかし、そのゼネコンの下請けに入った作業員はかわいそうですよね。国との意見交換会では、週休2日はできないですか?」と質問されましたが、「いや、できないです」とお答えしました(笑)。われわれのような田舎の建設業者にとっては、「4週6休がベストだと思います」とも申し上げました。将来的には、週休2日に移っていくとは思いますが。
施工:「i-Construction」への対応は?
山本:いつでも受注できるよう、すでに用意はしています。経費については、試行工事で見積もりを出せば、変更でみてもらえるので、赤字になることはないです。ドローンよりも、スキャナーで現地計測するのが良いと思っているのですが、伐採などがちゃんとできていないと、確実に計測できないみたいです。なので工事発注前に、伐採作業をしてもらえれば良いんですが。最近、変更などによる手戻り工事が非常に多いんですよ。
うちは今、マシンガイダンスで計測していますが、別に不自由はないんですけどね。スキャナーで計測しても、岩盤線などの地点はマシンガイダンスで計測しなければならないので、手間はそれほど変わらないというのもあります。
最近は、ICTの進みが早いので、社員の技術者がそれを覚えるのに必死です。
施工:ICTは、若者向けではないですか?
山本:うちの新入社員は、既存の技術よりも、ICTの方に非常に強い興味を示します。今は、トランシットにしても、自動追尾になって、一人で測量して丁張りを入れるようになっています。ICTにより、管理業務は早くできるようになっています。
地元雇用のため、赤字覚悟でホテルを経営
施工:地域とともにある建設業の姿とは?
山本:うちでは、建設以外の仕事として、「ネスト・ウエストガーデン土佐」と「土佐佐賀温泉こぶしのさと」という地元ホテルを経営しています。周りは官設民営の指定管理のホテルや施設ばかりで、まったく太刀打ちできず、赤字状態です。ただ、両方で40名程度を雇用しているので、地元の建設会社として、少しは地域に貢献できているのかなと思っています。
施工:いつまでホテル経営を続けるつもりですか?
山本:やれる限り続けていくつもりです。建設業だけでなく、サービス業も元気になって、初めてまちの活性化になりますから。うちの商売だけを考えれば、ホテルはダメが結論ですが、それを割り切れないのが地域の結びつきなので、切り離せません。
施工:息子さんの代になると、どうなるかわからない?
山本:経営上、本来ダメな話ですから、息子の感覚によって、将来的に方針が変わることはあると思います。
田舎では、建設業が地元雇用を担うパターンは珍しくありません。ただ、それは本業である建設業によってであると思っていました。
山本建設株式会社のように、赤字とわかりつつ、ホテルにつぎ込むようなケースがあるとは知りませんでした。
山本建設株式会社のように、地元住民にあまり知られることもなく、わが身を削って、地元に貢献している田舎の建設会社は、全国的に少なくないのではないでしょうか?
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